第60話 次元刑務所
カダラの上空は静まり返っていた。
マナの嵐は止んだ。
星々さえも息を呑んでいるようだった。
ルナは宙に浮かんでいた――表情は読み取れず、瞳は双子の銀河のように輝いていた。
彼女を取り囲む時空構造は、輝く幾何学的な破片へと砕け散り、それぞれが無数の現実の閃光を放っていた。
メデアは彼女の向かいに浮かんでいた。腕を伝う血。かつての完璧な落ち着きは崩れ去っていた。
「あなたは強いわね」メデアは声を震わせながら認めた。「創造のスカートの後ろに隠れている存在にしては…強すぎるわ」
ルナはわずかに首を傾げた。「隠れる?いいえ」
彼女の口調は柔らかく、冷たく、確信に満ちていた。
「ただ、ストレッチする必要がなかっただけ」
その時、彼女の瞳の周りの輝きが強まり――存在のあらゆる原子が悲鳴を上げた。
現実は砕け散った。
純粋な歪みの線が空を蜘蛛の巣のように横切り、山々はありえない方向に曲がり、色彩は音へと滲み出た。
ルナのオーラが全力で噴き出し、その圧力は重力の法則さえも屈服させるほど強烈だった。
[時空権能 - 限界解放:出力5%]
彼女の言葉は存在のあらゆる層に響き渡った。
「もう十分だわね。」
メディアは本能的に両手を上げ、周囲の物質を操作しようとしたが、
粒子そのものは動かなかった。
「え、何だって?私の制御が…?」
ルナの声が刃のように彼女の言葉を遮った。
「私はこのセクターの因果律を凍結した。もはや存在しないものを、順序通りに書き換えることはできない。」
彼女は片手を上げ、指で空中に輝く印を描いた。
「時空領域:次元牢獄。」
周囲の世界が崩れ落ち――
――そしてメディアは、果てしない白い虚空に突如として立っていた。
無限。静寂。永遠。
空気は濃く、重く、時間を感じさせなかった。
上も下もない。過去も未来もない。あるのは今だけ。
メディアはよろめき、辺りを見回した。
「な、どこ…ここは一体何なの?」
背後で足音が響いた。
ルナの穏やかで落ち着いた声が答えた。
「あらゆる時間と物質を超えた次元構造。私が倒したすべての存在はここに送られる。死も再生もない。ただ永遠だけ。」
彼女は神々しい光に輝く瞳で近づいた。
「彼らは永遠に彷徨い、無力に、忘れ去られ、屈服するまで。」
メディアは反抗的ながらも震えながら振り返った。「私をここに留めておくことはできない。私は深淵の玉座…」
カチッ。
彼女の首に鎖が出現した――青と金に輝き、宇宙の力で響いていた。
それは無限の地平線へと繋がれ、永遠に伸びていた。
メディアは目を大きく見開いてそれを掴んだ。「何だ――これは一体何だ!?」
ルーナの表情は変わらなかった。
「これは概念的な束縛だ。お前は今や因果律の奴隷…私の因果律の奴隷だ。」
メディアは鎖――原子、粒子、分子場――を形を変えようとしたが、
全てが彼女の命令に抵抗した。
物質そのものがルーナに従った。
稲妻のように悟りを開いた。
息が詰まり、震えた。
「あなたは…女神ではない…」
ルーナはついに彼女の目を見つめた。
彼女の存在は巨大になり――無限になり――形も感覚も超越した。
「いいえ。私は違う。」
「私は原初時空。あなたの物質が連続して存在することを可能にする概念。」
メディアの体は冷たくなり、現実を悟った重圧に心が砕け散った。
これは神のような存在ではない。
これは宇宙的存在ですらない。
これは現実となった概念だ。
顔を持つ存在の法則だ。
ルーナはわずかに身を乗り出した。その声は囁きのように、今もなお無限に響き渡っていた。
「あなたは私の次元に存在した瞬間を失った。」
鎖はさらに輝き、その印章をメディアの肌に焼き付けた。
彼女の目は鈍くなり、力は消え去った。
「永遠へようこそ」ルーナは簡潔に言った。「あなたは今、私のものよ。」
現実の外へ
ルーナが輝く裂け目をくぐり抜けると、カダラの上空に波紋が広がり、背後の虚空が閉じられた。
崩壊する次元の嵐は瞬時に静寂を取り戻した。
下では、オーレリアとナリが割れた大理石の床に跪いていた――傷だらけではあったが、生きている。
ルーナがそっと手を差し出した。青い光が二人を包み込んだ。
一瞬にして、あらゆる傷が癒え、疲労の痕跡も消え去った。
オーレリアは息を吐き、瞬きをした。「あの…あの力…」
ナリは畏敬の念を抱き、尻尾をぴくぴくと振った。「本当にいるの?」
ルーナは何も言わずに手を下ろし、視線を二人ではなく、背後へと移した――
空気がかすかに揺らめいた。
鉄と月光のほのかな香りが夜空を満たしていた。
振り返らずに、ルーナは静かに言った。
「ヴァンパイア、ずっと見ていたのね?」
穏やかで、からかうような声が返ってきた。
「有罪だ。」
セラフィナは影から出てきた。真紅の瞳は楽しげに輝き、マントは砂漠のそよ風になびいていた。
背後の満月は今も赤く燃え、彼女の尽きることのない力を与えていた。
彼女はルーナを上から下まで見回し、かすかに微笑んだ。
「時空原初? なるほど、これは称号ですね。星座の半分を一瞬誤作動させたのは誰だかと思っていたんです。」
ルーナの唇がわずかに歪んだ。「あなたは、闇の玉座を辱めた吸血鬼ですね。」
セラフィナは小さくお辞儀をした。
「称号は不要です。セラフィナ・ナイトヴェール、お仕えします。紅きムーの女王ン. 私は酒飲みだけど、人生は最悪よ。
オーレリアとナリは二人の間にぎこちなく立ち、二人とも「宇宙が終わる前にここから逃げ出さなきゃ」という雰囲気を漂わせていた。
二人は原始の存在と吸血鬼のように、しばし見つめ合った。目に見えない緊張感が漂っていた。
二つの古代の力――一つは時間から、もう一つは血から――が沈黙の中で互いを測り合っていた。
セラフィナはニヤリと笑った。
「落ち着いてください、女神様。私は戦いに来たのではありません。ただ、私の月光を揺らしているのが誰なのかを見に来たのです。」
ルーナはようやく彼女の方を向き、かすかに微笑んだ。
「それで、彼女を見たの?」
セラフィナは眉を上げた。「彼女?」
ルーナは遠くで軽く頷いた。かすかな、純粋でまばゆい光が、急速に近づいてきていた。
次の瞬間、リリアは金と青の炎を放ちながら空から降り立ち、仲間たちの傍らに静かに着地した。
この世に存在する最も強大な三人――
完璧なコピー、
時空の根源、
そして赤い月の真なる吸血鬼――が、
砕け散った空の下に共に立っていた。
戦争が始まって以来初めて、世界は破滅ではなく…予感に震えた。




