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第6話:スパダリ令嬢の過保護な防衛線

続きは明日のこのくらいの時間にー

 体力作りという言葉からサイラスが想像していたのは、ルーサー家で強要されていた過酷な労働のようなものだった。

 しかし翌朝彼を待ち受けていたのは、ヤング伯爵家の全力が注がれた、奇妙なトレーニング風景だった。


「ほら、まずは庭を三周だ! そんなにふらついてるんじゃ、姉様の隣は歩けねーぞ!」


 アンガスが元気よく声を張り上げる。その後ろを、サイラスは借りてきた運動着に身を包み、必死の形相でついていく。  

 だが。


「止まりなさい、アンガス!」


 鋭い声と共に、庭園の向こうから豪華な日傘を差したイレーナが、セバスを伴って颯爽さっそうと現れた。


「姉様? まだ始めたばっかりですよ」

「ええ、その始めたばかりの五分間で、サイラス様の顔色が二度変わりましたわ。セバス、測定を」


 手ぐすね引いて待っていたセバスが、どこからともなく取り出した懐中時計を片手に、サイラスの脈を取り、瞳孔をチェックする。


「……微熱。そして呼吸の乱れ。お嬢様、これは重い事態ですな」

「なんですって!? すぐに医者を、いえ、最高級の栄養剤と冷やした飲み物をこちらへ!」


「……あの、イレーナ様。ちょっと、息が切れただけですから…」


 サイラスが弱々しく口をはさむが、イレーナには届かない。彼女は流れるような動きでサイラスの額に自分の額をぴたりと合わせた。


「ああ、熱いですわね。…アンガス、あなた、自分の基準でこの方を動かしてはいけません。サイラス様は、朝露に濡れた花びらよりも繊細なのですよ?」


「いや、花びらって…。走るどころか、歩いてるだけじゃないですか」


 アンガスが呆れたように突っ込むが、イレーナは聞く耳を持たない。

 彼女はセバスが差し出した白いシルクのタオルを受け取ると、跪いてサイラスの首筋を丁寧に拭き始めた。


「いいですか、サイラス様。体力や筋肉は短期間ではつきません。まずは、私のエスコートで庭を観賞することから始めましょう。セバス、彼が疲れないように、五歩ごとに設置できる移動式の椅子を用意して」


「御意」


「…あ、あの、それだけでいいんですか?」


 サイラスが戸惑っていると、イレーナは満足げに頷き、彼の腕を自分の腕に絡めた。


「ええ。あなたが倒れてしまったら、私は生きていけませんもの。…あ、そうだわ。歩くのも負担かもしれません。アンガス、あなたがサイラス様を背負って移動しなさい。その間に、彼が足を動かすイメージをすれば良いのですわ」


「はぁ!? なんで俺が…! っていうか、それトレーニングになってねーだろ!」


「いいからやりなさい。…それとも、私の命令が聞けませんの?」


 イレーナの瞳が、ふっと温度を失う。

 アンガスは「うっ」と言葉を詰まらせ、観念したように背中を向けた。


「……ほら、乗れよ。…姉様がこうなると、もう誰にも止められないんだ」


「す、すみません、アンガス君……」


 申し訳なさに身を縮めながら、サイラスはアンガスの背中に預けられた。

 アンガスの体は温かく、イレーナとはまた違う、同年代の少年のたくましさを感じさせる。


「ふん。……お前、軽すぎなんだよ。本当にちゃんと食ってんのか?」


「……ここに来てから、すごく美味しいものをたくさん、いただいています」


「そうかよ。……まあ、姉様の言うことはめちゃくちゃだけどさ。…お前がぶっ倒れたら、俺が姉様に殺されるのは本当だからな。…大事にしろよ、自分の体」


 乱暴な言い方の中に、かすかな気遣いを感じて、サイラスはアンガスの背中にそっと顔を寄せた。


 前を歩くイレーナが時折振り返っては「サイラス様、日差しは強くありませんか?」「アンガス、もっと揺れないように歩きなさい!」と指示を飛ばしている。


 守られている。

 この家の人たち全員に。


 そんな幸福感に包まれていたサイラスの耳に、ふと、門の方から騒がしい声が届いた。


「ですから! ルーサー侯爵家からの急使だと言っているだろう! サイラスを出せ! あいつが処理し忘れた書類のせいで、我が家は大変なことになっているんだぞ!」


 その聞き覚えのある傲慢な声に、サイラスの体がガタガタと震え始める。

 弟のエドワードだ。


 アンガスの背中の上で硬直するサイラスに気づき、イレーナの足が止まった。

 彼女はゆっくりと門の方を振り返る。

 その口元には冷ややかで、しかし極めて楽しげな笑みが浮かんでいた。


「あら。ゴミを捨てたはずの場所に、わざわざゴミを回収しに来るなんて…。ルーサー家の方々は、随分とお暇なようですわね」


 イレーナは手にしていた日傘をセバスに預けると、ゆっくりと手袋を直した。


「アンガス、サイラス様を屋敷の中へ。…ここからは、害虫駆除の時間です」


イレーナがよく分からん暴走をする回


「面白かった!」


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