第20章「熱」
夜が、少し長く感じた。
レオの呼吸が、浅い。
額に手を当てると、
熱い。
「……熱、上がってる」
フェイの声が揺れる。
ミケが、毛布を引き上げた。
「……水、ある?」
「……少し」
フェイが答える。
ヨルは、すでに立っていた。
火を見て、
外を見て、
砦の入口を見ている。
「……夜の外は、危ない」
ヨルが言う。
「……でも、ここにおっても危ない」
ミケが返す。
クロは、黙ったままレオを見る。
「……苦しい?」
クロが聞く。
レオは、首を振った。
でも、それは強がりだ。
「……お母ちゃん」
かすれた声。
「……だいじょぶ」
フェイは笑おうとして、
失敗した。
「……大丈夫や」
そう言いながら、
手は震えている。
クロは、ゆっくり立ち上がった。
「……薬が要る」
ヨルが短くうなずく。
「……街に戻るか」
ミケが眉をひそめる。
「……遠いで」
「……遠い」
クロも認めた。
「……でも、必要や」
フェイが、言った。
「……勇者様のところ行ったら」
言いかけて、止めた。
クロは、その続きを言わせなかった。
「……責める話やない」
「……間に合う手が、あるなら、
それを選ぶだけや」
ヨルが、低く言う。
「……明け方に動く」
「……今動いたら、見られる」
ミケが舌打ちする。
「……夜のほうが、隠れられるやろ」
「……夜は、戻れん」
ヨルの声は冷たい。
だが正しい。
沈黙が落ちた。
クロは、杖を握った。
握っただけだ。
使わない。
その様子を、
ヨルが見ている。
「……クロ」
ミケが小さく言う。
「……それ、使ったら分かるん?」
クロは、首を振った。
「……病気は分からん」
「……俺のは、
死んだ声を拾う力や」
言い切った瞬間、
空気が少し重くなった。
フェイは、何も言わない。
ただ、レオの手を握りしめる。
レオが、息を吐いた。
「……お兄ちゃん」
クロが近づく。
「……なに」
「……ここ、
好き」
その一言が、
クロの胸に刺さった。
好きな場所で、
苦しい。
それが現実だ。
ヨルが、盾を背負った。
「……明け方、動く準備はする」
ミケが目を丸くする。
「……あんた、
走れんの?」
「……走る必要はない」
「……道を作る」
クロが言う。
「……俺も行く」
「……戻って、薬を探す」
フェイが、顔を上げた。
「……ごめん」
「……謝るな」
クロは即答した。
「……守るって、言うた」
ミケが、ふっと笑う。
「……言ったなぁ」
ヨルが、短く言う。
「……寝ろ」
命令ではない。
生きるための言葉だった。
火は小さくなり、
夜は冷えたまま。
砦は静かで、
外は広い。
クロは、眠れなかった。
クロは、
もう一度レオを見た。
目を逸らさなかった。




