表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しい女神  作者: ジュルカ
その ガラ アーク

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/93

第81話 新しいデザイン

クリオヴェインの白き平原を吹き抜ける風は、肌を切り裂くほど鋭かった。

だが――数日ぶりに、陽が射した。

透き通る光。

明るく、そして、希望に満ちた光。


ぼろぼろのキャラバンが軋みながら進む。

車輪の下で雪が溶け、

道はようやく氷原から草原へと変わっていった。


地平線が、金色に輝いている。


……で、馬車の中はというと。


混沌。

人と魔と神が詰まった、純度百パーセントの混沌。


「ロナン! 斧が私の足に刺さってる!」

「ナリ、尻尾どけろ!」

「無理! アナが座ってるのよ!」

「違う! フェンリルの毛がふかふかすぎるの!」

「誰の肘だ! あばらに刺さってる!」

「それリラの弓だから!」

「みんな落ち着けぇぇぇ! 息できねぇ!!!」


私は無表情で見つめていた。

腕を組み、心の中で――限界。


「やめろ。」

「やめろ。」

「やめろ。やめろ。やめろっ!!!」


ガタンッ。


馬車が急停車した。

引いていたのは――我らが地竜ネルソン。

彼は情けない声で嘶き、雪の上に崩れ落ちた。


私は外に降りて、背を伸ばし、深く息を吐いた。


「……さて、確認だ。今、何人いる?」


ダリウスが手を挙げた。

「十四。」


「十四人。二頭立ての馬車に十四人。

 しかも全員、生きて動く、場所取り合戦の達人。」


セレーネが顔を出す。

「ちょっと詰めれば――」


「詰めるな。私はまだ生きていたい。」


こめかみを押さえながら、私は歩き出した。

そして――小さく笑う。


「……よし。いいこと思いついた。」


ニャが隣でホログラムの尾を揺らしながら現れる。


《警告:ミストレスが非現実的だが効果的な行動を取ろうとしています。》


「その通り。」


私は両手を打ち合わせた。

魔力が空気に溶け出す――

だがこれは普通の魔法ではない。


――〈真なる元素王国トゥルー・エレメンタル・キングダム〉。


世界が反応する。


大地が震え、

土の下から金属が液体水銀のように溶け出す。

空気は光粒子で満たされ、

石がせり上がり、見えぬ意志に形を与えられていく。

木が芽吹き、梁と弧を描く。


光そのものが凝縮し、ガラスの板となった。


ダリウスが一歩下がる。

「……リリア、何してるんだ?」


「スペース問題の解決。」


素材がねじれ、融合し、拡大していく。

壁。廊下。床。

魔法陣が輝き、魔力と物質を織り合わせる。

宇宙の機織り機のように。


――そして、五分も経たぬうちに。


そこに“家”が現れた。


だがただの家ではない。


〈カラハウス〉。


半分は馬車。

半分は屋敷。

そしてもう半分は――神話的ナンセンス。(※三つあるのは気にするな)


それは王宮と高級列車を融合させたような輝きを放ち、

巨大な車輪が魔力の唸りを上げていた。

内部には気候制御、魔力循環、寝室、浴場、

そしてネルソン専用の“休息室”まで。


全員、言葉を失った。


最初に喋ったのはリラ。

「……動く屋敷を作った……」


オーレリアが目を細める。

「……十分も経ってないわよね?」


私は手を払いながら言った。

「九分だね。」


フェンリルが首を傾げる。

「動く……家?」


「カラハウス。」私は胸を張る。

「馬車でも家でもある。特許申請中。」


ニャがブーンと鳴る。


《定義:ミストレスによる〈元素概念〉の完全支配の具現化。

 要約:物理法則をインテリアデザインに改造しました。》


ロナンが低く口笛を吹く。

「建築の神が職を失うな、こりゃ。」


セラフィナが壁に手を当てる。

「……温かい。自己加熱式の壁?」


「その通り。温度自動調整。空気の魔力濾過も完備。」


アナが歓声を上げる。

「キッチンがある! 部屋も! お風呂もある!!」


「もう凍傷の文句は聞きたくないからね。」


ルナが微笑む。

「ミストレス、魂の錨まで付与しましたね。

 自己修復できます。」


「当然。嵐の中で崩れられたら困るし。」


オーレリアが腕を組み、唇の端を上げる。

「……見せつけね。」


「惚れた?」

「……少しだけ。」


内部はさらに壮観だった。

水晶の壁には金のランタン。

床は魔力光で淡く脈打ち、

ラウンジには竜でも寝転べそうなクッションソファ。


セレーネはそのまま倒れ込み、天に感謝した。

「便利の女神に祝福あれ……」


ダリウスは台所に駆け込む。

「オーブンがある! 魔導オーブンだ!」


カエルはすでにスケッチ中。

「……この比率、既知の元素理論を無視している! 研究対象だ!」


リラは窓辺に座り、風景を描き始めた。

ロナンは外でネルソンの鼻を撫でていた。


「聞いたか、相棒。お前にも部屋だぞ。」


ネルソンは嬉しそうに嘶き、

“EQUINE SUITE”と書かれた扉に入っていく。


私は欄干に寄りかかり、

みんなが笑い、動き回るのを見守った。


ようやく、“混沌”が“日常”に変わっていく。


ルナが隣に立ち、腕を組みながらも優しい声で言った。


「ミストレスは、いつもこうです。」


「どういう意味?」


「必要を創造に変える。

 ――それが、原初の誰もが真似できないあなたの力。」


私は笑った。

夕陽が銀の壁に反射し、世界を金色に染める。


「神や竜や悪魔を引き連れて旅するなら――

 少しくらい、スタイリッシュにいかないとね。」


ルナは小さく笑い、目を細めた。

「あなた、本当に変わりました。」


「みんなも、ね。」


扉の向こうを振り返る。

死も、時も、混沌も越えて共に歩いた仲間たち。

笑い、語り、生きている。


「……これが、“自由”ってやつなのかもね。」


ルナが頷く。

「すべてを越えて築いた“自由”――

 それこそ、あなたらしい。」


「なら、私はこれからも作り続ける。

 ――この宇宙を、家にできるまで。」


その夜。

カラハウスは月明かりの下、静かに草原を進んだ。


誰もが久しぶりに、穏やかな眠りにつく。


外では風が草を撫で、

遠い星々が微かに瞬いた。


まるで、見守るように。


そして――

眠る女神は、微笑みながら呟いた。


「……我が家へようこそ。

 移動式、だけどね。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