第16章「何も残らなかった場所」
村は、地図に載っていなかった。
道から外れ、
林を抜けた先にある。
「……ここ、
ほんまに人住んどったん?」
ミケが、首をかしげる。
家はある。
だが、
崩れている。
「……焼かれてる」
ヨルが言った。
黒く焦げた梁。
倒れた扉。
火は、
最近だ。
クロは、
歩みを止めた。
「……勇者が、
来たあとや」
魔物の気配はない。
死体もない。
「……全員、
逃げたんかな」
ミケが言う。
「……違う」
ヨルが、
短く否定する。
地面に、
引きずった跡がある。
「……運ばれた」
クロは、
喉が渇くのを感じた。
家の裏。
崩れた壁の向こう。
骨が、
砕けた灰の奥に
わすかに残っていた。
「……ここや」
クロは、
膝をつく。
杖を握る。
「……今回は、
聞けるか」
ミケが、
息を詰める。
ヨルは、
一歩後ろに立った。
紋章が、
わずかに熱を持つ。
――だが。
何も、
返ってこない。
声がない。
気配もない。
「……あれ?」
ミケが言う。
クロは、
もう一度集中する。
それでも。
何もない。
クロは、
ゆっくりと手を下ろした。
「……残ってない」
「……全部、
消えたんや」
ヨルが、
少し間をおいて
低く言う。
「……意図的やな」
「……どういうこと?」
ミケが聞く。
「……逃げたんやない」
「……“残す前に”、
終わらせられた」
クロは、
歯を食いしばる。
「……拾えへん声も、
あるんやな」
誰かの怒りも、
後悔も、
恐怖も。
ここには、
残っていなかった。
「……俺の力でも、
届かん場所がある」
ヨルは、
何も言わなかった。
ただ、
盾を強く握る。
ミケが、
ぽつりと言う。
「……勇者、
ここでも正しいこと
したんかな」
クロは、
すぐには答えなかった。
「……分からん」
「……でも」
焦げた家を見回す。
「……ここは、
“守られた後”には、
見えへん」
三人は、
村を出た。
振り返る者はいない。
そこには、
何も残っていなかった。
だが。
疑問だけが、
確かに残った。




