第59話 その ブラッドムーンワルツ
ネクサスの部屋の崩れ落ちた屋根が夜空に開かれ、満月が天空の神の目のように輝いていた。
その淡い光が戦場へと降り注いだ――冷たく、古き、そして生気に満ちた。
ノクティスは廃墟からよろめきながら出てきた。外套は裂け、体からはインクのように闇が滲み出ていた。
一歩踏み出すごとに、足元の石が溶けていった。
彼は激怒していた――彼の誇りも、姿も、影も――吸血鬼の触れによって汚された。
背後の空気が波打った。
壊れたアーチ道からセラフィナ・ナイトヴェールが現れた。彼女のブーツはひび割れた大理石に優しく触れ、一歩一歩がこの世のものとは思えないリズムを刻んでいた。
彼女の深紅の瞳は月光の下でより輝きを増した。
長い黒髪は霧のように漂い、風に吹かれて腰を撫でた。
そして――彼女は微笑んだ。
「ああ、完璧な夜だわ」と彼女は囁いた。「雲ひとつなく、邪魔するものもなく、私とあなたと、そしてほんの少しの月明かりだけ」
彼女は片手を腰に、もう片手を胸に当て、芝居がかった優雅さで軽く頭を下げた。
挨拶のポーズ――優雅で古風、気高さと危険さが混ざり合っていた。
「改めて自己紹介させてください。セラフィナ・ナイトヴェール、真紅の月の吸血鬼です」
「あなたの夜を台無しにするのは光栄です」
空気が切れた。
彼女が背筋を伸ばした瞬間、彼女の体から真紅のオーラが噴き出した――
――爆発でも衝撃波でもなく、まるで何世紀もぶりに鼓動する心臓のような脈動だった。
上空の月がそれに応えた。
その光は強まり、深紅色に染まった。
星々は暗くなった。
世界は暗くなった。 [クリムゾン・ムーン:昇天]
彼女から溢れ出る力は恐ろしく、濃く、重く、陶然とさせるものだった。
闇の玉座ノクティスは、思わず一歩後ずさりした。
初めて、冷たさを感じた。
「な、何だ?」怒りに震える声で、彼は囁いた。
セラフィナの笑みが広がった。
「お前の深淵よりも古い、ダーリン。そして、限りなく優雅だ。」
彼は怒りに燃えて咆哮し、蛇のように地面を掻きむしる暗黒の触手を召喚した。
「永遠の影弾幕!」
千本の闇の槍が彼女に向かって噴き出した。
それらが空間を切り裂くと、空気は悲鳴を上げた。
セラフィナは動かなかった。
彼女はただ息を吐いた。
「月のベール。」
彼女のオーラが揺らめき――槍はガラスに落ちる雨粒のように、薄い空気に吸い込まれて消えた。
ノクティスが反応する間もなく、彼女は消え去った――
――そして突然、彼の目の前に、彼女の深紅の瞳が彼のすぐそばに現れた。
彼女はまるで愛情を込めて囁いた。
「あなたは影を流すけれど、リズムがないのよ。」
彼女の手は赤く輝き、爪はルビーの刃のように伸びていた。
「ワルツを教えよう。」
彼女の動きは踊りになった。
彼女が歩くたびに、地面には光る印の跡が残された。
彼女は信じられないほどの優雅さで動いた――回転し、切り裂き、影の間に姿を消し、光よりも速くノクティスの背後に再び現れた。
「スキル:緋色のワルツ。」
彼女の刃のような爪は、追跡できないほど複雑な模様で彼の体を切り裂き、一撃一撃は心臓の鼓動のように精密に命中した。
血――赤ではなく、黒――が空中に飛び散り、地面に触れる前に蒸発した。
ノクティスは苦痛に咆哮し、巨大なエネルギーの波動で反撃した。
「アビスブレイカー!」
闇が巨大な爆発となって外へと押し寄せ、地形を歪ませ、石も空気も消し去った。
しかし、セラフィナはすでに彼の頭上にいて、空中で旋回し、深紅のオーラが液体の炎のように渦を巻いて下降していた。
「ムーンファング・バースト!」
彼女は流れ星のように落下し、正面から爆発に激突した――彼女の力は闇を圧倒した。
衝突は赤い爆発を引き起こし、空を染めた。
光が消えるにつれ、ノクティスはよろめきながら片膝をつき、息を切らした。彼の体に刻まれた亀裂は不安定なエネルギーで輝いていた。
セラフィナは砕け散った地面に優雅に着地し、ほとんど傷一つ負わなかった。
彼女は首を傾げながら彼を見下ろした。
「まだ立ってるの?すごいわね。あんたの同類はもうほとんど灰になってるわよ。」
ノクティスは歯をむき出しにし、周囲に影が浮かび上がった。「勝ったとでも思っているの?血吸虫め?アビスは死なないわよ!」
セラフィナは微笑んだ。風の中でも寒気を走らせる、ゆっくりとした、捕食者のような笑みだった。
「ああ、殺すつもりはないわ。」
「屈辱を与えるだけよ。」
ノクティスは怒りに燃えて突進し、その体は純粋な影へと変貌した。
彼は圧縮された虚空のエネルギーでできた暗い刃を振り回した。
セラフィナはそれを素手で受け止めた。
「チッ。なんて乱暴なの。」
彼女は握りしめた。刃は脆いガラスのように砕け散った。
それから、彼女はもう片方の手を彼の胸に置いた。彼女の指には、月明かりに合わせて脈打つルーンが輝いていた。
「スキル:ルナードレイン」
彼の体が痙攣し始めると、空気が震えた。彼の力が吸い出され、排水溝に流れ込む水のように、彼女の手へと吸い込まれた。
ノクティスは叫び声を上げた。彼の闇は消え、彼の姿は不安定になった。
「あなたは闇を吸収する」彼女は優しく、ほとんど親切に囁いた。「私は精錬された闇。あなたは夜にふさわしくない」
最後の一撃で、彼女は彼を遥か彼方へと投げ飛ばした。彼の体は街の向こうの砂漠に墜落し、衝撃で峡谷を刻み込んだ。
セラフィナはため息をつき、髪を後ろに撫でつけた。瞳は深紅の月光に照らされた二つのルビーのように輝いていた。
空気はゆっくりと静まり、風が空のように彼女の名前を囁いた。彼女の力できらめいていた。
「ふん。アビスの子らはいつもドラマチックだわね。」
彼女は街の方を見た。聖域はまだ弱々しく揺らめき、ネクサス・スパイアの光は不安定に脈動していた。
「さて」と彼女は呟き、牙がかすかに光った。「あの白髪の女神がどんな混沌を巻き起こしたのか、見に行こう。」




