竜とパンはニアイコール
※シリアス回ではなくカオス回です
『この異世界で最もイカす部活動、竜食い競争部にようこそ!イエーィ!!』
ミーラーボールがぎらぎらと輝く狭い室内で、制服を着たDJがそう叫び散らかした。
「何で、こんなことに……?」
「貴様のせいであり、ワタクシのファインプレーのおかげだ。ギルドに入らなくて済んだのだからな」
場の空気についていけず、隅っこで壁のシミを数えるしかできない僕に、バイブルはそう言う。
目覚めてすぐに「ディスコに行け」と脅迫された僕の気持ちを考えてほしい……
実際は、ディスコではなく『竜食い競争部』という怪しげな部活動だったのだけれど。
「ギルド内部にいる高校生たちですぅ……。皆さん部活動が恋しくなっちゃったんですよぉ……」
翡翠色のツインテールをした女子の先輩、千埜先輩は終始おどおどした様子だ。異世界デビュー?というか、はっちゃけちゃった彼らが怖いのは僕も同じ。
『みんなー、今日は新人が来ているぜ!へいそこの後輩たち、自己紹介をどうぞ!!』
いきなり話を振られた!必死に気配を殺していたのに……
「えっと……最近こっちに来たばかりの高等部一年、桔梗 緋雪です。魔法はとくにありません。
よろしくお願いします」
「バイブルだ」
「あっ、あたしは高等部二年、篠原 千埜といいます!ギルドの皆様はご無沙汰ですぅ!」
バックミュージックに合わせて、大きな拍手が鳴った。
歓迎されている――
そう安堵した瞬間、顔にスプレーを吹き付けられた。
「ッ!?!?」
「緋雪!??」
強烈な刺激で目が開けられない。痛い。これ、魔物の粘液では—―?
「やぁ新人ちゃん」
同じくらいの年齢だと思われるテノールボイスが、頭上から降ってくる。
「アンタさ、ジビエ料理を食べたことある?」
混乱しつつも、僕は勢いよく頭を振った。
「ふぅん。じゃ、竜食い競争には向いてないかもな」
僕は、目をこすりながら不味い粘液をぺっぺっと吐き出した。
「向いてないって、何に対してですか」
「今、アンタに噴射したのはリザードの粘液だ。気持ち悪いって思ったろ?
異世界の人達にとっちゃ当たり前でも、それに嫌悪感を抱く高校生は多い」
光が戻った視界に映るのは、背が高いキノコ頭の男子生徒だった。人を小馬鹿にしたような不遜な表情で、
「入部するってなら、価値を証明してみろ」
—―部屋のドアを突き破って乱入してきたのは、竜だった。
「ひゃあっ、待ってくださいぃ、コレって『ティニードラゴン』じゃないですか!?
たた確か上級向け、ではではっ!??」
一瞬で縮みあがった千埜先輩にしがみつかれながら、僕は闖入者と向き合った。
「これを、食べろ」
「はいっ!?」
「倒して、食べろと言っているんだ」
「はっ、はぁっ!?」
目の前のティニードラゴンは、大きな瞳孔でこちらを見つめ、爪で地面を引っかいている。
……食べる??コレを?
僕は深呼吸をしてから、取り合えずいったん倒そうという結論に至った。
「退けろ光の拳」
纏うは光の拳。室内を壊さない程度の力で、竜を優しく殴ってみる。
—―が、バゴンという鈍い音と共に、ティニードラゴンはドアを貫通して吹っ飛んでいった。
『……』
静寂に包まれる室内。さっきまで楽しく談笑中だった人たちが一斉に口を噤んだ。
千埜先輩も、猛獣を眺めるような瞳で僕を見ている。ちょっと傷つく。
「……三秒ルール。取りに行ってこい」
キノコ頭も、唖然としながら部屋の外を指差す。
僕は急いで竜(食材)を回収しに外へと駆け出していく。
と、後ろからバイブルが追ってきた。
「貴様、困っているようだな」
「そりゃ困るでしょ!!鶏肉豚肉牛肉はどこ行ったのカルチャーショックだよ!!!」
「……手を貸してやらんこともないぞ?」
僕は、プライドをかなぐり捨ててスライディング土下座した。
「お願いしますバイブル様!」
バイブルはそんな僕の様子に、少し驚いてから、得意そうな顔で頬を染め、
「ふふん。古代から竜を食べるというのは魔力を得る一種の儀式でな。
おいしく頂く魔術があるんだ。緋雪、新たな古代魔法を授ける—―
打てよ舌鼓」
タンジェンベ、と唱えた瞬間、僕の脳裏に何かのレシピが浮かんだ。
竜のステーキ~リザードのソースを添えて~
材料/ティニードラゴン リザードの粘液
調理方法/加熱魔法(燃え尽くせ)
そして、レシピの内容をなぞるように、体が勝手に動いた。
異世界クッキング開始!
「新人おそーい」
「怖気づいたんじゃないか。常識を捨てきれなくて」
中々戻ってこない僕たちを案じていた部員たちの前に—―
調理した竜を抱えて戻ってきた僕とバイブルが現れた。
「すみません、お待たせしました。これ、召し上がってください」
皿に盛りつけられた山盛りのステーキを見て、部員たちはすっ転んだ。
「「この短時間で何があった!?」」
動揺する部員たちと対照的に、千埜先輩は瞳を輝かせて駆け寄ってきた。
「わあ……すごく美味しそうです~。味見していいですかっ?」
「どうぞ先輩」
「ありがとうございます、緋雪君。わっ、おいしい!」
ステーキを口に含んで、無邪気に喜ぶ先輩に、部員たちがざわめき始める。
「俺、味見してみる」「わたしも……」
徐々に群がってくる先輩方。皿の上のステーキも完売になりそうな頃……横から顔を出したキノコ頭がステーキをつまんで、
「……うまい」
と、一言だけこぼした。どこか悔しそうに。
「(何で僕、異世界に来てまで料理してるんだろう)」
緋雪、部員たちに好意的に受け入れられ、竜食い競争部部員となる。
読んでいただきありがとうございます。
何でもできる古代魔術――しかし大きな欠点があります。
ヒントは詠唱文。




