第19章「火のそばで」
夜は、思ったより冷えた。
砦の中庭に、
小さな火が灯っている。
「……寒っ」
ミケが、
両手を火にかざす。
「……昼と全然ちゃうな」
「……砦やからな」
クロが言う。
壁が風を止める分、
冷えも溜まる。
ヨルは、
盾を立てかけ、
火の反対側に座っていた。
背中は壁。
「……配置、
完璧やな」
ミケが言う。
「……癖や」
ヨルは、
それだけ答える。
フェイは、
鍋をかき混ぜていた。
「……大したもん、
出せへんけど」
「……十分」
クロが言う。
レオは、
毛布に包まれている。
呼吸は浅いが、
落ち着いている。
「……お兄ちゃん」
小さな声。
クロが、
そっと近づく。
「……どうした」
「……ここ、
お城みたい」
砦の天井を、
じっと見ている。
「……前は、
兵隊さん、
おったんやろ」
「……せやな」
「……また、
来るん?」
クロは、
一瞬だけ言葉に詰まる。
「……分からん」
それで、
嘘にはならなかった。
ミケが、
話を変える。
「……なあ、
ヨル」
「……なんで、
そんなでかい盾
使ってんの?」
ヨルは、
少し考えた。
「……後ろを、
見なくてええからや」
「……は?」
「……守る時、
背中気にせんでええ」
ミケが、
しばらく黙る。
「……重そ」
「……慣れる」
フェイが、
ふっと笑った。
「……強いんやね」
「……強くはない」
「……逃げへんだけや」
鍋が、
ことりと音を立てる。
皆で、
簡単な食事を取る。
「……久しぶりに、
人と食べたわ」
フェイが言う。
「……旅、
長いん?」
ミケが聞く。
「……長い」
クロが答える。
「……どこ向かってんの?」
クロは、
火を見つめたまま言う。
「……まだ、
決まってへん」
「……でも」
「……誰も、
置いていかん場所」
ミケが、
少し笑う。
「……それ、
大変やで」
「……知ってる」
ヨルが、
低く言う。
「……せやから、
立ち止まる」
その言葉に、
誰も反論しなかった。
火が、
小さく爆ぜる。
夜は、
静かだった。
ここは、
まだ拠点ではない。
だが。
今夜は、
守られていた。




