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新しい女神  作者: ジュルカ
その ガラ アーク

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85/93

第85話 ガラへ

二週間の旅。

砂虫を一匹ぶっ壊し、カエルの料理実験で三回死にかけ、

「誰が一番いびきをかくか」で無駄に夜を費やした結果(ロナンはまだ否定している)。


――ついに、たどり着いた。


太陽王国〈ソラリス〉。


そして、天界のマナ核よ……美しすぎる。


黄金の門は山よりも高く、

曇り空の下でも太陽のように輝く光晶石で彫られていた。

都へ続く道の両側には銀葉の樹が並び、

枝脈が星のように光を流している。


空気すら高級だった。

マナは濃いだけでなく、精製され、

神聖な調和のリズムで脈打っている。


「……なんだこの街、天国とラスベガスとSF建築を混ぜて“いけるっしょ”って言った奴がいるな。」

私は呟いた。


ロナンが低く口笛を吹く。

「道路がルナの空間裂け目より滑らかだな。」


「当然です。」

腕を組んだルナが、舗道に流れる光紋を観察する。

「マナの流れが安定している。完璧な人工調整ですね。」


カエルの目が輝いた。

「このパターン解析だけで論文百本書ける!」


「ダメ。」

私は即答する。

「また道の真ん中で立ち止まったら、置いていくから。」


「科学には犠牲が必要なんだ!」


街の中心〈サンヴェイル通り〉に入る。

店の外観が宝石箱みたいに輝き、

光のドレスや、国ひとつ買える値段の指輪が並んでいた。


セレーネが目を丸くする。

「まぁ……教会まで金箔ですのね。」


「そりゃそうよ。」

私は、ネルソンよりでかいステンドグラスを見上げて言う。

「ここじゃきっと“ダイヤで献金”が普通なんでしょ。」


黒スーツに赤いネクタイ(曰く“別次元のゴミ箱で拾った”)姿のローグが、隣であくびをした。

「街全体が“自慢大会”だな。

 賭けるけど、二時間以内に“史上最も奇妙な使節団”って呼ばれるぞ。」


「二時間?」

ダリウスが鼻で笑う。

「十分だろ。」


そしてたどり着いたのは――

〈ソラリス大使館宿舎〉。


神ですら“服装を間違えたかも”と思うほど豪華な、

宮殿サイズのホテルだった。


カラハウスを降りた瞬間、

人々の視線が一斉に集まる。


ルナの神格の光。

セラフィナの妖艶な闇。

オーレリアの王の気品。

そして私――創造の矛盾。


そりゃ、注目もされる。


オーレリアは完全に“本職モード”だった。

金髪が陽光に煌めき、

鎧の代わりに光紋の刻まれた白の礼装。

腰に手を当て、まるで教師のように一言。


「よく聞きなさい。今夜の舞踏会は王族と外交官の集まり。

 つまり――混沌禁止、爆発禁止、貴族恫喝禁止、世界滅亡級の力の使用も禁止。」


沈黙。


そして、六つの視線が同時に私へ向く。


「……なに、その目。」


ロナン:「経験。」

カエル:「統計的確率。」

ルナ:「歴史的記録。」

セラフィナ:「常識。」

オーレリア:「その通り。」


「一回だけだってば! あの次元亀裂、私のせいじゃない!」


「あなた、くしゃみで音響システムを消し飛ばしたのよ。」

オーレリアが冷たく言う。

「しかもそのくしゃみ、六言語で“ごめんなさい”って謝った。」


「才能でしょ。」

「災厄よ。」


オーレリアは前に出て、完全に“教師モード”。


◆ 舞踏会・行動規範 by オーレリア ◆


「第一条、喧嘩禁止。言葉の喧嘩もよ。」


「……“言葉”の定義は?」

「皮肉も禁止。」

「それ呼吸止めろって言ってるようなもんよ。」


「第二条、神性の気配を抑制。

 我々の存在で人間にパニックを起こさないこと。」


ルナ:「私も含まれますか?」

「むしろあなたが一番危険。」


ローグ:「無理。混沌は漏れる。」

「手袋でもしてなさい。」

「布でエントロピー止まると思うか?」


「第三条!」

オーレリアが声を張る。

「カエル、実験禁止!」


カエルがメモ帳を落とす。

「無害なマナ密度測定くらいは――」

「絶対ダメ。」


「第四条、リラ。貴族を口説くな。」

「え? わたしそんなこと――」

「アエセリスでやったでしょ。」

