第24章「来る理由」
砦の朝は、遅い。
日が昇っても、
すぐには温まらない。
ヨルは、
いつもの位置に立っていた。
盾は前。
視線は外。
クロが、
砦の奥から出てくる。
「……何か、
来たか」
「……まだ」
その返事の直後だった。
足音。
ゆっくり。
引きずるような。
ヨルが、
一歩前に出る。
「……止まれ」
声に、
力はない。
だが、
通さない意志がある。
現れたのは、
一人の男だった。
武器はない。
背負い袋は、
空に近い。
「……すみません」
声は、
かすれている。
「……ここ、
人がおるって、
聞いて」
クロが、
前に出る。
「……誰から」
「……村で」
「……助けてもらえへん
かったとこです」
それ以上、
説明はなかった。
ヨルは、
男を見極めるように
一瞬だけ黙る。
「……何を、
求めてる」
男は、
少し考えてから言った。
「……逃げる場所」
その言葉は、
重かった。
「……戦えへん」
「……守れへん」
「……でも、
ここなら、
死なんで済むかも
思って」
ミケが、
砦の中から顔を出す。
「……なんで、
ここなん」
男は、
正直に答えた。
「……勇者様の道から、
一番遠かった」
沈黙。
クロは、
砦を見上げる。
崩れた壁。
欠けた塔。
「……安全には、
ならん」
「……それでも、
ええか」
男は、
即座にうなずいた。
「……ここに、
人がおる」
「……それだけで、
ええです」
ヨルが、
盾を下ろした。
「……入れ」
命令ではない。
許可だった。
男は、
深く頭を下げる。
「……ありがとうございます」
砦の中。
フェイが、
その様子を見ていた。
「……また、
一人増えたね」
クロは、
答えなかった。
ただ、
思っていた。
来る理由が、
できてしまった。
ここは、
通り道ではない。
選ばれる場所に、
なり始めている。




