第51話 玉座の城
創造の深淵――いかなる神も、いかなる領域も、いかなる法も及ばぬ深淵――
光さえも差し込もうとしない場所があった。
深淵の次元。
そしてその中心には、城の定義を覆す建造物が聳えていた――果てしない虚空に逆さまに浮かぶ、逆さの要塞。
その塔からは黒い牙のように滴り落ち、
壁は生きた血管のように脈打つ結晶化した影で築かれていた。
ここが玉座の城だった。
七つの深淵の玉座、腐敗の支配者、そして神の最古の敵の居城。
大広間には、燃え盛る深紅のルーン文字の円を描くように、七つの黒い玉座が並んでいた。
空気は濃い悪魔の瘴気で揺らめき、一息ごとに千の呪われた魂の重みが込められていた。
玉座は一つずつ、形を成した。
それぞれが定命の理解を超えた存在であり、
それぞれが生ける闇へと歪められた概念であった。
左端から、鎖と朽ち果てた物で編まれた玉座に座り、錆びた鋼鉄のような声が響いた。
「南における我々の計画は失敗した。」
声を上げたのは朽ち果ての玉座、その体は疫病の霧に包まれた、骨が揺れ動く屍だった。
破滅の玉座――溶けた黒鉄でできた巨大な鎧の巨人――は唸り声を上げ、その声は地殻崩壊のように轟いた。
「感じた。我々の操り人形の一つが消えた。殺されたのではなく、作り出されたのだ。」
横からは、長い紫色の髪と銀河のように回転する瞳を持つ女性、狂気の玉座がくすくす笑った。その声は四方八方に響き渡った。
「未完成?おお、珍しい!一体誰がそんなことをするんだ?」
テーブルの上に新たな映像が浮かび上がった。黒曜石の投影像が、かすかに赤く輝いていた。
少女。
白い髪。
金色の瞳。
彼女の手には刃があり、そこから星のように青い炎が立ち上っていた。
深淵の霧もその映像にわずかに後ずさりした。
投影像の底には、古代の悪魔のルーン文字が光っていた。翻訳すると、こう記されていた。
[指定:リリア・フォスター]
[分類:未知の神性]
[脅威レベル:極]
[状態:活動中 - 敵対的]
部屋は静まり返った。
しばらくの間、誰も口をきかなかった。
黒い炎さえも、不安げに揺らめいていた。
その時、憎悪の玉座――真紅の炎に包まれた細身の姿――が唸り声を上げた。
「彼女は我々の堕落した宿主の一つを滅ぼした。南のノードは完全に消滅した。それが何を意味するか、分かるか?」
欺瞞の玉座――笑みを浮かべた滑稽な顔の形をした仮面を被った背の高い男――が、小さく笑った。
「つまり、彼女はただの女神ではないということだ。」
破滅は身を乗り出し、爪を石の肘掛けに食い込ませた。「彼女は原初のエネルギーを操る。これほどのマナ出力は、古き神々の時代以来、かつて存在しなかった。」
「不可能だ」飢餓の玉座が囁いた。肉というより影のような姿で、暗闇から歯が光る怪物。「どんな定命の器も、そんなものに耐えられるはずがない。」
「だが、」欺瞞は楽しげに落ち着いた口調で言った。「彼女が全く定命でない限りは。」
指を弾くと、映像が切り替わった。リリアの顔が様々な角度から映し出され、彼女のマナフィールドが光と虚空の万華鏡のように渦巻いていた。
「報告書では彼女は複製の女神と呼ばれている。だが、彼女の力は複製ではなく、完成させるのだ。触れたものを何でも、より優れたものへと書き換える。神性さえも。」
マッドネスは玉座の上で逆さまに回転しながら、さらに大きな笑い声を上げた。「おお~楽しそう!一緒に遊んでもいい?」
「遊んで?」ヘイトレッドが囁いた。「彼女は一撃で軍団を壊滅させたんだぞ!」
デセプションは物憂げに背もたれにもたれかかり、仮面の上の笑みがさらに広がった。「そして、我が熱血漢よ、彼女が面白いのはまさにそのためだ。」
ルインは拳を振り下ろした。 「彼女はアビサル・オーダーにとって脅威だ!このままでは…」
「彼女は我々が築き上げてきた全てを台無しにするだろう」とディケイは言葉を締めくくった。「我々の腐敗の血管は広がりを緩やかにしている。彼女の聖なる共鳴は我々の影響を打ち消している。定命の霊魂でさえ、再び我々に抵抗し始めている」
初めて、最も高い玉座――最も大きく、純粋な虚無の黒のエネルギーに包まれた玉座――に座る者が口を開いた。
返ってきた声は、王国全体を震撼させた。
「もう十分だ」
他の者たちはたちまち静まり返った。
その人物は身を乗り出した。その顔は生ける影でできたフードに隠され、目には赤と金の二つの輪が輝いていた。
彼はアビスの覇王――第一の玉座。
あらゆる悪魔の腐敗の根源。
「しゃべらせておくがいい」と彼は冷静に言った。 「恐怖は支配を生む。だが、この少女――リリア・フォスター――は…普通ではない。」
彼は手を挙げた。投影映像がリリアの目にズームインした。
「創造と同じ光と…そして破壊と同じ闇を帯びている。」
その名を口にした途端、空気が凍りついた。玉座たちさえも、居心地悪そうに身動きをした。
デセプションは首を傾げた。「つまり、彼女は双子の抽象体と繋がっているということか?」
オーバーロードの口調は深まった。
「いや。彼女は彼らの統合を、つまり両者を超えた禁断の状態を、担っているということだ。」
低い唸りが部屋に響き渡った。
憎悪が唸り声を上げた。「では、何を命じるのだ、オーバーロード卿?」
オーバーロードはかすかに微笑んだ――影に隠れた、ゆっくりとした、残酷な曲線。
「彼女を観察し、試し、さらに覚醒するよう促せ。彼女が成長すればするほど、神聖と深淵の境界は曖昧になるだろう”
狂気の笑い声が、砕けた鐘のように空気を満たした。「そして、彼女が熟した暁には――」
オーバーロードが彼女の言葉を代弁した。
「――我らは彼女を所有する。」
投影が暗転した。
そして、虚無から生まれた広間で、七組の目が期待に燃えていた。
「複製の女神……」
「神性の完璧な泥棒……」
「まもなく、彼女は我らのものとなる。」
アビスそのものが不吉な歓喜に脈打ち、
玉座の城は暗闇に響く心臓の鼓動のように鳴り始めた。
遥か上空、人間の領域で、
リリア・フォスターは背筋に微かな震えが走るのを感じた――心の奥底で囁かれたその声は、空気を灰と影の味にさせた。
何か巨大なものが彼女に気づいた。
そしてそれは微笑んでいた。




