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異世界と教室、二律背反

※この回はシリアス一辺倒になります

「こちらに『魔の主』がいます」

前を歩く千埜に導かれるまま、小菊は闘技場の地下を進んでいた。

「……見つけたら、倒していいのね」

小菊は腰に佩いていた剣を抜き、脇に構える。薄暗い地下で、銀の剣がきらめく。

千埜はツインテールを揺らしながら、階段を下りていく。

「ねぇ」

そこで、小菊は足を止めた。

「私の勘違いだといいんだけれど。

さっきから、上がざわついていない?」

騎士団の大和撫子、という異名の通りに、美しく鋭い表情を纏いながら、小菊は千埜を見据えた。

「さあ……何でしょう」

「とぼけるな」

切っ先が向く。千埜は振り返らない。

「目的を教えろ、先輩。……いや、()()()()()()

緋雪が無事じゃなかったら……私は一生貴方を許さない」

その場を飲み込む、激しい怒気。

千埜は、いつものおどおどした様子と違い—―落ち着いた微笑を浮かべた。

「小菊ちゃんはごまかせないかぁ」

千埜は人差し指を横に振る。

落下(ウォン)

同時に、小菊の退路を塞ぐように、大きな檻が上から落ちてきた。

「っ、何するの!!」

すぐさま、鉄の格子を剣で切り刻もうとする小菊。しかし、びくともしない。


「無駄です。小菊ちゃんの魔法……

英雄魔法(ヒーロー)は大衆に必要とされて初めて効果を発揮するもの……

教室に戻りたい、好きな人に会いたいなんて—―幼稚な願いじゃ応えませんよ」


小菊は、蒼白な顔で千埜を睨む。まるで、目を背けていた事実を突きつけられたかのように。

「貴方が、契約履行(ゆびきりげんまん)を使ったのも一種のパフォーマンスだったって訳ね……

竜食い競争部に入れて、あたかも緋雪に有利な状況に動いてるよう見せるため」

「正解です。

そうしたら、さしもの大和撫子さんでも反論できないでしょう?」

小菊は皮が破れるほどの力で拳を握りしめた。

「全部……ギルドの手のひら。

そこまでして、緋雪をギルドに入れたいの?」

「我らがギルド長はそう望んでいます。

貴方の目的とも一致していますよ?全ては、小菊ちゃんのお姉さんも殺した


—―最強の『魔の主』討伐のため」


竜食い競争部で一定の功績を満たさなければ、緋雪はギルド行き。

その束縛が、緋雪を戦闘に駆り立てる。




「緋雪ッッ!!」

突如現れた翼竜に吹き飛ばされた僕のもとに、バイブルが駆け寄ってくる。

「ぐうっ……っ」

頭から血を流し、全身を切り傷塗れにさせながら、僕は目を開ける。

眼前には、宙に浮きあがる首無し竜。

竜の中でも最上位格の—―首無翼竜(ゾレボアル)

加えて、魔法を持っている。


—―これは、下手したら死人が出るんじゃないか。


全身を悪寒に支配され、僕は立ち上がれなくなった。

それだけで、命取り。

『ゲルゥウウウウ……』

頭部がないのに、どこから唸り声を出しているんだろう。平らな首の断面から、極彩色のブレスが湧き上がっている。

全てがスローモーションに見える。何度も呼びかけてくるバイブルの声が、遠ざかる。

そして、ブレスは放たれた。

「あ」

ブレスは、確かに僕の体を貫いた。

痛みはない。灼熱も感じない。—―けれど、心の奥底がひび割れた気配がした。

「あああ、あああああアアアッッ!!!!!!」


精神汚染。


誰かの苦しみが、恨みが、悲しみが、濁流となって押し寄せてくる。

視界が黒い。視界が赤い。視界が白い。

吐き気がする。体を引き裂きたい。ぜんぶ、こわしたい。

絶叫は、僕の周りを取り巻いて……世界と自分の境目が分からなくなった。

「ぼく、は……」

この感覚、古代魔術を使っている時にもするやつだ。

自我がおぼろげになっていく……ただただ心地よい。

「ぼくは……」

どうして異世界にいるんだっけ。

ぼくはただの高校生だ。

皆と一緒に学校に通いたいし、一緒に授業を受けたいし、一緒にくだらないことでふざけ合って……

それがぼくの毎日だったはずだ。

ああ、そうか。

それが楽しいと思えたのは、幸せだと感じられたのは—―


『緋雪』


隣の席で、彼女が微笑んでくれていたから。



バイブルは、おびただしい汗を流しながら、懸命に詠唱を紡いでいた。


「解呪。世界よ、魔法と人を結び給え。

承諾。魔導書の名の下に、扉を開く。

切望よ、夜の空に流れる一筋の光よ。生まれたばかりの子羊に、どうか慈悲を。

—―宣言。魔法とは、世界と人の間に絡みつく、糸である。

目覚めよ人の器(アリア)


引き鉄は引かれた。

月光とも、陽光とも違う……淡い光が、緋雪にもたらされる。

「ついに繋げてしまうのか、魔導書。

少年と、異世界を」







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