部活動大会へ
朝、目覚めてすぐ、制服の袖に腕を通した。
カーテンを開けて、窓の外を見て、やっとここが異世界なんだと思い出した。
「ん……貴様、朝が早いな」
後ろのベッドの布団から、バイブルが顔を出した。昨夜のことも相まって僕は挙動不審になってしまう。
「あのさ……バイブル。昨日はその……」
「今日、部活の大会だろう?会場はどこだ」
ローブを脱いで薄いガラベーヤ一枚になったバイブルは、布団を跳ねのけて起き上がった。
いつもローブを被っていたから……うん、何だろう、すごく新鮮だ。
「ほら、さっさと案内。ワタクシは腹が減った」
何事もなかったかのようにバイブルは歩き出す。僕は安心してその後をついていく。—―しかし。
「貴様は、なかなかに良い抱き枕だったぞ」
その一言で、足の力が抜けてしまった。
大会の舞台となるのは、町の外れの円形闘技場。
僕とバイブルは、魔の主討伐時の報酬を使って、
朝食を調達がてら、馬車で向かうことにした。
「?何味このサンドイッチ」
「竜味に決まっているだろう。というか貴様、これから食べる競技が待っているというのに食べるのか。それ寄越せ」
「現代人は一日三食なの!僕食べ盛りだし。あげないよ」
「けちー」
ハイエナのように群がってくるバイブルを片手で押しのけながら、僕は馬車の上で朝食を取る。
たびたび振り返ってくる御者の視線が痛い。馬車を揺らすなということだろうか。
何気に人生初馬車だけど、振動がつらい。明日は筋肉痛かも。
「あれか、闘技場というのは」
「バイブルも見たことないの?」
「だから……言っただろう。ワタクシはずっと帝国に縛られていた。こんな風に外出するのは今までなかった」
そういえば昨夜ベッドでそんなこと言っていたかも……と思い返すと、今更ながら赤面してしまった。
「……調子狂う。やめろ」
口を尖らせながらも、バイブルは肩にしなだれかかってくる。
「貴様には騎士団の大和撫子という想い人がいるんだろう。
奴は、今日の大会に客として観に来るらしいぞ」
「小菊が!?本当に!?」
「ギルド長もな」
「あの人もか……」
ギルド長は、嫌な人ではないと思うけれど……苦手だ。無理やり僕をギルドに入れるつもりだったというし。初めて広場で会った時は、とても親切な人だと思ったんだけどなぁ。
「到着しましたよ、お二方」
御者の言葉に、はっと我に返った。すり鉢のような形の闘技場、その入り口に着いていた。
高い柱が直線状に何本も立っていて、はるか遠くには観覧席が見える。床は大理石のような材質で、自分の全身が鮮明に映っていた。綺麗で整ったつくりをしている闘技場だ。
「すご……ローマのコロッセオみたい」
「ローマ?コロッセオ?」
首を傾げるバイブルを他所に、感動を噛みしめていると――
前方から駆け寄ってくる人影があった。
「緋雪君っ!バイブルさん!」
千埜先輩だった。ツインテールをなびかせて、必死な様子で向かってくる。
「もう皆さんそろってますぅ!早くしろって急かされてて……うぅう」
僕とバイブルは顔を見合わせた。
闘技場は活気と歓声に溢れていた。
『役者も揃ったことだし……
只今より竜食い競争を開始しまーす!上がってけウェーイ!!』
ディスコでDJを務めていた先輩が進行役となって、競争の火蓋が落とされた。
観客席には、ギルドを始めとした各方面の重鎮たち。物々しい雰囲気が漂う中――僕は奥の席に小菊を見つけた。
「……っ!」
目を輝かせて、小菊に向けて手を振る。そんな僕を小菊は一瞥し、そっぽを向いてしまった。
けれど、その仕草が拒絶ではないことを、僕はもう知っている。
『参加者を紹介するぜ!
まずは高校生による高校生のための高校生のグループ!竜食い競争部!
そして安定の最強ども!帝国屈指の治療士部隊!!治癒隊!
最後に地元の有志たちだ!どいつもこいつも一癖ある奴らだが……今大会はどんな魔法が炸裂するのか!
炎竜に水禍竜に破砕竜に……多種多様な竜をご用意しております!
魔法でもって価値を証明しろ!竜食い競争、開幕――!』
拍手が闘技場一帯を包む。
奥の格子が上がり……巨大な竜たちの尾や瞳が露わになる。
僕は、恐怖を今だけは飲み込んで……詠唱を口ずさんだ。
一方、客席に座り眼下の光景を眺める小菊に、話しかける者がいた。
「あのぅ、小菊ちゃん。ちょっとお話いいですか?」
「千埜先輩?どうしたんですか」
凛とした姿勢を崩さず、小菊は立ち上がった。そしてそのまま誰もいない客席の隅へと移動する。
「単刀直入にいいます。時間がありません……
ギルド長はこの大会に『魔の主』を放そうとしています。とりわけ強力な」
小菊は硬直した。
「魔の主……?うそっ、下手したら死人が出るわよ!?」
すぐに闘技場に視線を移す。
「緋雪!!」
少年が望む教室での日常は、さらにかけ離れていく。




