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第3話:ヤング家の職人たち

続きは明日のこのくらいの時間にー

 生まれて初めて、太陽の光で目を覚ました。

 ルーサー家の屋根裏部屋には窓がなく、いつも冷たい水か、あるいはエドワードの蹴りで起こされるのが常だったからだ。


 昨夜のことは夢だったのではないか。

 そう思って体を起こそうとしたけれど、あまりにもシーツが柔らかくて、体が沈み込んでしまう。


「……あ、あの」


 おずおずと声を出すと、まるで待機していたかのように、部屋の扉が音もなく開いた。


「おはようございます、サイラス様。お目覚めのお時間ですね」


 入ってきたのは昨夜の老執事セバスと、数人のメイド。

 そして…なぜかメジャーやハサミを手にした鋭い目つきの人々だった。


「ひっ…」


 反射的に体を丸めた僕を見て、セバスが穏やかに、しかし断固とした口調で告げる。


「ご安心を。彼らはお嬢様の命により集められた、ヤング家専属の職人たちでございます。お嬢様から『朝食までにサイラス様を最高級の宝石に仕上げよ』との厳命を預かっております」


「宝石……? 僕が?」


 戸惑う間もなく、僕は浴室へと運ばれた。


 浴室は、これだけで僕のいた屋根裏部屋が三つは入るほどの広さだった。

 湯気とともに爽やかな柑橘とハーブの香りが鼻をくすぐる。


「失礼いたします、サイラス様。この薬湯は、お嬢様がプロの調剤師に作らせたものでございます。肌の傷を癒やし、血行を良くするための特注品ですわ」


 メイドたちがテキパキと僕の体を洗い清めていく。

 最初は他人に触れられる恐怖で硬直していたけれど、彼女たちの手つきは驚くほど優しく、そして迷いがなかった。

 ルーサー家では「薄気味悪い」と忌み嫌われた僕の白い肌を、彼女たちはまるで国宝でも扱うかのように、丁寧に、丁寧に磨き上げていく。


「……見て。なんて美しいのかしら。この銀色の髪、磨けば月光そのものになるわよ」


「ええ、お嬢様の目に狂いはなかったわね。この方の素材を活かせないなら、ヤング家のメイドは廃業よ」


 職人たちの囁き声が聞こえる。

 どうやら彼女たちにとって、僕は「お嬢様が連れてきた原石」であり、それを磨き上げることは、彼女たちのプライドにかけた仕事らしい。


 風呂から上がると、今度は身だしなみの時間だ。

 髪を整える専門のメイド、爪を磨く者、そして仕立て屋。


「サイラス様、背筋を伸ばしてください。…ふむ、栄養不足で細いですが、骨格は非常に美しいですね。ヤング伯爵家のお食事を三ヶ月も召し上がれば、見事な貴公子の体つきになります」


 仕立て屋がメジャーで僕の体を測りながら、未来を予言するように笑う。


 用意された服は深い紺色のベルベットに、銀の刺繍が施された上着だった。

 袖を通すと、まるで自分の肌の一部のように馴染む。重苦しさはなく、むしろ背中を優しく支えられているような感覚だった。


「さあ、仕上がりました」


 セバスに促され、僕は大きな姿見の前に立った。

 そこに映っていたのは…。


「……だ、誰…?」


 思わず鏡に手を伸ばした。

 鏡の中には、幽霊のような薄幸な少年ではなく、月明かりを宿したような銀髪の、儚くも気品ある青年がいた。

 まだ頬はこけているし、瞳には怯えの色が残っているけれど、少なくとも昨夜まで「ゴミ」と呼ばれていた存在とは別人のようだった。


「お嬢様がお待ちです。…さあ、自信をお持ちください。お嬢様が選ばれたのは、あなたなのですから」


 セバスに背中を押され、僕は食堂へと向かった。

 扉が開くと、そこにはすでに朝食を終えたらしいイレーナ様が、新聞を片手に座っていた。


 僕が部屋に入ると、彼女はゆっくりと顔を上げた。

 そして、琥珀色の瞳を見開いたまま、ぴたりと動きを止めた。


「……あ、あの、イレーナ様。…へ、変、でしょうか」


 急に不安になって、僕はうつむき、服のすそをぎゅっと握りしめる。

 やっぱり、僕なんかがこんな格好をするのは、不釣り合いだったのではないか。

 沈黙が長く感じられて、心臓が痛いほど脈打つ。


「…っ、サイラス様」


 イレーナ様が立ち上がり、大股で僕に近づいてきた。

 怒られるのかと思って身をすくめた僕の肩を、彼女はがっしりと掴む。


「……凄いですわ。想像以上です」


 彼女の声は、少し震えていた。

 顔を上げると彼女の頬は赤らんでおり、その瞳には熱狂に近い喜びが宿っていた。


「セバス! よくやりました! ボーナスです! 職人たち全員に、今すぐ特別賞与を出しなさい!」


「はっ、ありがとうございます、お嬢様」


 イレーナ様は僕の顔をじっと見つめ、感極まったように溜息をついた。


「美しいわ……。サイラス様、今のあなたをあのルーサー家に見せてやりたいくらいです。いいえ、見せませんわ。あなたのような美しい方を、あんな連中の目に触れさせるなんて、世界の損失ですもの」


 彼女は僕の手をとり、陶酔したような表情でその甲に唇を寄せた。


「これからは毎日、私があなたを飾り立てましょう。あなたは私の、最高に誇らしい婚約者なのですから」


 ――誇らしい、婚約者。

 その言葉が、熱を持って僕の体中に染み渡る。

 まだ足元はふわふわとしていて現実感はない。

 でも鏡に映った自分と、目の前で僕を熱烈に見つめる彼女を見て、僕は初めて思った。


 この人が「誇らしい」と言ってくれるなら、僕はそのために変わっていきたい。


「……ありがとうございます、イレーナ様」


 初めて、僕の口から自然な笑みがこぼれた。

 それを見たイレーナ様が「っ…! 尊いですわ……!」と、隣の椅子を掴んで何とか踏みとどまったのを、僕は不思議な気持ちで見つめていた。


イレーナは隠してるけど肉食女子の気配がする

隠してる…?


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!!」


と思ったら

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