第14章「報告兵ガルド」
紙の端が、少し汚れていた。
ガルドは、それを指で押さえながら書いている。
「……村名、第三定住区」
声に出さず、文字だけを追う。
「……魔物、殲滅」
「……人的被害、三」
そこまで書いて、
ペンが止まった。
ガルドは、視線を上げる。
目の前には、
もう人のいない村があった。
家は残っている。
井戸も使える。
畑も、まだ息をしている。
「……成功、やな」
隣の兵が言った。
ガルドは、何も答えない。
槍を肩に担ぎ、
小さな円盾を背に回す。
軽い装備だ。
報告兵には、これで足りる。
「……三、か」
死者の数。
報告書に必要な数字。
だが、
ガルドの頭には、
別の光景が残っていた。
倒れた若者。
鍬を持ったまま、
前に出た男。
「……戻れ」
誰かが叫んでいた。
命令だった。
正しかった。
だが。
戻らなかった者が、
三人いた。
ガルドは、
報告書の余白を見る。
そこに、
書けないことがある。
残ったのは、
子どもと、
老人ばかりだということ。
畑を作る手が、
足りないということ。
冬を越せるか、
分からないということ。
「……それは、
俺の仕事ちゃう」
そう言い聞かせる。
報告兵の役目は、
事実を数にすることだ。
ガルドは、
最後の行を書いた。
「……作戦結果、良好」
ペンを置く。
勇者は、
正しい。
それは、
疑っていない。
だが。
ガルドは、
一度だけ振り返った。
静かな村。
「……三、か」
その数字が、
何を残したのか。
報告書には、
書かなかった。




