第23章「守る側の時間」
砦は、静かだった。
風が抜け、
草が揺れる音だけがある。
ヨルは、
砦の入口に立っていた。
盾は前。
背中は、砦。
時間は、
ゆっくり流れている。
「……遅い」
口に出したのは、
それだけ。
外に出たのは、
クロとミケ。
二人だけ。
判断としては、
間違っていない。
距離も、
時間も、
計算できる範囲だ。
だが。
ヨルは、
砦の奥を見る。
フェイは、
火のそばに座っている。
レオの額に、
濡れ布を当てていた。
少年の呼吸は、
浅い。
「……守る理由が、
増えたな」
ヨルは、
誰に聞かせるでもなく言う。
砦の外周を回る。
足跡。
古い。
新しいものは、
ない。
それでも、
警戒は解かない。
ヨルは、
耳を澄ます。
風。
鳥。
遠くの音。
その中に、
一瞬だけ、
違和感が混じった。
音ではない。
気配でもない。
重さだ。
ヨルは、
足を止める。
「……外やな」
盾を、
わずかに持ち上げる。
砦の入口に戻る。
もし、
ここに何か来るなら。
逃がす。
通さない。
守る。
フェイが、
不安そうに顔を上げる。
「……何か、
ありました?」
「……いや」
ヨルは、
首を振る。
「……今は、
何もない」
それは、
事実だった。
だが、
ヨルは知っている。
外で何かが起きている時ほど、
内側は静かだ。
レオが、
小さく息を吐く。
「……だいじょぶ」
フェイは、
涙をこらえて笑った。
ヨルは、
その光景から目を離さない。
時間が、
少し進む。
遠くで、
鳥が飛び立つ。
ヨルは、
盾を構えたまま、
動かなかった。
ここを離れない。
それが、
自分の役目だと、
はっきり分かっていた。
やがて。
足音。
二つ。
知っている歩幅。
ヨルは、
盾を下ろした。
「……戻ったな」
砦の中に、
安堵が広がる。
だが、
ヨルは気づいていた。
外の“重さ”が、
少し増えていることに。




