第25章「朝が来ても」
朝は、来た。
夜明けの光が、砦の中庭に差し込む。
だが、
空気は重いままだった。
フェイは、ほとんど眠れていない。
レオの額に手を当てる。
熱は、下がっていない。
「……水、飲める?」
レオは、小さく首を振った。
呼吸が、少し苦しそうだ。
クロは、入口の方から戻ってきた。
「……どうや」
フェイは、正直に答えた。
「……変わらへん」
その一言で、十分だった。
ミケが、鍋をかき混ぜながら言う。
「……昨日拾った薬、使える?」
「……症状は抑えられる」
クロは答える。
「……でも、治すもんやない」
フェイは、唇を噛む。
「……長く、ここにおったら」
言葉が、続かなかった。
ヨルが、静かに言う。
「……移動は無理や」
「……この子は」
フェイは、うなずく。
「……分かってる」
砦の外から、音がした。
昨日の来訪者だ。
水を運び、薪を積んでいる。
「……手伝います」
そう言って、当然のように動く。
クロは、その様子を見ていた。
「……人が、動き始めてるな」
ミケが、肩をすくめる。
「……放っとかれへん場所になったってことやろ」
クロは、フェイを見る。
「……医者が要る」
フェイの目が、わずかに揺れた。
「……そんな人、来るん?」
「……探す」
即答だった。
「……街だけやない」
「……勇者の道の外にも、医者はおるはずや」
ヨルが、短く言う。
「……来る理由ができたなら」
「……来る敵もできる」
その言葉は、重かった。
ミケが、少し困ったように笑う。
「……なんや、もう町みたいやな」
クロは、首を振る。
「……まだや」
「……でも」
レオが、目を開けた。
「……お兄ちゃん」
クロが、すぐに寄る。
「……起きたか」
「……ここ、いなくならん?」
小さな声。
クロは、少しだけ考えてから答えた。
「……行かへん」
「……しばらく、ここにおる」
レオは、安心したように目を閉じた。
その姿を見て、
クロははっきりと理解した。
旅は、続けられる。
だが、守る場所ができた。
砦は、通り道ではない。
選んだ場所だ。
クロは、砦の壁を見上げる。
決断は、もう終わっていた。
ここが、戻る場所になる。




