1 Prologue
弾丸が腹を貫く。
左には依頼人だった女が俺を刺したナイフを掴んだままこちらを睨みつける。強い恨みの込もったその目。何度も見てきた光景だが、今回だけは特別に色濃く脳裏に焼き付いた。
死ぬのかな
碌な人生じゃなかった 生まれ変わるなら鳥になりたいな
熱を失っていく体と白飛びする景色の中で最後に俺はそんなことを考えていた。
「鳥ぃ? あんなのになりたいなんて感性終わってんじゃないの。汚いしろくに頭も使えないのよ
あんたは本来ならラッコになるはず」
「ラッコか、ネットでしか見たことないな。どうせなら動物園で可愛がられながら暮らして長生きしたいな」
「残念 3歳の時シャチに食われて死ぬわね」
ほんとに碌なもんじゃない、神がいるなら一発ぶん殴ってやりたいもんだ
というか、
「誰?」
ふとあたりを見渡すとそこは昔暮らしていた家だった。同時に忌々しい記憶が頭の中にあふれ出す。
「というか仕事は?」
体を確認してみると、さっきまであった刺し傷も銃創もきれいさっぱりなくなっており体はむしろ生き生きとしている。
「終わったわよ全部」
声がそう答える。女の声だった。高く、落ち着いており安らぎを感じさせる。先ほど死を強く実感したからかその声に天使を連想した。
「まぁ天使ってのは間違いじゃないんだろうけど。とりあえず話していいかなクラン・ベルフォード君」
声に出ていたのだろうか。名前を呼ばれてふと我に返る。
「クラン・ベルフォード 19歳 イタリアのフィレンツェに日本人の母とイタリア人の父との間に生まれる。しかし6歳の頃、強盗に入られ両親は他界。その後身寄りもなく施設に引き取られるも、過酷な環境に耐えられずに1年もせずに失踪。その後、物乞いをしていたところを組織に拾われる。初めは捨て石として利用されていたが、年齢を重ねるにつれその才能が花開き組織内で有数の掃除屋となる。
しかし、その才能ゆえ目を付けられ組織内のものの手引きで殺される。
まさにぴったりね」
俺はそれを黙って聞いているほかなかった。そもそも状況すらまともに呑み込めていないのだから、そうするほかあるまい。
「あなたを刺したあの女。あれはあなたに父をころされているのよ、それを組織の人間に利用されたってわけ」
「しってるよ」そうなのではないかと思っていた。あの目がそうだと思い出させたのだ。殺した父親にそっくりだったあの目が。
「さらに言うと、あなたの両親はあなたの組織の人間に殺されてるわ。あなたのお母さん、結構美人だったらしいじゃない」
「それも知ってる」
知っていても、そう生きるほか無かったのだ。あるいは、自ら深く考えないようにしていたのかもしれない。ただがむしゃらに生きることで考えないで済むように。
「で、何が言いたい? 地獄行きってわけか?」
「気を悪くさせたわね、ごめんなさい」
声はそう言うと、
「私が言いたいのは、あなたは世界に強い恨みを持っている。それでいて、それだけの絶望を持っていながらも生に固執するその姿勢。私が評価してるのはそこなのよ。腕が立つことやそのよく回る頭よりも、それが何より気に入ったってわけ」
「いまいち話が見えてこないな。評価だの気に入っただの、俺を評価してどうする」
「あなたはこれから私と組んで神を殺すの」




