騎士団アルバイト
修学旅行編、ほのぼの日常系で開幕です。
修学旅行。
それは、学校行事の中で最も心躍るイベントであり、一年間の最後を彩る、学校生活の華だ。
そう信じていたから、こんなにも憂鬱なものだとは知らなかった。
—―英雄になった同級生と、あらゆる魔法を扱えるようになった僕にとって。
部活動の大会が終わった翌朝。
僕は、何故か騎士団の食卓に着いていた。
「ほら小僧、食え食え!!細いままじゃ魔物何て倒せないぞ!!」
隣の筋肉マッチョの男の人が、山盛りのステーキをすすめてくる。僕は素直に受け取り、口に含む。
活気の溢れる食堂でのことだ。
「……小菊、どういう状況か説明して」
「……修学旅行まで時間があるでしょ。だからさ……騎士団でバイトしない?」
向かいの席の小菊は、困惑する僕に微笑みかけてきた。
「バイト?え、そういうシステムあるの?ここ!?」
「うん。高校生向けに。
炎竜の卵の採取とか、死滅茸ハンティングとか、絶海の洞窟2000メートルバンジージャンプとか?」
最後のだけよく分からないけれど……うん、魔法がなければ即死級ということだけは分かった。
「本当に、働かなきゃいけない……?」
「てか貴様、騎士団に庇護されてなければギルドに捕まるぞ。ここで働くしかないんじゃないか?」
隣でソーセージにかぶりついているバイブルが、やんわりと退路を断った。
僕は、そのありがたいお言葉に体を震わせてうなだれるしかなかった。
「じゃ、まずは市内のパトロールからだね」
小菊は喜色満面でそう言い放った。
『市内巡回中』という腕章をつけ、僕と小菊とバイブルは都市内に繰り出した。
「魔法による犯罪は常だからね、陽光が漏れ出しているところは気を付けて」
人差し指を立てる小菊の講義を受け、僕は辺りに目を凝らしてみる。
「古代魔術、使えばいいだろう」
「あ、そっか。でもあの時以来詠唱なしじゃ使えなくなっちゃって……」
「普通、それが当たり前なんだよ。新たな古代魔術を授ける。
—―反応せよ魔術」
詠唱を復唱する。すると、各所で溢れている陽光の気配、つまるところ魔法の気配――が知覚できるようになった。
「ん、何かあそこの塀の陰、魔力が濃いような……」
そう呟いた瞬間、突風とともに小菊が駆け出した。
「ついてきて!!」
反応が遅れ、取り乱しながらも僕とバイブルは後を追う。剣のきらめきが道を示してくれる。
路地を走り、角を曲がる—―その時、ふと立ち眩みがした。
「……?」
気のせいだろうと思って、そのまま走り続ける。
その様子を、バイブルが神妙な面持ちで見つめていることには気付けずに。
「いた!!こらそこの人、杖を下ろしなさい!!」
塀の陰で行われていたのは—―なんと、異世界版カツアゲだった。
「ちっ、騎士団め!まあいい、湿気た金しか持ってないようだからな、ペッ!!」
ヤンキーってこの世界にいもいるんだ……
リーゼントの魔法使いは唾を吐いて去っていく。残されたのは、体中を傷塗れにした眼鏡の少年。
「……うう、くそう、あいつ許さない……警察いないの、警察……」
「大丈夫ですか?あ、異世界研修生の方ですね」
小菊は大和撫子と呼ばれるにふさわしい凛とした笑みを浮かべて、眼鏡の少年に話しかける。
眼鏡の少年、いや現代の高校生は気弱な表情で、
「異世界に来たらすぐいじめられるし……ぼく向いてないのかな、成り上がるなんて夢のまた夢なのかな……」
そう、俯きながらこぼした。その背中に、僕は、何故だか昔の自分を重ねていた。
現代でも、異世界でも、きっと自分は何の役にも立たない、何もできないと諦めていた。
小菊と違って才能がないと決めつけ、自分の人生を早々に投げ捨てていた。
まだ、可能性を試してすらいないのに。
だから、自分でも無意識のうちに、少年の肩に手を置いていた。
「大丈夫だよ。
成し遂げたいことがあれば、魔法は応えてくれる。僕も、そうだった」
少年は目を見開いた。その瞳の中には、困惑があるだけ。
最初は誰しもそうだと思う。困って、混乱して、戸惑いながらも、道を模索して、気が付いたら見慣れない場所に流れ着いているんだ。
眼鏡の少年を広場まで送り届けて、僕と小菊とバイブルは、ベンチに腰掛けて一息ついた。
隣に座る小菊が、首を傾けて僕を覗き込んだ。
「かっこよかったよ、緋雪」
その一言に、心臓が跳ね上がった。ついついはにかんでしまう。誤魔化すように、遠くへと視線を向けると――
「!?」
反応せよ魔術を発動中の僕は、息を呑んだ。
見逃しを許さないほどの、圧倒的で莫大な魔力。
それが—―僕たちに迫ってきている。
「やぁ」
それは、突然の出来事だった。
瞬きのうちに—―腹にすさまじい衝撃が加わった。
「がっ……?」
全く、知覚できなかった。頭に疑問形が浮かぶ。体が傾く。意識が暗転する。
その光景を目撃した小菊は、神速で反応し、襲撃者に切り込むが—―
「遅いのう」
それを上回るスピードで、首に手刀を打ち込まれ、
糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
ただ一人身動きせずに向かい合うバイブルは—―顔を苦渋に歪める。
「帰ろうぞ、同胞よ。帝国がお主を呼んでいる」
自身と同じ存在である、人のカタチをした魔導書が、彼女の手を取った。
読んでいただきありがとうございます。
どう見てもタイトルから脱線し始めている緋雪を振り返ろうの回です。
昔の自分と似た人を見ることで、成長したなと実感できることがままあるのではないでしょうか。少なくとも作者はそうです。中二病を拗らせている後輩を見ると切に感じます。




