第74話 その 新しい女神の帰還
すると、突然、クリスタルが亀裂を走らせ、そして砕け散った。
爆発は、まるで死にゆく星のように山を突き抜けた。
時間の源たるクリスタル――かつて無限の時線を照らす錨だったもの――が、ひび割れた現実の嵐の中で粉砕された。
その光は、破れた瞬間の万華鏡となり、曲がり、歪み、溶け合っていった。
その後に訪れた静寂は異様だった。
静かではなかった――
それは空虚だった。まるで音そのものが存在することを忘れたかのようだった。
セラフィナはゆっくりと目を開けた。光の檻が弱々しく揺れている。
彼女の吸血鬼としての感覚は、恐怖を超えた何かを捉えていた――名を持たぬ「感じるもの」。
「こ、これは…何?」と彼女は声を震わせて囁いた。
彼女の前の空気が裂けていた――ガラスのようでも、石のようでもなく――まるで概念が砕けるかのように。
地平線を越えて伸びる線があった。
薄く、限りなく、数えきれないほどの、輝くエネルギーの糸。
それらは全てを貫いて、空を、地を、さらには魂自身をも。
ひとつひとつが、彼女がこれまで見たことのない色彩で煌めき、あらゆる瞬間、あらゆる命、あらゆる世界と結びついていた。
しかし、あの線たちは――
壊れていた。
ひとつずつ。
存在それ自体を響かせる、柔らかく、宇宙的なピンという音とともに砕けていった。
ルナは振り返った。永劫の時を生きる彼女が、初めて声を震わせた。
「いや…いや、だめ、だめ、だめ!」
そして彼女は、すでに青白い光を放つ手を向け、クリスタルの残骸へと駆けた。
「もしあの線が切れたなら――あらゆる時線、あらゆる世界が崩壊し、絶望へと落ちる!」
彼女は手を伸ばし、残されたあらゆるもの――空間、時間、因果――を糸に織り合わせようとした。
一瞬、ひびを止めることに成功したかに見えた……
だが空気が波打った。
闇――純粋で、邪悪で、意思を持つ腐敗――が煙のように立ち上り、彼女の腕を、脚を包んだ。
ルナは息を呑んだ。
「だ、だめ――だめだ!」
そのぬめりは濃くなり、黒い絶望とともに鼓動した。彼女を呑み込み、宙に浮いたまま捕らえ、まるで宇宙のタールに絡め取られたハエのように。
彼女の光が弱まり、急速に暗くなった。
砕けた部屋の核から、笑い声がこだました。
ゆっくりと。残酷に。勝ち誇るように。
「ついに…」
「何世紀もの待機の後で…」
影は人型の姿を取った。今や完全復活し――顔は黒曜石大理石のように蒼白く、目は死にゆく星のように輝いていた。
ザック、絶望の玉座が再び立ち上がった――より強く、より暗く、腐敗したエネルギーに満ちて。
「腐敗は完了した。」
彼は腕を広げ、混沌を抱きしめるように。
「クリスタルは砕け、時間の境界は解かれた!私に必要なのは――」
彼の笑みが広がった、歯は鋭く、無限に。
「――あの線に触れることだけだ…そして絶望が、あらゆる世界の法となる!」
エレブスが咆哮した。その身体はまだ浄化されて弱っていた。
ドラゴンの吐息が、空気を凍結させ、霧とした。彼はザックへと飛びかかった。
ザックはびくともしなかった。
彼は手を上げ――そして叩いた。
ドーン。
エレブスは山を横断して壁へと吹き飛ばされ、衝撃で即座に砕け散った氷の壁に激突した。
ドラゴンの身体は力を失い、凍ったマナの血がその下に溜まった。
フェンリルは恐怖で固まった。歯を食いしばり、爪を震わせて。
「ありえない…一撃で――」
神々と渡り合ったセラフィナでさえ、喉が締まるのを感じた。
もはや相手ではない。
これは形を取った絶望だった。
ザックはルナの方を向き、その笑みが異様に大きく裂けたように伸びた。
「お前――小さき女神よ、我が捧げ物となれ。お前のエネルギーをもって、絶望は永遠に感染する。」
彼は手を伸ばし、彼女の本質を吸い取ろうとした――その時、突然…
空気が裂けた。
それは今までとは違った。
今回は、折りたたまれた。現実が後ろへと曲がり、空間が傷を――閉じようとする傷のように――カールした。
そして――
拳が虚空を破って突き出た。
それはザックの顎に正確に命中し、その衝撃で山全体が外側へと爆散した。
ドオオオオオオム。
ザックは隕石のように部屋の中を飛び、遠方の壁を突き破り、残された衝撃波が腐敗の残滓を蒸発させた。
塵が収まると、部屋の中心にただ一人の姿が浮かんでいた――黄金と深淵の光に包まれ、白銀の絹のような髪が星光と混ざり合い、目は再び生まれた銀河のように輝いていた。
セラフィナの息が詰まった。「…ありえない。」
フェンリルは片膝をつき、圧倒のあまり呼吸を忘れていた。
ドラゴンの無意識の身体さえ、何か神聖なものを認識したかのように動いた。
ルナはぬめりから顔を上げ、唇を震わせ、涙が即座に目に浮かんだ。
「…ミ、ミストレス?」
その人物は彼女の方を向き、片手を掲げた。
深淵と神聖なマナの渦が爆発した――創造も破壊も超越する力。
黒いぬめりは即座に蒸発し、燃え残る絶望の叫びは無に帰した。
ルナは宙で落下を止め、身体を震わせながら目の前の者を見た。
その声が裂けた――かつてないほどに。
「ミストレス…あなた、生きていたんですね…」
女性は優しく微笑み、手を下ろした。
その声は穏やかで温かかったが、その下には無限が潜んでいた。
「遅くなってごめんね。」
大地が彼女の下で煌めき、汚れたエネルギーがその存在から後退した。
「ニャがもっと休むべきだって言ってたけど、正直ね…」
彼女は崩れゆく空を見上げ――線が今、より速く砕けていた。
「世界がまた私を必要としてるみたい。」
ザックは呻き、クレーターから這い出し、顔にはねじれた笑みが浮かんだ。
口元の黒い血を拭い、笑い始めた。
「ハハハハハ!ついに!
コピーの女神…いや、自由の神ご本人が帰還だ!」
彼のオーラが燃え上がった――山のように、絶望に浸された。
「ようやく、絶望に相応しい挑戦が来た!」
リリア・フォスター――新たな女神――は彼に視線を向け、目は静かだったが、空気を止めるほどの何かを湛えていた。
「お忙しかったようね」と彼女は静かに言った。
「時を壊し、世界を堕落させ、私の休暇を台無しにしてくれたわね。」
彼女は手を上げ、神聖な光と深淵の影から織られた純粋な想像から刃を召喚した。
「その埋め合わせをしましょう。」
ルナはひざまずき、涙を自由に流しながら、神の姿を震わせた。
「あなたが…本当にここに…」
リリアは微笑んで彼女を見下ろした。
「もちろん。私が永遠に死ぬなんて思ったの?」
ルナは涙の中で笑い、胸を押さえた。
「わ、私は…私はあなたが恋しかった、ミストレス…」
「私もよ」とリリアは優しく言った。そして視線を再びザックに向けた。
彼女のオーラが立ち上がり、山を揺らし、空気を歪ませ、時間の流れ自体を曲げていった。
「では…」
その声が深くなり、すべての世界に響いた。
「この絶望を終わらせましょう。」




