第28章「街と街のあいだ」
街道は、思ったより細かった。
踏み固められてはいるが、
人の気配は少ない。
「……ほんまに、この道で合ってる?」
ミケが言う。
「……合ってる」
クロは地図を見ずに答えた。
「……地図見てへんやん」
「……見んでも分かる」
道の空気が重い。
通られた跡が残っている。
戦いのあと。
急ぎ足のあと。
クロは、それを感じていた。
道の脇。
倒れた荷車。
割れた樽。
立て直されていない看板。
「……ここも、勇者通ったな」
ミケが看板の跡を見る。
「……魔物は倒したんやろな」
「……せやけど」
商いは、止まったままだ。
「……急いで通っただけやろ」
否定でも、肯定でもない。
昼。
小さな宿場に着く。
街と呼ぶには、小さい。
「……情報、あるかな」
ミケが酒場を覗く。
昼でも人はいる。
「……医者?」
店主が眉をひそめる。
「……おるには、おった」
「……“イーサ”やろ」
クロが初めて口を挟む。
店主は驚いた顔をした。
「……知ってるんか」
「……名前だけ」
「……最近は見ん」
「……でも、街と街の間を移動してるって噂や」
「……どっち側?」
「……勇者様の道、外れる方やな」
ミケが小さく笑う。
「……そらそうか」
店を出る。
「……なあ、クロ」
「……もし医者、見つからんかったら?」
クロは、少しだけ考えた。
「……それでも戻る」
「……戻って、次を考える」
「……即答やな」
「……戻る場所があるからや」
その言葉で、ミケは何も言わなくなった。
夕方。
街道を外れた先に、焚き火の跡。
灰は、まだ温かい。
「……近いな」
二人は足を止める。
医者か。
違うか。
分からない。
ただ。
戻る場所を背負った旅は、
もう、引き返せない旅になっていた。




