第31章「医者の痕跡」
小さな集落だった。
街でも、
村でもない。
街道が分かれる場所。
人が通るから、
人が残っているだけの場所。
「……人、集まってるな」
ミケが言う。
人だかりの中央。
男が倒れていた。
脚から血が出ている。
「……医者は!?」
誰かが叫ぶ。
「……おらん!」
クロは、
一歩引いた位置で立ち止まった。
「……行かへんの?」
ミケが小声で聞く。
「……俺が出たら、
話が変わる」
その意味を、
ミケはもう分かっている。
そのとき。
「……どいて」
女が、
人だかりを割って入ってきた。
迷いのない動き。
袋から布と薬草を取り出す。
「……押さえて」
言われた通りに、
周囲の人間が動く。
処置は早かった。
無駄がない。
慣れている。
「……これ以上は、
無理や」
「……動かすな」
それだけ言って、
女は立ち上がった。
クロは、
その手元を見ていた。
指の動き。
布の巻き方。
薬草の配合。
「……医者やな」
ミケが言う。
「……医者“そのもの”やない」
クロが答える。
「……でも、
医者のそばにおる人や」
女が、
クロを見る。
「……何か、
用か?」
「……子どもを、
診てほしい」
女は、
一瞬だけ表情を変えた。
「……病気か」
「……ああ」
「……なら、
私じゃ足りん」
「……“イーサ”を
探してるんやろ」
ミケが、
目を見開く。
「……知ってるん?」
「……一緒に、
回っとるからな」
女は、
道の先を指した。
「……今日は、
この先におるはずや」
「……街と街の間を
移動する」
「……勇者の道は
避けてな」
クロは、
小さく息を吐いた。
「……当たりやな」
ミケが言う。
「……ああ」
集落を離れる。
医者は、
もう噂ではない。
辿れる“足跡”になった。