「あれは外交!」

「それは公爵令嬢へのナンパ。」

「意味一緒よ。」


「第五条。神の肩書きを使うな。

 リリア、あなたは“原初”を名乗らないこと。」


「……聞かれたら?」

「特に聞かれてもダメ。」

「国王に聞かれたら?」

「“引退した図書館司書”と言いなさい。」

「余計怪しい!」

「安全なの!」

「せめて“フリーの形而上建築士”って――」

「却下!」


十八番目の“ビュッフェで次元門を開くな”までいった頃には、

全員の魂が抜けかけていた。


オーレリアの教師力、恐るべし。


「以上。理解したわね?」


皆が疲れ切った声で「はい」。

私はだらっと敬礼する。

「了解、キャプテン・ブズキル。」


「今なんて?」

「いえ、“陛下最高”って。」

「聞き間違いよね?」

「もちろん。」


黄金の街並みを歩きながら、

夕陽が塔の群れに反射して、

まるで都市全体が永遠の昼に包まれているようだった。


どれだけルールを並べられても――

私は笑っていた。


「……すごい。

 この街、本当に“世界の中心”みたい。」


隣でルナが地平を見つめる。

「ソラリスは太陽に最も近い王国。

 この地では“光が罪を浄化する”と信じられています。」


「へぇ……じゃあ、闇が舞踏会に現れたらどう思うんだろ。」


ルナが微笑む。

「跪くでしょう、ミストレス。」


「パニックの間違いじゃ?」

「どちらでも、面白いです。」


遠くで城の鐘が鳴る。

夜の訪れを告げる音。


私は腕を伸ばして大きく息を吐いた。


「よし、みんな。今夜の任務はただひとつ。

 “次元危機を起こさないこと”。」


ローグが口角を上げる。

「“危機”の定義は?」

「ニュースになること全部。」

「……じゃあ詰んだな。」


夜が、夢のようにソラリス王国を包み込んだ。


街路には黄金の光が並び、

浮遊するランタンが空へと舞い上がり、

空を魔力の煌めきで彩る。


王城はまるで“生きた太陽”。

光晶塔が柔らかな輝きを放ち、

すべてのバルコニーが魔法の灯火で黄金に染まっていた。


――ソラリスの舞踏会、開宴。


音楽が中庭に響く。

ヴァイオリンとハープの旋律が魔力周波と共鳴し、

空気そのものがリズムを刻むように震える。


各界の来賓が到着していた。

王、賢者、姿を偽った神、

さらには魔装の天獣までも。


この夜、優雅さは魔法そのものだった。


……だが。


カラハウスの中は――地獄。

煌びやかで、ドレスまみれの、ファッション地獄。


「ロナン! うるさい! 今行くって言ってるでしょ!」

「二十分前からそれ言ってんだろ!」

「ルナのせいよ!」

「聞こえてます、ミストレス。」

背後で淡々と返すルナが、襟を整える。

「動かないでください。縫い目が歪んでます。」

「歪んでない! 締めつけてるだけ!」

「それを“姿勢”と言います。」

「それを“拷問”って言うの!」


「あなたは女神です。原初竜と戦い、時間軸を手で繋いだ存在。ドレスくらい耐えられるでしょう。」


「話が違う! 私は元男なの! この――」

私は手を広げ、ルナが選んだ銀のドレスを指差した。

「――このキラキラ地獄はテリトリー外なの!」


「後で感謝しますよ。」

最後の宝飾を留めながらルナが言う。


「絶対しない。」


ルナが一歩下がり、満足げに微笑んだ。


「……完璧です。」


「本当に?」

私は鏡を見てぼやいた。

「転んだらあなたの責任だからね。」


そう言って振り向いた瞬間――息が止まった。


鏡の中に立つのは、いつもの“カオス製造機”ではなかった。

それは、まるで月光の化身。


銀色のドレスは透明な魔力絹を幾重にも重ね、

月の水面のように淡く揺れていた。

普段はボサボサの髪が、流れる星光のように肩を超えて広がる。

首元のダイヤのチョーカーが神光を放ち、

耳元の双太陽のピアスが微かに揺れた。

淡い青に輝く瞳は、光を受けてガラスのように散った。


思わず息を呑む。


「……いや、これはやりすぎでしょ。」

頬が熱くなる。


「ちょうどいいです。」

ルナが微笑む。

「あなたは“自由の女神”。美しさすら、あなたの意志に従うべきです。」


「やめて。変なこと言わないで。」

「変ではありません。敬意です。」

「余計に変だから!」


――ドンッ!


