第11章「整える時間」
鍛冶屋の前は、熱気がこもっていた。
槌の音が、一定のリズムで響く。
「……暑っ」
ミケが額の汗をぬぐう。
「……ここ、
長居する場所ちゃうな」
クロは、壁際から中をのぞいた。
刃。
盾。
鎧の部品。
どれも派手ではない。
「……十分やな」
クロが言う。
ヨルは、すでに盾を下ろしていた。
鍛冶師が、歪みを確かめている。
「……まだ使える」
鍛冶師が言う。
「……ただし、
縁は補強した方がええ」
ヨルは、短くうなずいた。
「……頼む」
ミケは、露店の方を見ている。
「……クロ」
「……何や」
「……これ、
どう思う?」
差し出されたのは、
小ぶりな短剣だった。
飾りはない。
実用一点。
「……ええんちゃう」
「……派手じゃないし」
「……やろ?」
ミケは満足そうに笑う。
クロは、自分の装備を見下ろした。
杖。
マント。
革の上着。
「……俺は、
これでええ」
ヨルが、ちらりと見る。
「……隠すなら、
今のままで十分や」
クロは、小さくうなずいた。
鍛冶屋を出る頃には、
ヨルの盾は少し重くなっていた。
だが、動きは変わらない。
「……これで、
安心やな」
ミケが言う。
「……完全じゃない」
ヨルが返す。
「……でも、
今よりはええ」
三人は、噴水のある広場に戻った。
人が多く、
剣を持つ手も、今は緩んでいる。
「……腹減った」
ミケが、また言う。
「……さっきも言うてたな」
クロが言う。
「……今度は本気」
三人は、屋台の前に並んだ。
パンと、煮込み。
豪華ではない。
「……こういうの、
久しぶりや」
クロが、ぽつりと言う。
「……旅やのに?」
ミケが聞く。
「……旅やからや」
ヨルは、無言で食べている。
だが、肩の力は少し抜けていた。
噴水の水音が、
一定に響く。
守ることも、
進むことも、
今は考えない。
ただ、整える時間だった。




