第17章
街は、いつもより騒がしかった。
旗が掲げられ、
花が撒かれ、
人が集まっている。
「……何かあるな」
ミケが言った。
「……凱旋や」
ヨルが答える。
通りの奥。
白い外套の一団が、
ゆっくりと進んでくる。
「……勇者様や!」
誰かが叫んだ。
一斉に、
歓声が上がる。
クロは、
人の波の端に立っていた。
前には出ない。
勇者は、
想像より若かった。
鎧は白く、
傷も少ない。
だが、
視線は真っ直ぐで、
迷いがない。
子どもが、
花を差し出す。
「……ありがとう」
勇者は、
膝をついて受け取った。
拍手。
「……ええ人やな」
ミケが、
小さく言う。
否定できない。
司祭が、
声を張り上げる。
「魔物の脅威は、
確実に減っています!」
「犠牲は、
最小限!」
数字が読み上げられる。
人々は、
安心したようにうなずく。
クロは、
拳を握った。
その中に、
名前はなかった。
最小限。
その言葉が、
胸に引っかかる。
勇者は、
壇上で言った。
「私一人の力ではない」
「前に出てくれた者がいた」
「支えてくれた者がいた」
正しい言葉だった。
誰も、
間違っていない。
ミケが、
クロの袖を引く。
「……なあ」
「……もしさ」
「勇者に助けられへんかった人って、
どれくらいおるんやろな」
クロは、
すぐに答えられなかった。
ヨルは、
勇者から目を離さない。
「……この人は、
守ってる」
「……せやけど」
「……全部は、
見てへん」
式は、
成功のまま終わった。
人々は笑い、
街は平和に戻る。
クロたちは、
その流れから外れるように、
街を出た。
「……なあ、クロ」
ミケが言う。
「……俺ら、
どこ行くん?」
クロは、
しばらく歩いてから答えた。
「……救われへんかった人が、
立ち止まれる場所」
「……それを、
探す」
ヨルが、
短く言う。
「……なら、
人の通らん場所やな」
三人は、
道を外れた。
正義の外側へ。
だが、間違っているとは、
まだ、言えなかった。




