表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しい女神  作者: ジュルカ
星の山の弧

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/170

第98話 憂鬱の霧

カーラハウスがゴゴゴと前進し、車輪が砂利と“幽草”をバリバリと踏み潰す。重く、不自然な霧が四方から這い寄ってきていた。


私は運転席で片手はハンドル、もう片手は地図を持ちながら前方を睨む。進路には古代文字でこう記されていた。


鬱霧うつぎり――試練一:お前を壊すものを歩け』


目が細くなる。


「……はいはい。やっぱり感情系の試練かよ。罠穴とか爆発する木とかでよくない!?」


ニャが浮遊する猫ホログラムの姿で現れ、尻尾をだるそうに揺らす。


<<ご主人様、データ解析完了。この区域は高位の幻術・霊圧フィールドです。通過するには、自身の最も深く暗い恐怖の具現と対峙する必要があります>>


私は無表情で見つめ返した。


「つまり、殴り合い付きのセラピーってわけね。最高じゃん。」


霧はさらに濃くなり、視界の隅で影が歪む。耳の奥で囁きが蠢き、どんどん大きくなる。何かが心の奥を叩き、深部へ潜ろうとしていた。


そして――


BOOM!!


轟音がフロントガラスを震わせた。私は急ブレーキを踏み込む。


外で……何かが動いていた。巨大な“何か”が。


影だ。


私は外へ出て――凍りついた。


違う。

これだけは……これだけは勘弁して。


「嘘でしょ……?」


目前にそびえ立つのは巨大ゴーレム。高さ十五メートルはある。そしてただのゴーレムではない。

私の幼少期の恐怖の象徴。


赤く光る目。表情のない不気味な粘土の顔。幼い頃、夢に出てきて私を追い詰めた記憶。精神が壊れかけた失敗ダンジョンシミュレーションで見た、あのゴーレム。


「なんで“コイツ”なんだよぉぉ!?」


私がバリアを張った瞬間、巨腕が大地を叩き潰す。衝撃が地面を波打たせ、木々を吹き飛ばし、土塊を舞い上げた。


カーラハウスが激しく揺れる。


数秒後、ドアが勢いよく開いた。


皆がパジャマや部屋着のまま飛び出してくる。セレーネ、フレイ、ダリウス……全員が寝ぼけ眼で――そして見上げた瞬間、目を見開いた。


「――な、なんだあれは!?」


ロナンが叫ぶ。「いや待て、あれ……ただの魔物じゃねぇ!どこかで……見覚えが……!」


その瞬間、始まった。


彼らの恐怖。全員分。

霧から具現化していく。


カエルの手が震える。「やめろ……嘘だろ……!」


霧から現れたのは、彼の“死んだ師匠”の闇堕ちした幻影。


リラは息を呑む。かつて家出する原因となった父親のねじれた像が、侮辱の言葉を吐きながら現れた。


アウレリアの顔が蒼白に染まる。聖なる光を帯びた母――聖母大祭司の幻影が言う。

「お前は私の血に相応しくなかった」


ルナでさえよろめいた。感情も慈悲もない、破壊のためだけに存在する“影の自分”が姿を現したからだ。


「恐怖の構造体……」セラフィナが歯を食いしばる。彼女の過去を呪った“燃える太陽の狂信者たち”が軍勢となって迫る。


説明されるまでもなく分かっていたが、ニャが補足する。


<<確認。全員の最深層の恐怖が霊的投影として具現化しています。霧のフィールドは感情共鳴を増幅。恐怖が強いほど敵も強くなります>>


「ちっ……最悪。」


私は外でゴーレムと渡り合い、巨拳を避け、剣を振るっていた。しかしゴーレムはどんどん大きく、凶暴になり、攻撃は重く速くなっていく。


「ニャ、なんで強くなってんの!? 押し返してるはずなのに――!」


<<ご主人様がまだ“怖がっている”からです>>


動きが止まる。

刃がゴーレムの拳とぶつかり、火花が散った。


「この霧は力比べじゃない。恐怖を糧にしてるんだ。誰かが怯めば怯むほど……悪夢は強化される」


私は見上げる。巨大な影を。

胸の奥が痛む。

無力になりたくない。ひとりになりたくない。

皆を守れなくなる恐怖。

弱い自分に戻ってしまう恐怖。


――原初存在になった今でさえ。

その恐怖は、まだ心の奥に刻まれていた。


剣を握りしめ、私は霧より大きな声で叫ぶ。


「みんな、聞いてぇぇ!!」


全員が振り返る。戦いの最中でも、追い詰められていても。


「分かった! 恐怖すればするほど強くなる! 怖がらないようにしろ! “向き合え”!!」


カエルが叫び返す。「言うのは簡単だろ!」


「簡単なわけないだろ! 私だって怖い! めちゃくちゃ怖い! でも逃げたら喰われるだけだ!!」


私は深呼吸をする。

目を閉じて――呟いた。


「私はもう、あの小さな怯えた子供じゃない……お前に支配されない。」


目を開く。

剣に青い光が奔る。


――斬撃。


ゴーレムがぐらりと揺れた。


表面に亀裂が走る。


私は踏み込む。もう一撃。もう一言。


「私はリリア・フォスター! 女神だろうと何だろうと、自分の恐怖は“私が選ぶ”!!」


剣がさらに輝いた。


他の皆も理解し始める。


ダリウスが立ち上がり、亡き家族の幻影を貫く。「俺は……他の誰かを守る!!」


アウレリアが霧の中を突き進み、幻の母を撃ち砕く。

「私は“私”を選ぶ!!」


カエルが盾を構えて立ち上がる。「もう自分を許す!」


リラが偽物の父を炎の矢で焼き払う。「あんたは私を決めつけられない!」


ひとり、またひとりと立ち上がる。


――霧が薄れていく。


――恐怖が消えていく。


私はコンセプト・フローマナを剣に纏わせ、創世炉肉体の出力を上げ、絶対重力を重ね――跳ぶ。


「もう……怖くない!!」


ズバァァァン!!!


ゴーレムが砕け――粉塵となって崩れ落ちた。


一帯に静寂が訪れた。


霧が晴れ――

太陽の光が差し込む。


私は肩で息をしながら周囲を見る。

皆も息を整えていた。


霊圧は消えた。

カーラハウスも無事。

そして、私たちは生きている。


ニャが再び現れる。


<<おめでとうございます、ご主人様。試練一――突破です>>


私はその場に大の字で倒れ、叫んだ。


「お願いだから次は“トラウマ抜き”の試練にしてぇぇ!!」


皆が笑う。


私たちは生き延びた。


星山スター・マウンテンへ、一歩近づいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