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新しい女神  作者: ジュルカ
北部地域

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第69話 戦いにおける絶望

北の空を飛ぶ飛行は静寂に包まれていた――静かすぎるほどに。

風さえも唸りをあげず、眼下の世界は永遠の霜に閉ざされた、死んだ絵画のようだった。


ニャの声が耳元で静かに響いた。その声色はいつになく重々しかった。


[方向確認。マナ濃度は1キロメートルごとに8%増加。]

[警告:重力層内にアビス干渉を検知。]


「ああ、私も感じる」と私は呟いた。「近い。」


ルナとセラフィナが、凍てつく空気に青と深紅の筋を走らせながら、私の後ろをついてきた。

オーロラの光でかすかに輝く雲の中を降り、山腹に刻まれた尾根に着陸した。


そして、そこにあった。


山には石と水晶でできた巨大な門が埋め込まれ、その表面には古代のルーン文字が刻まれていた。

それはかすかに、リズミカルに光を放ち、まるで呼吸をしているようだった。


足元の地面には、壊れた武器や凍りついた彫像が散乱していた。かつてはクライオヴェイン・ヴァンガードの兵士たちだったものが、今や氷と化していた。

彼らの顔は沈黙の苦痛に歪んでいた。


「しまった…」私は囁いた。「この場所は…もう千年も、まるで手つかずのままのようだな?」


セラフィナは跪き、倒れた戦士の盾についた霜を払い落とした。「三千年くらい試してみて」と彼女は静かに言った。「空気は今も彼らの叫び声を記憶している。」


ルナの金色の瞳がかすかに揺れ、彼女は手を挙げて周囲を見渡した。「ここは最初のクライオヴェイン・ゲートの一つだった。プライモーディアルたちが次元の裂け目を封印するために築いたものだ。エレバスが滅びた時、ここは彼らの安息の部屋になった。」


私は眉をひそめた。「安息の部屋?つまり、墓のような場所か?」


「牢獄みたいね」ルナは冷たい口調で答えた。


私たちはルーンを頼りに洞窟の奥深くへと進んだ。一歩一歩が、完璧な対称性で刻まれた果てしない回廊に響き渡った。


マナは濃く、密度を増し、まるで液体のようだった。私の体もそれに震えた。


ニャの声が再び響いた。


[警告:マナ密度147%。対象は次元収束点に近づいています。]


「ええ、冗談じゃないわ…」私は目を細めて前を見ながら、そっと言った。「原因がわかったわ。」


トンネルは広大な部屋へと続いていた。世界の地下に埋もれた大聖堂だった。


中心には巨大な結晶核があり、青、銀、金と、かすかに変化する色彩で輝いていた。まるで時間そのものが閉じ込められているかのようだった。


そしてその近く、結晶の檻の中に倒れ込んだフェンリルがいた。


「フェンリル!」私は駆け出した。


彼は生きていた――かろうじて。彼の体は霜に覆われ、呼吸は浅く、血管は腐敗でかすかに青く輝いていた。


「捕まえたぞ、大男」私はそう言って檻に手を伸ばした。


[警告!魔法罠の痕跡を検知――原初級の拘束!]


「何!?」手を引っ込めた瞬間、足元全体が明るくなった。


足元に古代のシンボルの巨大な円が燃え上がった。本能が叫んだ。


「動け!」


私は飛び退いたが、ルナとセラフィナには遅すぎた。


円の光はガラスと稲妻の檻のように上空に放たれ、一瞬にして二人を包み込んだ。


魔法は、私が今まで見たことのない色――金と黒の中間のような色――で脈動していた。


ルナは障壁にぶつかり、すり抜けようとしたが、失敗した。


彼女は本当に失敗した。


彼女の目がわずかに見開かれた。 「無理だ…」


セラフィナは牙をむき出しにして壁に掌を押し付けた。「一体どんな魔法がこんなことをするんだ!?」


ニャの口調は鋭かった。


[解析完了。魔法構築物:原初拘束陣]

[創造級以上の存在を拘束可能。絶対原初種でさえ脱出不可能]


