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第4話:策略家たちのティータイム

続きは明日のこのくらいの時間にー

 サイラスが「少しお疲れのようです」というセバスの判断で別室へ下がり、温かいハーブティーを楽しんでいる頃。

 ヤング伯爵家のサンルームでは、それとは対照的な、極めて寒々しい会話が交わされていた。


「それで、イレーナ。あの少年は、君の『お気に入り』になれそうかい?」


 丸眼鏡の奥の目を細め、ヤング伯爵が優雅に茶を啜る。

 先ほどまでの「優しそうなおじ様」の雰囲気は霧散し、そこには王国屈指の策略家としての顔があった。


「お気に入り、などという生易しい言葉では足りませんわ、お父様」


 イレーナは対面に座り、冷めた瞳で手元の資料――裏ルートで入手したルーサー侯爵家の直近の財政報告書を眺めていた。


「彼は磨けば磨くほど輝く、至高の宝石です。あんな…あんな下劣な連中に踏みにじられていい存在ではありません。彼を傷つけたルーサー家の面々には、相応の報いを受けていただかなくては」


「ははは、怖いねえ。だが私も同感だよ。驚いたことに、ルーサー侯爵家の実務の八割は、あのサイラス君が一人でこなしていたようだ。彼が抜けてから、あちらの役所提出書類は滞り、商会との契約も混乱を極めているらしい」


 ヤング伯爵は、手元にある別の紙片を指で弾いた。


「実の息子を監禁し、その労働力だけを搾取して『ゴミ』と呼ぶ。…これだけでも十分に社交界から追放できる材料だが、それでは芸がない。そうだね、イレーナ?」


「ええ、お父様。一気に叩き潰しては、サイラス様が受けた長年の苦しみに見合いませんわ。まずは、彼らが『自分たちは正しい、サイラスがいなくてもやっていける』と自惚れている間に、周囲の逃げ道をすべて塞ぎましょう」


 イレーナは扇子を広げ、口元を隠して艶やかに微笑んだ。


「まず、彼らが溺愛している次男のエドワード。彼は学園でも素行が悪く、裏で賭博に手を染めているという噂を聞きました。…アンガスに頼んで、少し泳がせておきましょう。決定的な証拠が掴めたところで、まずは彼を廃嫡へと追い込みます」


「いいね。その次は、あの高慢な元婚約者、ケイティー・グローステスト嬢だ。彼女の家は、ルーサー家との繋がりを強化することで経済的な立て直しを狙っている。…だが、ルーサー家の信用が地に落ちれば、彼女も道連れだ」


「グローステスト家が抱えている輸入利権、あれは我が家で買い取りましょう。サイラス様を『欠陥品』と呼び捨てたあのお嬢様には、せいぜい没落した家で、無能なエドワードと共倒れしていただくのがお似合いですわ」


 二人の会話には一片の慈悲もなかった。

 ヤング家は「守る」と決めた身内に対してはどこまでも甘いが、その大切な身内を害した敵に対しては、徹底的に冷酷になれる一族なのだ。


「…ところで、お父様。サイラス様の『白』についてですが」


 イレーナが少し声を低くした。


「世間では不吉な色とされていますが、私にはどうしてもそうは思えません。あの純白は、むしろ神聖な…我が国を建国したと伝説に語られる『聖者』の再来に見えるのです」


「……ほう、君もそう思うかい」


 伯爵は眼鏡を押し上げ、意味深に微笑んだ。


「古文書を調べてみたが、『白』が不吉とされ始めたのはここ百年の話だ。それ以前の建国期においては、白は『神に愛された守護者の色』とされていた。ルーサー家が愚かにもその価値に気づかず、彼を虐げていたのだとしたら…。彼らが彼を捨てたことは、我が家にとって最大の利益であり、あちらにとっては国家反逆にも等しい損失になるだろうね」


「まあ、素敵。ではサイラス様を社交界でお披露目する際は、その聖者のイメージを最大限に活用しましょう。不吉な象徴ではなく、我が国に幸運をもたらす至宝として」


「ああ。その時が、ルーサー家の本当の終わりの始まりだ。準備は私が進めておこう。君は彼をしっかりと甘やかして、我が家から離れたくないと思わせるんだよ。何しろ、あんな掘り出し物、他所に渡したくないからね」


「言われるまでもありませんわ。彼には、私のいない生活など想像もできないほど、たっぷりと愛情を注ぎ込みます」


 イレーナは立ち上がり、窓の外の別棟を見つめた。

 そこには、今も静かに休んでいるであろう愛しい少年の影。


「…待っていてくださいね、サイラス様。あなたを泣かせたものたちが、地面を這いつくばって許しを乞う日は、そう遠くありませんから」


 琥珀色の瞳に、昏い熱が宿る。




 その頃、別室でハーブティーを飲んでいたサイラスは、ふと背筋にゾクリとした寒気を感じた。


(……なんだろう。今、誰かにとても……とても恐ろしいほどの感情を向けられている気がしたけれど…)


 まさか、先ほどまで優しく頭を撫でてくれていたイレーナ様が、「敵の資産をどう剥ぎ取るか」を楽しそうに決めていたとは露知らず。

 サイラスは添えられたクッキーの甘さに、ほんの少しだけ頬をゆるませるのだった。


パパンは娘が確保した婚約者があらゆる意味で棚ぼたすぎてニッコニコよ


「面白かった!」


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