第12話:遺品と未来への誓い
続きは明日のこのくらいの時間にー
夜会を明後日に控えた夜。
ヤング伯爵邸の最上階にある、イレーナの自室。普段は家族以外立ち入ることのないその場所に、サイラスは招かれていた。
「入ってください、サイラス様」
部屋の中は彼女らしい質実剛健さと、それでいてどこか女性らしい花の香りが漂っている。イレーナは窓際のソファに座り、机の上に置かれた小さな木箱を見つめていた。
「……夜会を前に、どうしても貴方に渡しておきたいものと、話しておきたいことがあったのです」
サイラスはおずおずと対面に座った。
ここ数日で彼の顔立ちは見違えるほど整った。アンガスとの特訓でわずかに肩幅がつき、夫人のレッスンによって、座っているだけで絵画のような気品が滲み出ている。
「イレーナ様。…お話とはなんでしょうか?」
「……貴方は、かつての私の婚約者、ロナルドのことを……私から彼への想いを、どう感じていらっしゃいますか?」
イレーナの琥珀色の瞳が、真っ直ぐにサイラスを射抜く。
サイラスは一瞬、心臓が跳ねた。それは彼がずっと心の隅に抱えていた、触れてはいけない聖域だったからだ。
「……あの方は……僕には一生かかっても追いつけない、貴女の心の大切な場所にいる方だと……そう、思っています」
「ええ。確かに、彼は私にとって大切な人でした。…でもね、サイラス様。それは、貴方が抱いている不安とは、少し種類が違うものなのです」
イレーナは木箱を開けた。中には使い込まれた古い万年筆と、知恵を司るフクロウを象った銀色のブローチが入っていた。
「これは、彼が亡くなる直前まで持っていたものです。……ロナルドは美しく、儚く、そして誰かに守られていなければ、その瞬間に壊れてしまうような人でした。私は彼を守ることに、自分の価値を見出していた。……それは今思えば、愛というよりも『守るべき責務』に近い慈愛だったのかもしれません」
イレーナは万年筆を手に取り、懐かしそうに目を細める。
「ロナルドは、私がいなければ何もできない人でした。私は、彼が自分を頼ってくれることに満足していた。…でも、貴方は違う」
「……僕も、イレーナ様がいなければ、何も…」
「いいえ。貴方は屋根裏という地獄の中で、たった一人で家一つを支えるほどの牙を研いできた。……貴方は、守られるだけの存在ではない。自らの知性で戦い、そして…私に守られることを、自らの意志で『選んで』くれた。……それが私にとってどれほど誇らしく、情熱をかき立てられることか、お分かりになりますか?」
イレーナは立ち上がりサイラスの隣に座ると、彼の手を優しく、しかし力強く握った。
「ロナルドへの想いは、過去を惜しむ静かな光です。…けれど、貴方への想いは、共に未来を歩みたいと願う、烈火のような情熱なのです。…サイラス様。私は、貴方に私の隣で、誰よりも輝いてほしい」
イレーナは木箱の中からフクロウのブローチを取り出し、サイラスの胸元に留めた。
「これは知恵の守護者のブローチ。…そしてこれこそが、グローステスト侯爵家が喉から手が出るほど欲しがっている『王立書記官』の資格を持つ家系の証でもあります」
「え…?」
「お父様が調べ上げたのですわ。…貴方の母方の血筋は、かつて王室の財政を司っていた没落家系の一族。……このブローチを付けて夜会に出ることは、貴方がルーサー家の道具ではなく、王家から直接認められるべき『正当な知性の後継者』であることを示すことになります」
イレーナはサイラスの頬を包み込み、耳元で囁いた。
「グローステスト侯爵家は、今、焦っていますわ。…貴方がいないせいで、彼らの輸入利権はボロボロ。……だからこそ、夜会で貴方を無理矢理にでも奪い返そうとするでしょう。…でも、心配はいりません。…貴方がこのブローチを付け、私の隣で微笑んでいる限り、彼らは貴方に触れることすら叶わないのですから」
サイラスの瞳に熱いものが込み上げる。
自分はただの「代わり」ではなかった。
彼女は自分の過去を、血筋を、そして研ぎ続けてきた知性さえも、すべて肯定し、未来へと繋げてくれた。
「……イレーナ様。…僕は。……僕は、夜会で、必ず貴女にふさわしい人間として振る舞います。……あの方たちに、思い知らせてやりたいんです。…僕を捨てたことが、どれほど愚かなことだったか」
サイラスの言葉に、これまでにない強さが宿った。
イレーナは満足げに微笑み、彼の額に唇を寄せる。
「ええ、その意気ですわ、私の宝石。……さあ、最後の仕上げをしましょうか。…今夜は、誰にも邪魔をさせませんわよ」
二人の影が、月明かりの下で重なる。
ヤング伯爵が裏で進めている「グローステスト家の利権買収」は、もはや盤上の詰めの状態。
すべては夜会にて――「ゴミ」が「聖者」として君臨し、略奪者たちが自滅する舞台のために。
イレーナもサイラスを見つけるまでは過去に引きずられまくっていたのかもしれない
ある意味、自身も救われた出会いだったのでは?と思うこの頃
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