「何だって!?」私は叫んだ。「そんなスキルを持つ者がいるなんて!?」


部屋の空気が揺れ動いた――濃く、暗く。


影の中から、深く歪んだ声が響いた。


「それは私の仕業だ」


部屋の奥から、水に浮かぶ油のように揺らめく黒いローブをまとった人影が前に出てきた。彼の存在は周囲の光を歪ませ、一歩ごとに空気そのものが震えた。


暗闇が剥がれ落ち、背の高い男が現れた。青白い灰色の肌、漆黒の髪、そして空洞の銀河のような瞳。

彼の一歩一歩が、葬送の鐘のように響き渡った。


彼は微笑んだ――ゆっくりと、鋭く、そして冷たく。

「私はザック、絶望の玉座の担い手だ。」


セラフィナは囁いた。「またもや貴様の同類が深淵から這い出てきたのか…」


ザックは嘲るように頭を下げた。「這う?いいえ、愛しい吸血鬼よ。私は立ち上がった。そして、なんとも壮観な光景が私を迎えてくれた――原初のペットたちの観客と、伝説の複製の女神御本人が。」


私は拳を握りしめた。「フェンリルを手に入れたじゃないか。何が欲しいんだ?」


彼は部屋の中央にある水晶の球体を物憂げに指し示した――存在するあらゆる色で脈打つその球体。


「それこそ、私の小さな異形よ、私が欲しいものだ。」


球体はより明るく脈動し、周囲の空気を歪めた。


ルーナの表情が一瞬変わった。「ありえない。それは…」


ザックは大きく笑った。「ああ、女神が認識しているのね。よかった。説明する手間が省ける。」


彼は球体に手を差し出した。「ほら…タイムソースクリスタルだ。」


私の頭は真っ白になった。「今度は何?」


ルーナの声は低く、死ぬほど静かだった。「それは時間そのものの核心。無限の現実にまたがるあらゆるタイムラインを繋ぐ源泉。もしそれが壊れれば…すべてのタイムラインが一つに崩れ落ちる。」


私は凍りついた。「待って…つまり、あらゆる宇宙を繋いでいるってことか…」あらゆる次元、あらゆるバージョンの我々を…?」


ザックはくすくす笑った。「まさにその通り。あらゆるループ、あらゆる可能性、かつて存在したあらゆる夢と悪夢を。」


セラフィナの声は唸り声に変わった。「そして、それを堕落させたいのですか?」


「ああ、堕落させるだけじゃない。」彼の目は真紅に輝いた。「私はそれを自分のものにするつもりです。想像してみてください、女神よ。あらゆる現実、あらゆる結末、あらゆるタイムラインが私の絶望へと歪んでいく。あらゆる選択が喪失に終わる永遠の循環を。」


水晶が再び脈動し、今度はそれが見えた――千枚の鏡に映る鏡のように、内部で揺らめく映像。

世界が重なり合い、私、ルナ、セラフィナの無限の姿が浮かび上がり、現実が瞬いては消え去る。


そして、その中心には…

巨大なシルエット――エレバス。その体はもはや霜の青ではなく、きらめく銀色と虚空の光の筋が走っていた。翼には時のエネルギーの脈が脈打ち、息をするたびに空間を歪めていた。


ザックはそれに向かって威厳ある身振りをした。


「お前は霜の死神エレバスと戦ったな」と彼は言った。「忘れ去られた時代の遺物だ。だが、私は彼女を再生させたのだ。」


彼は両腕を広げ、笑みは怪物じみて広がった。


「見よ…エレバス、時空の大竜。」


部屋が震えた。水晶が脈打ち、巨大な影が波打つようにそこを駆け抜けた――生き、意識を持ち、耳を澄ませていた。


胃が痛くなった。「お前は彼女を水晶の破片と融合させたのか…」


「もちろんだ」ザックは軽く言った。「アビスは私に堕落を与え、水晶は私に無限を与えた。今、彼女はあらゆる世界を股にかけて私の使者だ」


私は一歩前に出て、目を細めた。「正気じゃないな」


「狂気とは」彼は考え込んだ。「ただ、限界のない自由だ。お前のような者からそれを学んだ」


ルナの声が、穏やかで冷たく突き抜けた。「お前はここから生きては出られないだろう」


ザックの笑顔は揺らがなかった。「ああ、そんなことは必要ない。儀式を終わらせるだけだ。あとは絶望がやってくれる」


足元のルーン文字がさらに輝きを増した。


ニャの声が脳裏に響いた。


[警報!タイムソースクリスタルの汚染度が12%に到達!次元不安定化が迫っている!]


