第22章「拾う手と、奪う手」
村跡を出て、しばらく歩いた。
背負った荷は、
軽くはない。
だが、
戻らなければならない。
「……思ったより、
持てたな」
ミケが言う。
「……戻れんより、
ええ」
クロは短く答えた。
その時。
藪が、
揺れた。
クロが足を止める。
「……ミケ」
「……うん、
分かっとる」
三人ではない。
二人だ。
前方から、
男が二人。
後ろから、
もう一人。
「……運がええな」
前の男が笑う。
「……その荷、
置いてけ」
盗賊だ。
鎧は軽装。
剣は使い古し。
だが、
油断できる相手でもない。
「……悪いけど」
ミケが言う。
「……これ、
病人の分やねん」
「……知らん」
「……持ってる方が、
悪い」
距離が、
詰まる。
ミケが横に動き、
短剣を抜く。
「……ヨルおったらな」
小さく呟く。
クロは、
一歩下がった。
杖を握る。
使うか。
使わないか。
前の男が、
踏み込んだ。
ミケが、
斜めに避ける。
「……っ!」
剣が、
地面を抉る。
クロは、
決めた。
殺さない。
だが、止める。
杖の紋章が、
鈍く熱を持つ。
空気が、
一瞬だけ沈む。
「……なに、
今の……」
後ろの男が、
動きを止めた。
足が、
地面に縫い止められたように。
「……っ、
動かん!」
クロの視界に、
“残り”が見える。
この場所で、
過去に倒れた者の、
名もなき記憶。
声ではない。
感情でもない。
重さだけ。
クロは、
それを一瞬、
地面に“残した”。
盗賊の足元が、
沈む。
「……うわっ!」
ミケが、
その隙に踏み込む。
「……今や!」
一人を弾き、
一人を転ばせる。
残った男が、
後ずさる。
「……なんや、
こいつ……」
恐怖が、
声に出た。
「……化けもんか」
その言葉で、
クロの胸が軋む。
だが、
手は止めない。
クロは、
杖を地面に突いた。
「……帰れ」
「……二度と、
来るな」
地面の“重さ”が、
解ける。
盗賊たちは、
逃げた。
息が、
荒い。
ミケが、
しばらく黙ってから言う。
「……見られたな」
「……ああ」
「……噂、
なるやろな」
クロは、
うなずいた。
「……それでも」
「……戻る」
砦が、
見えた。
入口に、
ヨルが立っている。
盾は前。
動いていない。
クロは、
荷を下ろした。
「……あった」
ヨルは、
二人の様子を見る。
「……何があった」
ミケが、
軽く肩をすくめる。
「……ちょっと、
通せん相手が
おっただけ」
ヨルは、
クロの杖を見る。
何も言わない。
だが。
守られた中と、
危険な外が、
はっきり分かれた瞬間だった。




