第67話 エレバスのエコー
雪は傷ついた神のように唸りを上げ、激しい渦を巻いて世界を引き裂いた。
視界は再び完全に消え去り、白が白を飲み込むように。馬の足音さえも、嵐の果てしない轟音の中に消え去っていた。
ケイルの声は風にかき消され、かろうじて聞こえた。
「もう、もうだめだ…!」
「冗談じゃない!」コートが既に氷で固まっている中、私は叫び返した。「ルナ、アイスキャンディーになる前に何かしてくれる?!」
女神は瞬きもせず、ただ細い手を掲げ、指を鳴らした。
そして…
嵐は止んだ。
まるで世界が天気というものを忘れてしまったかのようだった。
空気が静まり返った。雪は一瞬動かず、静かに地面に落ちた。雲が切れ、双子の月に照らされた澄み切った空が現れた。
皆、目を見開いて凍りついた。
ロナンはゆっくりとルーナの方を向いた。「え、今…」
ルーナの単調な声が彼の言葉を遮った。「空間気象調整完了。」
私は瞬きをした。「…つまり、吹雪を消したってこと?」
「ええ。」
セラフィナは面白がって鼻を鳴らした。「まあ、素晴らしいわね。今、私たちはさりげなく気候を書き換えているのね。リストに加えましょう。」
ケイルは澄み切った空を見上げながら、ささやいた。「いつか生態系を壊してしまうわ。」
「もう遅いわ。」私はため息をついた。「宇宙が文句を言う前に、これが普通だと思い込んで、進み続けましょう。」
静かな夜の下、馬車は雪に覆われた地面を車輪が静かに軋む音を立てながら進んでいった。
一時間後、私たちはそれを見た。
月光と霜のベールを突き抜け、かすかな遺跡の群れが姿を現した。半分は氷に埋もれ、半分は静寂に包まれた村。
フェンリルは息を吐き、空気を曇らせた。彼の表情はたちまち曇った。
「ここは…私の故郷だった。」
その言葉は重く響いた。
私たちは遺跡の端で立ち止まり、一つずつ外に出ていった。ここの空気はより重く感じられた。充満し、古く、そして記憶で重く重く感じられた。
氷と石で彫られた家々は半ば崩壊していた。クライオヴェイン・ヴァンガードの凍りついた旗が、砕けた柱にまだ掲げられていた。戦士の像は雪に埋もれ、何世紀にもわたる吹雪で顔が消えていた。
セレーネは辺りを見回し、静かに囁いた。「ここはまるで時間そのものが凍りついたようだ…」
フェンリルはゆっくりと歩みを進め、手袋をはめた手で氷の壁を撫でた。「この彫刻は…私が自分で作ったんだ。」
他の人々は、砕け散った記念碑の前に彼が跪くのを静かに見守っていた。ルーン文字が刻まれた高い尖塔は、霜を通して今もかすかに輝いていた。
「ここは刃の殿堂だった」と彼は言った。「門を守った戦士は皆、ここに名を刻まれていた。我らの魂は永遠に北方を守ってくれると信じていた。」
彼は拳を握りしめた。「だが、竜が来た。その後に続いた嵐は…決して終わらなかった。」
オーレリアは頭を下げた。「これがエレバスが残したものか。」
ケイルは凍った井戸のそばにしゃがみ込み、ルーン文字を調べた。「いや…それだけではない。ここのマナ密度は人工的だ。誰かが意図的に嵐を増幅させた。これは単なる天候ではなく、封じ込めだった。」
私は眉をひそめた。「つまり、誰かがこの村全体を氷の中に閉じ込めたということか?」
ケイルは厳しい表情で頷いた。「その通りだ。」
凍てつく街路をフェンリルの後を追って、遺跡の中心部へと辿り着いた。ひび割れた氷の祭壇を囲む巨大な円形広場だ。
フェンリルはそこで立ち止まり、祭壇の表面に手を置いた。
「ここに何かを封印した」と彼は静かに言った。「エレバスの襲撃の時だ。ヴァンガードの残された力を使ってドラゴンのエッセンスを凍らせた…だが、封印が弱まっているようだ。」
ルナの瞳がかすかに揺れた。「確認。地表下のエネルギー測定値がアビサルフラックスの信号と一致した。」
セレーネは一歩後ずさりした。「つまり…ドラゴンの力はまだここにあるの?」
フェンリルは頷いた。「欠片だ。心臓だ。」
地面が揺れた。
雪の下から、かすかに、規則的な音が響いた。
皆が凍りついた。
ロナンは剣を握りしめた。 「どうか、私が考えているのとは違うと言ってください」
ニャの声が頭の中でこだました。
[警告:深淵のエネルギーを検出]
[発生源:凍てつく祭壇の下]
[署名一致:大精霊竜 ― エレバス]
私は深くため息をついた。「当然だ」
祭壇が割れ、継ぎ目から光が溶けた青い鉱脈のように漏れ出た。
突風とともに雪が舞い上がり、地面が裂けると同時に宙に舞い上がった。
そして、フェンリルが描写したのと同じ音が聞こえた。現実そのものを震わせるような、深く、古き唸り声。
氷の下で影が動いた。巨大で、蛇のように、そして目覚めた影。
フェンリルの目が見開かれた。「まさか…まさか!封印はあと千年は持ちこたえていたはずだ!」
祭壇は砕け散った。
まばゆいばかりの霜の光線が空へと放たれ、雲を切り裂き、青い炎と雪の嵐が天空を燃え上がらせた。
衝撃波は私たち全員を吹き飛ばした。私は地面に激しく叩きつけられ、雪の中を転がり、凍てつく霧が空気を満たす中、咳き込んだ。
見上げると、それを見た。
巨大な氷の翼が、遺跡の下から展開した。
まるで凍てつく太陽のような瞳が、私たちを睨みつけた。
そして、それが吐き出す息だけで、空気は氷の破片へと凍りついた。
北の霜の死神、エレボス。
竜が咆哮し、夜そのものがそれに応えて叫び声を上げた。
ニャの声が響き渡った。心の中で。
[警報!アビサル・コア確認!エレバスが玉座の欠片から腐敗を吸収した!]
[パワーレベル:神級超越]
コートについた雪を払い落とし、私は立ち上がり、鋭く息を吐いた。「よし…もう、一生分の巨大トカゲにはうんざりだ。」
セラフィナは首を鳴らし、危険な笑みを浮かべた。「やっと。立派な相手ができた。」
オーレリアは金色のオーラを放ちながら剣を抜いた。「リリア、どうするつもりだ?」
私はかすかに笑みを浮かべ、両手に青い炎を踊らせた。
「いつもと同じ計画…」
雪が私の魔力に反応し、激しく舞い上がった。
「死なないように気をつけろ。そしてドラゴンをぶっ飛ばそう!」