「リリア!」セラフィナが叫んだ。「彼にあれを触らせてはいけない!」


「分かってるわ!」


私は手を伸ばすと、青い炎が私の周囲で燃え上がった。


「完璧な複製――分析。複製。浄化!」


炎は波のように広がり、ルーン文字を囲んだが、円環は抵抗し、ねじれ、反撃した。


ザックは笑いながら一歩近づいた。「絶望を複製することはできません、女神よ。ただ感じることしかできないのです!」


儀式が頂点に達するにつれ、光は眩しさを増し、空気は崩壊し始めた。


そして水晶の奥深くで、何かが動いた。


巨大な蛇のような目が開いた――瞳孔は時間の螺旋だった。


エレバス…目覚めた。


心臓がドキドキしながら、私は見上げた。「ニャ…どれくらいひどいの?」


[推定:壊滅的]

[汚染が30%に達すると、すべてのタイムラインが融合し始める。無限の宇宙が一つに崩壊する。]


「では、ここで彼を止めよう。」


私は一歩前に出た。オーラが燃え上がり、青い光が果てしない闇に燃えた。


セラフィナはニヤリと笑った。「何か計画はあるの?」


私は苦笑し返した。


「ああ。時間そのものをコピーするつもりだ。」


タイムソース・コアの周囲の空気が悲鳴を上げた。

光と影のリボンが互いに絡み合い、タイムラインが千個の時計が一斉に壊れるように引き裂かれる音が響いた。

そしてその混沌の中を、私は駆け抜けた。


ザックのオーラが山々を砕こうとも、気にしなかった。


彼の剣の一振りごとに重力が歪んでいようとも、気にしなかった。

ただ一つ分かっていたのは、彼があの水晶に到達すれば――全て、私が今まで出会った全ての人々のあらゆる姿が――死ぬということだった。


だから私は動いた。


私の剣が彼の黒曜石の刃に当たり、絶望の火花と青い炎が凍てつく空間に飛び散った。


彼は微笑み、穏やかで、私の胃が締め付けられるような優雅さを漂わせていた。


「ここで決意が重要だと思うのか?」彼は呟きながら前に出た。


私は旋回し、彼の腕を取ろうとしたが、彼の暗い刃はあり得ない幾何学模様を描き、私の攻撃をかわした。


閃光――彼は突き刺した。私は低く身をかがめた。指先から稲妻が放たれ、彼の胸に叩きつけられた。


何も起こらなかった。彼は雨のようにそこを通り抜けた。


私は彼を足止めするために、氷の壁、水晶の山を召喚した。

次の鼓動、それは塔ほどもある刃が降り注ぐ中で砕け散った。


崩れ落ちる破片を駆け上がり、跳躍し、落ちてくる剣を踏み台にした。


私たちの刃は空中でぶつかり合い、時間に波紋を巻き起こした。


斬る。反撃する。攻撃する。受け流す。

衝撃のたびに数秒が前後に折り重なり、部屋はありとあらゆる瞬間の断片で埋め尽くされた。


ザックはついに笑みを失った。彼のオーラは黒い光の嵐へと昇り、音ではない叫び声で部屋を満たした。


「絶対なる絶望を見せてやる!」


十数本の切り傷が現実そのものに花開き、そのどれもが失敗の重みを背負っていた。

原初の炎の体躯の怒りを込め、刃を振り下ろした。


「炎斬り!」


光と闇が交錯し、部屋が崩壊した。


爆発は私を人形のように投げ飛ばし、砕けた床に叩きつけた。骨は瞬時に癒着したが、肺は焼けつくように痛んだ。


彼はまだ無傷で立ち尽くし、周囲にエネルギーが響き渡っていた。


「素晴らしいな」と彼は優しく言った。「だが、絶望は称賛から生まれるものだ。」


彼は手を挙げた。千本の幽霊のような剣が現れ、それぞれが私の恐怖を響かせた。


私は歯を食いしばった。「そんなことはありえない。」


「万能 ― 鋼鉄の領域!」


神聖なる金属の糸が織り交ぜられ、輝く障壁を形成した。

最初の刃の波が当たり、空気が歌った。


その時ザックが囁いた。


「消滅にも関わらず。」


あらゆる壁、あらゆる糸が煙のように消え去った。


次の瞬間、攻撃は私に向けられた。追跡できないほど速かった。


「タイム・ドミネーション!」


