第18章「立ち止まった場所」
砦は、道から外れた丘の先にあった。
崩れた石壁。
欠けた見張り塔。
使われていないのは、
一目で分かる。
「……ここ、
住めるん?」
ミケが言う。
「……住めるかどうかは、
人次第や」
ヨルが答えた。
砦の中に入ると、
焚き火の跡があった。
新しい。
「……誰か、
おるな」
クロが言う。
奥から、
女が出てきた。
痩せているが、
目ははっきりしている。
「……誰?」
警戒はしているが、
逃げる気配はない。
「……旅の者や」
クロが答える。
「……少し、
休ませてほしい」
女は、
一瞬だけ迷った。
「……子どもがおる」
「……病気や」
「……危険なことは、
せえへん」
その言葉に、
嘘はなかった。
「……私は、フェイ」
「……こっちは、
息子のレオ」
奥に、
寝かされた少年が見える。
顔色は悪い。
「……薬は?」
ヨルが聞く。
「……尽きた」
ミケが、
しゃがみ込む。
「……しんどいな」
レオは、
かすかに目を開けた。
「……だいじょぶ」
声は、
弱い。
クロは、
砦の壁を見た。
「……勇者は?」
フェイは、
首を振った。
「……来なかった」
「……でも、
責めてへん」
「……忙しい人や」
その言い方が、
胸に刺さる。
「……ここに、
ずっと?」
ミケが聞く。
「……行けへんだけ」
フェイは、
レオの手を握る。
「……この子が、
動けるようになるまで」
クロは、
しばらく黙っていた。
そして、
言った。
「……少しだけ、
一緒におってええか」
フェイは、
驚いたようにクロを見る。
「……なんで?」
クロは、
一瞬だけ言葉に詰まった。
「……理由がいるなら」
「……まだ、
守りきれてへんからや」
フェイは、
何も言わなかった。
ヨルが、
静かに言う。
「……雨風は、
防げる」
ミケが、
少し笑って言う。
「……あと、
静かや」
フェイは、
小さく息を吐いた。
「……ありがと」
それだけ。
夜。
砦の中で、
焚き火が灯る。
クロは、
空を見上げた。
まだ、
何も決めていない。
だが。
立ち止まる理由は、
場所やなく、
ここにいる人やった。




