第2章「一緒にいる理由」
町は、小さかった。
市場と呼ぶには狭く、
人も多くない。
それでも、
人の声があるだけで、
遺跡よりはずっと落ち着く。
クロは、町の入口で立ち止まった。
「……まずは飯やな」
腹が減っては、頭も回らない。
屋台の前。
串に刺さった焼き肉が、じゅうじゅう音を立てている。
「……それ、二本」
「はいよ!」
受け取ろうとした、その時。
「——あ、それ、私の!」
横から伸びてきた手。
クロより先に、串を掴んだ。
「……は?」
振り返る。
そこにいたのは、
猫の耳を持つ女だった。
小柄で、目が鋭い。
尻尾が、ぴんと立っている。
「……あんた、横入りしたやろ」
「してへん」
女は即答した。
「……今、私が取ろうとした」
「……それ、俺が頼んだやつや」
二人の視線がぶつかる。
「……ケンカはやめてくれ!」
屋台の親父が割って入る。
「……ほら、もう一本焼くから!」
女は舌打ちした。
「……ちっ」
クロは、ため息をつく。
「……分けるか」
「……は?」
「……一本ずつや」
女は、少しだけ驚いた顔をした。
「……いいの?」
「……別に」
二人は、無言で肉をかじる。
「……うま」
「……やろ」
少し、空気がゆるむ。
「……あんた、旅人?」
「……そんなとこや」
「……私はミケ」
「……クロや」
それだけで、十分だった。
その時。
「……スリだ!」
市場の奥で、声が上がる。
「……あっ!」
小さな影が、走り抜けた。
「……あいつ!」
ミケは即座に追いかける。
「……待て!」
クロも、反射的に走った。
路地。
角。
袋小路。
追い詰められたスリは、震えていた。
まだ、子どもだ。
「……ご、ごめん……」
クロが、一歩前に出る。
「……腹、減ってたんか」
子どもは、黙ってうなずく。
クロは袋からパンを出した。
「……これ、食え」
「……え?」
「……盗みはあかん」
「……でも、生きるのは、ええ」
子どもは、涙目でパンを受け取り、
何度も頭を下げて走り去った。
ミケは、しばらく黙っていた。
「……あんたさ」
「……甘いな」
「……せやな」
クロは笑った。
「……でもな」
「……ああいうの、見捨てられへんタイプやろ」
「……せやな」
ミケは、尻尾を揺らす。
「……なあ」
「……しばらく、一緒に行かへん?」
「……なんで?」
「……あんたとおったら、
変なもん拾いそうやし」
「……面倒ごとも多そうやし」
「……でも、嫌いやない」
クロは、少し考えてから言った。
「……俺は、危ない橋渡るで」
「……ええやん」
「……面白そうや」
二人は、歩き出した。
町の外れ。
重たい盾を背負った女が、
その背中を、静かに見送っていた。




