第33章「残る人、行く人」
集落の外れ。
朝の霧は、
まだ残っていた。
クロとミケは、
昨日と同じ場所に来ていた。
「……ほんまに、
来るんやな」
ミケが言う。
「……来んかったら、
それまでや」
クロは、
足を止めた。
小屋の前。
扉が、
静かに開く。
出てきたのは、
昨日の女――助手だった。
「……待ってた」
その一言で、
十分だった。
「……イーサは?」
「……来ない」
即答だった。
ミケが、
口を挟む。
「……断られた?」
「……違う」
女は、
少し間を置く。
「……動けない」
クロは、
黙っている。
「……イーサは、
この辺りの怪我人を
全部引き受けてる」
「……勇者の道から
外れた人たちや」
その言葉に、
ミケが眉をひそめる。
「……それ、
終わらんやつやん」
「……だから」
女は、
クロを見る。
「……私が行く」
一瞬、
風が吹いた。
「……弟子か」
クロが言う。
「……助手」
「……でも、
診ることはできる」
クロは、
はっきり言った。
「……治せへん
病気の子がおる」
「……それでも、
来るか」
女は、
迷わなかった。
「……だから、
行く」
「……治せなくても、
診る」
「……一人にせえへん」
クロは、
小さく息を吐いた。
「……名前を」
「……サラ」
短く、
それだけ。
「……装備は?」
「……最低限」
「……危険やで」
「……分かってる」
クロは、
一度だけうなずいた。
「……なら、
戻ろ」
三人は、
来た道を引き返す。
集落の外れで、
イーサが立っていた。
何も言わない。
ただ、
サラの荷を
一度だけ確かめる。
サラは、
一度だけ頭を下げた。
イーサは、
それで十分だと
言うように背を向けた。
ミケが、
小さく言う。
「……医者、
連れて帰るんやなくて」
「……医者の“手”を
連れて帰るんやな」
クロは、
答えなかった。
だが。
それで足りると、
思っていた。




