14
仕事を手に入れて最も良かったことは、教師用の一軒家が用意されていたことだろう。
急ピッチで進められた都市開発の最中に建てられた職員用社宅は、学校から徒歩十分。
敷地は広く、周囲を見渡しやすい立地で、警戒という点でも申し分がない。
2032年現在、教員の福利厚生はここまで充実しているものなのだろうか。
「やっぱりこっちのほうは土地が余ってるのかしら。私、ナイス判断だったわね」
「どうせ適当に選んだだけだろ」
「違うわよ。選ぶべくして選んだ、って感じ」
二人で暮らすには明らかに広すぎる新居。
転生二日目にして、俺たちは“安心できる我が家”を手に入れていた。
翌朝。
今日はエリの初登校、そして俺の初出勤だ。
「緊張してる?」
朝食を取りながら、エリが何気なく聞いてくる。
「するに決まってるだろ。初めての学校だし、下手すりゃこの家ともおさらばだ」
「それは困るわね。くれぐれも問題起こさないでよ」
「それ、こっちの台詞なんだが」
慣れてきたとはいえお互いに何事もなく過ごせればいいのだが。
俺はしばらくの間、西岡という教師の補佐として働くことになった。
肩まで届く、緩くカールした髪。
柔らかな雰囲気を纏った女性で、俺より数年先にこの学校へ赴任してきたらしい。
「お互い慣れるまで、支え合っていきましょう」
そう言われたが、支えられているのは明らかに俺の方だった。
担当するのは一クラス。
もっとも、この学校には学年という概念が存在せず、15歳から18歳までの生徒が20人ほど在籍しているだけだ。
幸いにも、俺はエリが所属するクラスに配属された。
それが配慮なのか、単なる人手不足なのかは分からない。
俺のような、教育経験もない人間が務められる時点で察しはつくが、求められるのは高度な技能よりも、最低限の良識だった。
それでも、
教師と生徒の間にある、どこかぎこちない不均衡。
職業ゆえのものか、それともこの歪な町そのものが生み出した空気なのか。
俺はその違和感を、確かに感じ取っていた。
その日の暮れ。
任された簡単な雑務を終え、俺は机に広げた名簿に目を通す。
生徒、職員、一人一人をしっかり確認しながら。




