第34章「手を置く場所」
砦に着いたのは、
夕方だった。
門はない。
だが、
人はいた。
ヨルが、
入口に立っている。
盾は前。
視線は、サラに向いていた。
「……誰や」
「……医者の助手」
クロが答える。
「……医者ではない」
「……それでも、
診れる」
ヨルは、
一瞬だけクロの杖を見る。
次に、
サラの手を見る。
「……入れ」
短い判断だった。
砦の中。
フェイが、
不安そうに立っている。
「……この子です」
サラは、
すぐに膝をついた。
「……触ります」
許可を待たず、
だが乱暴でもない。
レオの脈。
呼吸。
瞳。
サラは、
黙って診る。
時間が、
少し流れた。
「……すぐに
良くはならない」
フェイの肩が、
落ちる。
「……でも」
サラは、
はっきり言った。
「……悪くもならないよう、
できる」
フェイの目に、
涙が浮かぶ。
「……お願いします」
サラは、
うなずいた。
「……ここ、
静かやね」
ミケが、
思わず言う。
「……ええ場所や」
サラは、
砦を見回す。
「……治す場所やない」
「……生きる場所や」
ヨルが、
その言葉を聞いていた。
「……条件がある」
サラが、
顔を上げる。
「……ここでは、
指示に従え」
「……勝手に動くな」
サラは、
即答する。
「……分かってる」
ヨルは、
それ以上言わなかった。
夜。
焚き火のそば。
クロは、
サラに言う。
「……後悔するかもしれん」
「……もう、
してる」
サラは、
少しだけ笑った。
「……でも、
戻らへん」
クロは、
それ以上言わなかった。
レオの呼吸が、
少しだけ、
落ち着いている。
それを見て、
全員が気づいた。
ここに足りなかったのは、
力じゃない。
手だった。




