第29章
焚き火は、まだ温かかった。
炭が赤い。
消えたばかりだ。
「……おるな」
ミケが、声を落とす。
クロは、
杖を持つ手を下げたまま、
周囲を見る。
草が、
わずかに揺れた。
「……誰や」
ミケが言う。
しばらくして、
人影が出てきた。
男。
年は、
クロより少し上。
武器は、
腰の短剣だけ。
「……通りすがりや」
「……それ、
信じろって?」
ミケが言う。
男は、
肩をすくめた。
「……信じんでもええ」
「……ただ、
焚き火借りとっただけや」
クロは、
男の荷を見た。
包帯。
乾いた薬草。
簡素な器具。
「……医者か」
男は、
一瞬だけ黙った。
「……違う」
「……でも、
医者の手伝いは、
したことある」
ミケが、
すぐに食いつく。
「……イーサ?」
男は、
驚いたように目を細める。
「……知ってるんか」
「……探してる」
「……なら、
方向は合ってる」
男は、
焚き火を指した。
「……昨日まで、
この辺におった」
「……街と街の間を、
動いとる」
「……勇者様の道は、
避けてな」
クロは、
それ以上聞かなかった。
「……ありがとう」
男は、
焚き火に薪を足す。
「……一つだけ、
忠告や」
「……医者を探すと、
目につく」
「……目につくと、
協会にも届く」
ミケが、
目を細める。
「……追われるってことか」
男は、
否定も肯定もしない。
「……気ぃつけ」
それだけ言って、
男は立ち去った。
焚き火だけが、
残る。
「……なあ」
ミケが言う。
「……あの人、
拠点向いてそうちゃう?」
クロは、
首を振る。
「……今は、
連れて帰らん」
「……理由は?」
「……人は、
選ぶ」
ミケは、
何も言わなかった。
夜が深まる。
二人は、
来た道を戻った。
その頃、砦では――




