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新しい女神  作者: ジュルカ
その ガラ アーク

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第83話 買い物旅行(手伝ってください)

朝の陽光が、ガルシラの石畳を照らしていた。


西方の交易都市。

焼きたてのパンの香りは天国の匂い。

露店商人たちは五つの言語で喧嘩しながら値切り合い、

魔導灯が心地よい光をちらつかせる。


――そんな平和な街で、

私が今日、予想外に経験することになったのは。


買い物。


銀色のカラハウスが街門の前で静かに止まり、

その輝く外装が朝日を跳ね返す。


人々が息を呑み、

神々・魔族・英雄・馬――

十四人と一頭のカオス集団が降り立った。


「……で、なんで来たんだ?」

ダリウスがコートを直しながら尋ねる。


「服を買うの。」私は即答した。

「ソラリスの王立舞踏会に出席するんだから、ちゃんとした格好が必要でしょ。」


ロナンがうめく。

「俺たちは貴族じゃねぇ、戦士だ。」


「でも行く先は王族と神と書類の化け物がうじゃうじゃの外交会よ。

 血のついた鎧で出席する気?」


「……ちょっとは。」


「却下。」


その横で、オーレリアが風になびく銀髪を揺らし、

“読んだわね”の顔で睨んでくる。


「……私の手紙を読んだでしょ。」


「もう謝った!」私は両手を上げた。

「何回も!」


「王室宛の私信を開封したわよね。」


「厳密には、フクロウが私に渡したの。」


「宛名は私!」


「お風呂入ってたじゃん!」


「言い訳にならない!!」


周りは爆笑を堪えきれず、セレーネがそっと囁く。

「……完全にツンデレライバルですね、ミストレス。」


オーレリアの視線が向いた瞬間、セレーネはセラフィナの背後に避難した。


「はいはい! 休戦! 服買おう! 裁きの雷は後で!」


オーレリアはため息をつき、頬を赤らめながら背を向ける。

「……いいわ。でも支払いはあなた。」


「……は?」


「原因はあなた。支払いもあなた。」


「神よ……どうか私の財布を守って。」


✦ ガルシラ・ファッション街にて ✦


この世には様々な地獄がある。

炎の地獄。絶望の地獄。

そして――ショッピングバッグの地獄。


私は今、創造の女神、自由の原初、現実を壊す者として。

十二袋のドレス・靴・アクセサリー・「念のためのマント」を抱えて歩いていた。


背後には、魂の抜けた男たちの行列。


五箱を担ぐダリウス。

頭の上に宝石箱を積んでバランスを取るカエル。

二体の魔導マネキンを引きずるロナン。

「ドレスの色に合わせたい」と言われ、ソファを運ぶフェンリル。

そして――ピンクの日傘を差してサングラスをかけた混沌の原初ローグ。


「……俺、昔銀河を遊びで滅ぼしたけど、これよりマシだったな。」


「同意。」フェンリルが唸る。

「これは意志の試練だ。」


「神と戦ってた方が楽だ。」ロナン。

「死んでた方がマシ。」ダリウス。


カエルは「荷重限界に対する魔力応力」を数式で呟いている。

私は、殴りたい衝動を抑えた。


一方、店の中は天国と地獄のハイブリッドだった。


セレーネは聖女とは思えぬ笑顔でドレスを試着。

セラフィナは試着室をゴシックの館に変えていた。

リラとナリは宝飾店で値引き勝負。

アナは帽子売り場で自分より大きなフリル帽を抱えて走り回る。


そして――オーレリア。


純白のドレスをまとい、鏡の前に立っていた。

布が淡い神光を放ち、まるで祝福そのもの。


私は思わず足を止めた。


彼女はわずかに振り返り、

鏡越しに視線を合わせる。


「……どう?」


「……似合ってる。」


唇の端が少し上がる。

「正直に言えるじゃない。」


「一回だけね。」


彼女が笑った。

ほんの数秒、騒がしさも重さも消えて――

静かな時間が流れた。


……五秒後、外からローグの声。


「おーい! 自由の女神! 財布が泣いてるぞ!」


「これは“投資”!」

「それ“借金”だろ!」

「うるさい混沌!!!」


地獄の一日が過ぎ、夕暮れ。


戦い抜いた私たちは、

小国ひとつ分の服と靴を手にしていた。


荷物を積み込むため、カラハウスは部屋を二つ増築。

男組は戦争帰りの英雄のようにソファに沈み、

私は最後の袋を放り投げてルナの隣へ倒れ込んだ。


ルナは静かに紅茶を飲んでいる。


「……全然疲れてないのね。」


「かつて世界を創ったことがありますから、ミストレス。これくらい平和です。」


「自慢か。」

「師の教えです。」


カラハウスが街を離れる頃、

また笑い声が戻っていた。


女子組はドレスを見せ合い、

男子組は二度と荷物を運ばないと誓い、

私は――


膝の上に手紙を置き、

そこに書かれた〈星の山〉の文字を見つめていた。


「……舞踏会、ね。」

外交官、神、王族、そして最強の問題児パーティ。

何が起こるかなんて――想像つかない。


ニャが肩に現れ、電子の声で囁く。


《すべて。》


「だよね。」


私は笑って窓の外を見る。

夕陽が紫と金に混ざり、

カラハウスがゆっくりとソラリスへの道を進む。


「――ソラリス王国。

 あなたの舞踏会、耐えられるかしら?」

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