勢いよく扉が開いた。


「リリア! お前――」


ロナンの声が途中で止まった。

ダリウスも固まる。

カエルは手のグラスを落とし、

フェンリルですら瞬きを忘れる。


廊下には、オーレリア、セラフィナ、セレーネ、ナリ、アナ、リラ、フレイ、そしてローグ。

皆が立ち尽くし、言葉を失っていた。


彼らも、それぞれ絵画のように美しかった。


オーレリアは白金の礼装に金の縁取り。

髪を王族のように編み上げ、完璧な姿勢で立つ。

セラフィナは紅と黒のドレス――“神界の社長”そのもの。

セレーネは聖なる蒼に包まれ、舞い降りた天使のよう。

リラの深緑は木漏れ日の煌めき。

ローグは黒スーツに死神のような笑み。


……だが、誰も言葉を発さなかった。


皆、私を見ていた。


「……えっと、やぁ?」


沈黙。


やがて、カエルが小声で呟いた。

「……また進化した……」


「黙れ。」


ロナンが瞬きを繰り返す。

「それ……お前か?」


「天才。」


「いや、でもお前――」


「女。知ってる。」


セレーネが手を合わせ、星のように輝いた。

「まぁ……ミストレス! 神々しいですわ!」


リラがニヤリと笑う。

「“月女神スタイル”似合うねぇ。」


セラフィナが顎に手を当てる。

「人間に銀が似合わないと思ってたけど……撤回するわ。」


……オーレリアだけ、動かない。

目を見開き、唇を半開きにしたまま――固まっていた。


「オーレリア?」

手を振る。

「聞こえてる?」


彼女の顔が、魔法のような速さで真っ赤に染まった。


「な、なんでもない! ただ……その……似合ってる!」


「褒め言葉として受け取っていいの?」

「調子に乗るな!」


「お姫様、照れてる?」

「照れてない!!」

「照れてる~。」

「ルナ! なんでこんな格好させたの!?」


ルナは穏やかに微笑んだ。

「銀河に“真の優雅”を思い出させるためです。」


数分後。


私たちはカラハウスのメインホールに集まっていた。

神々、戦士、変人、そして女神。

全員がそれぞれの衣装で、世界最高の夜に挑む準備を整えていた。


ローグが袖を直しながら言う。

「政治戦が起きなかったとしても……今夜はファッション革命だな。」


「私たち、最高に見えるわね。」リラが誇らしげに言う。

「いつも最高だけど?」セラフィナが微笑む。


「俺は苦しいんだが。」ダリウスが襟を引っ張る。

「それが“上品”というの。」オーレリアがドヤ顔。

「いや“絞殺”だ。」


私は窓辺に立ち、遠くの王城を見つめた。

金の光を放つその姿は、まるで天へ昇る灯火。

通りには貴族たちの馬車が並び、旗が光を受けて揺れていた。


――胸の奥が少しだけ熱くなった。


どんな戦いも、どんな混沌も、

いくつもの世界を壊して、創り直してきた私。

けれど、こんな“舞踏会”ひとつで、

一番“人間”を感じている。


「ねぇルナ。」小さく尋ねる。

「……私、恥かかないかな。」


ルナは穏やかに笑い、手を後ろに組む。

「あなたが? ありえません。

 彼らを魅了し、畏れさせ、

 ついでに“美の定義”を上書きするでしょう。」


「……具体的すぎない?」

「でも正確です。」


――七時の鐘が鳴った。


ソラリスの夜会、正式開幕。


私は深く息を吸い、仲間たちを見渡した。


「よし、みんな。」

「“王族の概念”を壊しに行こう。」


ローグが笑う。

「喜んで。」


オーレリアが額に手を当てる。

「正式には“礼儀正しく参加”でしょ。」


「うんうん。言葉の違いだけだよ。」


ルナがそっと腕を差し出す。

「行きましょうか、ミストレス。」


私は小さくため息をつき、その手を取った。

カラハウスの扉が開く――

光と音楽、そして無数の視線が待つ世界へ。


「……さぁ、派手に行こうか。」


そして、私たちがソラリス城の中庭に踏み出した瞬間。


音楽が止まり、

群衆が一斉に振り向く。


黄金のシャンデリアの下、星空の下で。

――自由の女神が、歴史にその一歩を刻んだ。

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