第99話 強くなる
恐怖の森での地獄みたいな試練を終え、ようやく道へ戻った。
カーラハウスが平原を走る。
空は澄み渡り、日差しは暖かく、風は心地よい。
……本来なら、のどかな旅路のはずだった。
だが今の私は、原初三柱を正座させて説教していた。
「おい、そこの三人。そう――ルナ、ローグ、フレイ。
恐怖試練の間、どこで油売ってたの?」
三人はカーラハウス前部に座って、優雅にお茶を飲みつつ、銀河を駒にしたような宇宙ボードゲームを遊んでいた。
ルナは無表情で瞬きをする。
ローグは肩をすくめる。
フレイはカップを掲げ、まるでおかわりを要求するように指を立てた。
「我らは原初。恐怖の概念は我々に干渉しない」
とルナ。
ローグが続く。
「そーそー。恐怖試練ってのは、“感情の限界”があるやつにしか効かないんだよねー」
フレイは微笑みながら頷く。
「それに、ミストレスは素晴らしく対処していましたよ?」
「少しくらい手伝えぇぇぇ!!」
私の叫びは平原中に響き渡った。
三人は同じ角度で首を傾ける。
なんだその“無垢な原初”みたいな顔は。
「……ご主人様の成長を観察したくて」
とフレイが優しい笑顔で言い出す。
「観察すんなら、ゴーレムに殴られない程度に手助けしろやぁぁぁ!!」
皆はそっと目をそらした。
アウレリアですら知らん顔で咳払いする。さっき私がぺちゃんこになってたの、絶対見てただろ。
一行は進む――問題も一緒に
怒りが収まってきたころ、日が高いまま、広大な草原に到着した。
カーラハウスから降りる人数――
十七人。
私はその人数を見て呆然とした。
私の仲間。
私の教え子。
友人。
原初たち。
吸血鬼の王女。
半神の剣聖。
子供が二人。
創造。
永遠。
狼族。
……そして、この宇宙サーカスの頭痛担当である私。
「ニャ……星山まで、あと何個試練あるの?」
ニャがふわりと浮かび、答える。
「残り三つです、リリア。
そしてそれぞれ、危険度も概念難度も無限にスケールします」
「なんで今言うの!?」
「聞かれなかったので」
地面殴りそうになった。
視線を向けると、アニーとエリサが不安げに、しかし決意を宿した眼でこちらを見ている。
アニー。
半魔の少女にして、今や大精霊竜の魂の持ち主。
エリサ。
ソラリス王国の王女で、神すら超えようとする少女。
二人が見上げてくる。
……大人として見せるべき背中ってのがある。
私はパンッと手を叩いた。
「よし、聞け!
次の試練じゃ、自分の恐怖を誰かが助けに来てくれる保証はない!
だから今日から――修行開始!」
アニーが小首を傾げ、
エリサは背筋を伸ばす。
私は続けた。
「アニー。君の中には“大精霊竜”――世界最強の竜の力がある。
いい? コントロールできなきゃ、街ひとつ吹き飛ぶからね?」
アニーはコクンと頷き、手のひらに淡い竜気を灯した。
「エリサ。もっと強い脅威に立ち向かうなら、君は自分の限界を超える必要がある」
エリサが怯えた声で言う。
「で、でも……人間は誰も半神以上に進化できなかったって……アウレリア様ですら……」
「エリサ、君は“人間一般”じゃない。
ポテンシャルが違う。
めっちゃ高い。
だから私が神になるまで鍛え上げてやる!」
一同、固まる。
アウレリア「リ、リリア……正気か!?」
ダリウス「人間がそう簡単にできるか!」
カエル「岩を太陽に進化させる気か!?」
リラ「私の矢でも突っ込めない理屈だねそれ!」
エリサ本人は星核でも飲んだみたいな顔になった。
だが、私は止まらない。
「“深淵の王”が来る。
玉座より遥かにヤバい。
古く、原始で、“創造前の虚無そのもの”。」
空気が凍りついた。
ローグの笑みが消え、
ルナの表情が微かに揺れ、
フレイが目を伏せる。
“深淵の王”
玉座が仕えていた存在。
預言にあった災厄。
星山の願いで力を完全回復しようとしている最悪。
私は続けた。
「もしあいつが山に到達したら……終わり。
全世界。
全次元。
源ですら、揺らぐかもしれない」
ニャが計算式を投影する。
【宇宙滅亡確率:100%】
【多元崩壊確率:99.999999%】
【リリアの致命的にヤバい確率:100%】
……いや分かってたけどさ!?
私は深いため息をつく。
「だから私自身ももっと強くなる必要がある。
そのためには――創造の力が必要なんだ」
皆の視線が、“全てを創りし原初”である創造へ向く。
創造は穏やかに微笑んだ。銀河を宿す髪が揺れ、瞳は生成の光に満ちていた。
「なるほど。さらに進化したいのですね。原初としての制御を磨くために」
私は頷く。
「うん……あの深淵の王は、私を殺す気満々だからね。
しかもフェアな戦いなんて待ってくれない」
永遠がトコトコと前に出てくる。
「では、リリア!
わたしの“新しいお気に入りの女神”がどこまで強くなるのか、見せてもらおうじゃない!」
……え?
今さらっと私を“お気に入り”にした?
創造が頷いた。
「では――ローグ、ルナ、フレイ。
リリアを助けなさい。
今日よりリリアは、創造と永遠の監視下で修行を積むのです」
周囲がざわつく。
カエル「創造本人の修行……だと……」
ロナン「同じ空気吸ってていいのか俺……」
リラ「これが神のコネ……?」
セラフィナ「ふっ、やっぱりあの子は特別だね」
アウレリア( pride+jealousy の混合顔 )
私はため息をつき、手を鳴らす。
「よし……
エタニティ、創造。
始めよう。」
創造の瞳に宇宙光が宿り、
永遠が悪戯天使のように笑い、
ローグがストレッチを始め、
フレイが陰陽宇宙波を纏い、
ルナの背後に時空の揺らぎが生まれる。
……絶対に痛い。
でも構わない。
深淵の王が全てを壊すなら――
私が全てを超えて守るまでだ。
創造が手を掲げ、訓練場が“天界アリーナ”へ書き換えられていく。
後方では皆が準備を始めていた。
ダリウスはロナンと打ち合い、
リラは弓を整え、
カエルとセレーネは瞑想し、
セラフィナは爪を研ぎ、
フェンリルは周囲を警戒し、
アウレリアは剣を調整しつつ、どこか優しい目で私を見ていた。
アニーの竜気がふわりと揺れ、
エリサは決意を宿した瞳で拳を握る。
もうこれは旅じゃない。
決戦に向けた準備だ。
時間より古い存在との戦い。
原初すら恐れる存在との戦争。
創造が宣言する。
「リリア・フォスター。
新生の女神。
“自由”の原初。
初代女神の継承者。
――その魂、どこまで昇れるか見せてみなさい」
私は唾を飲み込み、震える心を押し殺し――
頷いた。
「上等。
星山に着くまで死ぬ気はないし、
このストーリーアークも終わらせる気はないから!」
ローグが笑い、
ルナが微笑み、
フレイが囁く。
「見せてください、小さな女神」
こうして――
最終決戦に向けた修行が始まった。