世界が凍りついた。


雪片が微動だにしなかった。クリスタルの光は揺らめかなくなった。


私だけが動いた…そう思った。


なぜなら、ザックは私の止まった時間の中で、頭を回し、微笑んだからだ。


「ああ、坊や」彼は静寂の中を一歩踏み出し、囁いた。「お前は私が既に壊したおもちゃで遊んでいるのか。」


彼の足が私の胸にぶつかった。現実が再開し、私は空中を後方に飛ばされ、タイムクリスタルの端に激突した。


息をする間もなく、山が揺れた。

轟音がすべてのタイムラインを一斉に突き破り、光を螺旋状に曲げた。


背後に、時空の大竜エレボスが舞い降りた。

彼女の翼は何世紀にも渡り広がり、その羽ばたきは過去と未来を氷の帯へと折り重ねた。


二人の神。崩壊する一つの宇宙。

剣の柄を握る手が震えた。


「こんなの不公平だ」と私は呟いた。「二人対一?本当?」


ニャの声が頭の中で響いた。


[女主人――深淵スキルの不安定性63%。全解放は推奨しません。]


「ええ、まあ、どちらも死ぬことはないでしょう!」


私は持てる限りのあらゆるエレメント――炎、雷、風、影――を引き出し、混沌とした一撃として放った。


竜の息吹が嵐と交わった。


ザックの刃が両方を切り裂いた。


世界は白へと溶けていった。


光が消えると、私は膝をつき、血ではなくマナを流していた。

ザックは再び落ち着きを取り戻し、私の前に立ちはだかった。


「お前の苦闘は詩的だ」と彼は言った。「美しく終わらせてやろう」


エレバスが口を開けた。時間エネルギーが太陽ほどの大きさの球体へと凝縮した。


ザックは私の後ろに立ち、剣は純粋な絶望のエネルギーへと変化した。


「さようなら、女神よ」


彼は突き刺した。


痛み。

そして、何もなかった。


私は自分の体が裂けるのを見た。肉体、光、そして魂が、時間軸を通してガラスのように散り散りになっていった。


どこか遠くで、ルナが私の名前を叫んだ。


セラフィナの咆哮が洞窟を揺らした。


そして、暗闇。


…静寂。


痛みも、重力も、思考もなかった。


かすかな光だけが、遠くからだがはっきりと聞こえるニャの声だった。


[プロトコル999 ― 永遠の魂の命令:転生モード発動]

[頂点不死の意志発動。魂核は保存。]

[虚構の基質を通して蘇生を実行。]


光の糸が崩れゆく現実から私を引き離し、砕け散った数秒の間を縫うように進んだ。


ザックの絶望は私の本質にしがみつこうとしたが、頂点不死の意志が燃え上がり、根付く前にそれを焼き尽くした。

私の意識は漂い…そして落ちていった。


水彩画のような空の下、柔らかな草の上に横たわって目を覚ました。


すべてがきらめいていた ― 現実でも非現実でもない。パーフェクト・コピーの潜在意識層から生まれた、私自身の想像の世界。

フェイルセーフとして私が作り出した世界。


私はゆっくりと起き上がり夢が形を成すように、アイデアが地平線へと向かって。

「まだ生きている」と私は囁いた。「かろうじて」


ニャが小さな光の球体となって私の傍らに現れた。


[肉体は破壊された。精神は無傷。再構築は可能。]


私は息を吐いた。「彼らは私を消し去ろうとしていた、ニャ。」


[訂正:彼らはあなた以外すべてを消し去った。]


私は弱々しく笑った。「よかった。それで、次は?」


[さあ、女主人、あなたは再構築する。あなたは想像力そのものの中にいる。ここでは、何でも創造できる。]


私は自分の手を見下ろした。それはきらめき、透明で、無限の可能性の糸で満ちていた。


「わかった」と私は微笑みながら言った。「もしザックと彼のペットのドラゴンが時間の神を気取るなら…」


私は拳を握りしめ、光がその周りに集まった。


「…ならば、想像力が抑制を止めたときに何が起こるかを彼らに思い出させよう。」

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