チートな竜を捕まえてみよう
開幕の鐘が鳴る。
鉄格子の奥から――竜たちが姿を現す。
最初は、燃え盛る炎だった。
竜の口から吐き出されたそれが、螺旋を描いてこちらに向かってくる。
「っ、回避!!!」
部活の先輩の指示に従って、離脱する。しかし炎の勢いは止まらない。僕たちの後を追うように、猛スピードで迫ってくる。
「セイレーン—―」
焦りと緊迫感に、詠唱がうまくまとまらない。
まずい。直撃する。巨大な火球を前にして、体が固まってしまった—―その時、僕の脇を、鋭い槍が通り抜けた。
「貫け」
短い呟きだった。
それだけで、竜の体が見えない何かにえぐり取られた。
一瞬のうちに空いた大きな風穴に、絶句する。
「コーコーセイというのは、こんなにも腑抜けたものなのですか。情けない」
魔法を放った本人である――白装束の女性が、前に躍り出てそう言った。
「もう少し血のたぎる美しい戦いはできないのですか。私たちが治したくなる狂戦士のような振る舞いは」
コン、と地面に杖を下ろす音がした。
「いいでしょう—―魔力は全て私たちのモノです」
先頭に立つ女性に続いて、治癒隊の隊員たちが次々に竜へと肉薄していく。
吹き荒れる魔法、砂嵐――闘技場が爆裂音で満ちた。
「今回の大会、どいつが有望株だと思う?」
その頃、試合を見守っていた観客の内の一人が隣の男にそう尋ねた。
「やはり治癒隊……と言いたいところだが」
ローブで全身を隠した、お化けのような見た目の男はそこで切り、
「竜食い競争部にいる水色の髪の少年……
さっき彼が唱えようとしていたのは古代魔術だ」
「へぇ、古代魔術?スクリチャ君以外に使える奴、初めて見た」
ひゅうっと口笛を吹く音と共に、闘技場中を月光が包む。スクリチャ、と呼ばれた男は布で隠れた顔を驚きに染めて、
「かなりの熟練……優れた詠唱伝道士がいるのか、はたまた……
国家級の魔導書がいるのか」
魔導書は呟いた。
「ああ、楽しみだ—―魔導書が人を狂わせていくのが」
「そよ風転じて青嵐!!!!」
負けたくない――ここで負けて、ギルド行きになってたまるか!!
僕はただ、小菊と教室に帰りたいだけなのに!
「貴方――!?」
白装束の女性が驚愕の声を上げる。そりゃそうだ。
—―獲物を豪風でかっさらったのだから。
「もっと、青嵐ッ!!」
僕の叫びに呼応して、さらに風が吹き荒れる。炎さえも通さない風の渦が、竜を閉じ込める。
闘技場の中央に突如現れた『竜巻』に、誰もが困惑する。目を見張る。空気が変わる。
そんな気配を感じながら—―僕は仕上げの詠唱に移った。
「打てよ舌鼓!!!!!!!」
解体しやすい部位、弱点となる魔法など—―調理に至るための全てを、この『打てよ舌鼓』が示してくれる。
「……燃え尽くせが利かない……っ、火属性の竜だからか!
バイブル!!」
僕はバイブルに目配せする。バイブルは、フードの奥の瞳を輝かせて、
「ふふ、分かった。水属性の魔法だろう?
緋雪、古代魔術を授ける。—―巡れ命の水」
準備は整った!
僕が作るのは—―竜の煮込み料理!!
「巡れ命の水」
水で満ちた巨大な鍋が、上空に出現した。鍋は、風の渦に閉じ込められていた竜を飲み込みながら、地上へと舞い降りてくる。
「燃え尽くせ」
月光が陽光へと変わる。同時に、鍋に点火。
さすが魔法、火力が違う。ガスコンロなんて比べ物にならない。
鍋は一瞬で煮立ち—―竜はウェルダンとなった。
「先輩!!食べれば加点なんですよね!?」
「ああその通り!助かった、いただきます!」
先輩方が唖然とする治癒隊を押しのけ、竜の煮込み料理へと飛びついていく。
『なーんとなんとなんと!?ここで大番狂わせ!?
高校生のお遊び部活動が!帝国のエリート治癒隊を退けたぁ!!
あと今の魔法見たことないんですけどどうなってるんすか――!?』
解説役が席から身を乗り出して飛び跳ねる。他の観客たちもざわついている……今のまずかったかなぁ。
「くっくっく……あの少年、出鱈目な能力を持っている……
奴の詠唱伝道師となってみたいものだな」
……?何だろう、悪寒がする。
この悪寒――誰かに品定めされているという予感でもない。もっと、大変なことが起こる、嫌な予感――こうまで胸を掻き立てるのは、膨大な魔力?
「緋雪っ、やばいっ……逃げろ!!!!」
バイブルが必死な形相で呼びかけてくる。—―だが、手遅れだった。
『ゲルゥウウウウゥァアアア……』
奈落の底から響いてくるような、唸り声がして
—―僕の意識は飛んだ。
読んでいただきありがとうございます。
新キャラのスクリチャさん、外見のモデルはエジプトの神メジェドです。全身布に覆われていてどうやって生活しているのかというと……あの布自体に見えない顔と手と足が付いているのです。こわ。




