第10章「街の音」
昼前。
石造りの街壁が見えた。
「……あ、街や」
ミケが、少し声を弾ませる。
門の前は、人の流れが絶えない。
荷車、旅人、商人。
剣も盾も、特別珍しくはない。
「……ここなら、
少しは落ち着けるな」
クロが言う。
ヨルは周囲を一瞥しただけで、何も言わない。
盾は背負ったまま。
人の動きだけを見ている。
門をくぐると、音が変わった。
金属の打つ音。
呼び込みの声。
笑い声。
「……腹減った」
ミケが即座に言う。
「……それは、
ずっとやろ」
クロが返す。
三人は、自然と歩調を合わせていた。
まだ並ぶというより、
距離を測りながら。
通りの先に、鍛冶屋が見えた。
槌の音が、一定のリズムで響く。
ヨルが、足を止める。
「……盾、
少し歪んでる」
クロが初めて気づいたように見る。
「……昨日の、
山道か」
「……直せる?」
ミケが聞く。
「……直せるか、
見せるかや」
ヨルが答える。
鍛冶屋の前を通り過ぎると、
今度は露店が並ぶ。
布。
革。
簡素な武器。
「……見てええ?」
ミケが、すでに覗き込んでいる。
「……あんまり、
金ないで」
クロが言う。
「……分かっとる」
ミケは振り返らない。
ヨルは、クロの杖に一瞬だけ視線を向ける。
何も言わない。
クロは、無意識に杖をマントの内側に寄せた。
「……隠した方がええな」
小さく、呟く。
ヨルが、短く言う。
「……目立たんのは、
悪くない」
三人は、広場に出た。
噴水。
人が集まり、休んでいる。
「……ここで、
少し休もう」
クロが言う。
「……賛成」
ミケが即答する。
ヨルは、周囲を見渡してから、うなずいた。
街は、答えをくれる場所でもない。
だが、整えるには、
ちょうどいい場所だった。




