第50話 七つの深淵の玉座
太陽は沈みかけ、崩れかけた屋根々に金色の血を流していた。
最悪の混乱は収まった。セレーネの癒しの光は静かな波のように街路を流れ、傷を癒し、火傷を治し、堕落した者たちのマナ腐敗さえも安定させていた。
奇跡的に、誰も死ななかった。
この呪われた世界においては、それだけでも小さな奇跡だった。
町民たちは再建に取り組み、焼けたパンと埃の匂いが漂っていた。笑い声は慎重で、はかなく、しかし確かに聞こえていた。生命が戻ってきたのだ。
一方、私たちは町役場の残骸に集まっていた。ひび割れた石造りの建物は、今や間に合わせの作戦室と化していた。
中央には円卓が置かれ、地図や書類が広げられていた。ケイルは床に巨大な印章を描き、マナの測定値と見慣れないシンボルの画像を投影していた。
我々は皆、近くに座ったり立ったりしていた。疲労は依然として重かったが、心は明晰だった。
ケイルは眼鏡を直し、いつもの穏やかな表情は厳かな集中力に変わった。
「七つの深淵の玉座は単なる組織ではない」と彼は冷たく、思慮深い口調で話し始めた。「それはイデオロギーであり、悪魔的存在の絶対的な頂点に君臨する存在の階層構造なのだ。」
彼が手を振ると、七つの影が青い光の中に現れた。ぼんやりと、巨大で、古の姿をしていた。
「彼らが深淵の玉座を名乗るのは、それぞれがアンダーレルム――人間が『地獄』と呼ぶ場所――の一部を支配しているからだ。だが、実態はそれよりもはるかに複雑だ。それぞれが、腐敗そのものに直結する概念領域を支配しているのだ。」
ロナンは眉をひそめた。「つまり、それぞれが罪の種類を象徴しているということか?」
ケイルは頷いた。 「そんな感じね。でも、罪という子供じみた概念じゃないわ。宇宙レベルの側面よ。破滅、飢餓、憎悪、狂気、欺瞞、腐敗、そして…忘却といった概念よ。」
低い冷気が部屋中に漂った。
オーレリアは腕を組んだ。「つまり、ただの悪魔じゃないのね。抽象的な力が形を与えられたのね。」
「その通りだ」とケイルは言った。「悪魔の娘が話してくれたところによると、現在地上で活動しているのは第五の座――欺瞞の玉座よ。彼らの腐敗魔法は定命の者の魔力の流れを汚染し、意志力を歪め、放置すれば軍隊全体を操ることさえできる。」
セレーネはうつむき、杖を握りしめた。「彼らは盗賊たちに仕えさせていたのよ…」
ケイルは厳しい表情で頷いた。 「ああ。アビサル・ブランドと呼ばれる呪いの印章を通してだ。一度烙印を押されると、魂は玉座に帰属する。」
ダリウスは拳をテーブルに叩きつけ、揺さぶった。「そして、奴らを粉砕する。七人全員を。」
ケイルは顔を上げもしなかった。「できない。」
その言葉で彼は黙った。
ケイルは平坦な声で続けた。「それぞれの玉座は原初存在に相当する。原初存在とは、時間よりも以前、神よりも前に存在していた存在だ。彼らは死なない。ただ姿を変えるだけで、敗北すると世界間の深淵へと退却する。」
オーレリアは鋭く息を吐いた。「では、どうすればいいんだ?」
ケイルは眼鏡の奥の目を輝かせながら、彼女の方を向いた。「封印する。封じ込める。あるいは、彼らのアンカーを破壊する。アンカーとは、彼らが我々の世界に力を投射する源だ。アンカーがなければ、彼らは人間に影響を与えることはできない。」
指を弾くと、新たな光るルーン文字が現れた――七つの印章が、それぞれかすかに脈動していた。
「これが彼らの印だ。これらの印章に繋がるアンカーポイントを見つけることができれば、彼らと私たちの世界との繋がりを断ち切ることができる。」
セレーネの表情が和らいだ。「では、そうすることにしよう。」
ロナンは腕を組んで後ろにもたれかかった。「それで、一体何を見ているんだ?どこから始めればいいんだ?」
ケイルは少し間を置いてから答えた。「悪魔の攻撃で発見した残留マナから判断すると、この腐敗の痕跡は第五の玉座『欺瞞の嘘』の痕跡と一致している。現在のアンカーは南方辺境付近のどこかにある…大精霊竜が最後に目撃された場所の近くだ。」
オーレリアの視線が鋭くなった。「つまり、玉座と竜は繋がっているということか。」
「そうかもしれない。」ケイルは言った。 「もし玉座が動き出しているなら、ドラゴンの出現は単なる偶然ではないかもしれない。ドラゴンは封印の仕組みの一部、あるいは彼らが解き放とうとしている鍵なのかもしれない。」
私は腕を組み、空中に揺らめく光る印章を見守った。
「つまり、理解させてくれ」と私は言った。「7体の原初レベルの悪魔が世界を蝕んでいて、そのうちの1体がグレート・スピリット・ドラゴンを操っているかもしれない。そして、我々はそれを阻止するために、彼らの領域へと直行するのだ。」
ケイルは頷いた。「簡単にまとめると、そういうことだ。」
ロナンはニヤリと笑った。「完璧だ。いつもの火曜日か?」
ダリウスはうめいた。「これがいつもの日常だなんて、嫌だ。」
オーレリアは私を見つめた。金色の瞳は穏やかでありながらも、鋭かった。「リリア、一人で戦う必要はない。一緒にやろう。」
私はかすかに微笑んだ。「私も同じことを言おうと思っていたわ。」
ニャは尻尾を丸めながら、私の隣でちらちらと動いていた。
[お知らせ:南のレイラインで汚染共鳴を検知。深淵の存在に遭遇する確率:92%]
窓の方を向き、地平線の上に揺らめく微かなオーロラを眺めた。先ほど私が引き起こしたバリア嵐の残骸だ。
世界が重く感じられた。
空気は今、ささやき声を運んでいた。
七つの玉座が彼らの動きを追う。
そして我々は彼らのゲームに真っ向から突入しようとしていた。
「それで決まりね」オーレリアは立ち上がりながら言った。「明日出発する。夜明けに。」
セレーネは頷いた。「村人たちは無事だ。そろそろ時間だ。」
ケールは地図を巻き上げた。
ロナンは剣を掴んだ。
ダリウスは鎧の紐を締めた。
ライラは静かに矢を詰め、鋭い目をしていた。
私は窓辺でセレーネのマントにくるまり休んでいる悪魔の少女を見た。彼女は私を見上げ、小さな角が炎の光にきらめいていた。
「休んだ方がいいわ」と私は言った。「明日、私たちは新たな旅を始めるのよ。」
彼女はかすかに微笑んだ。「あなたは彼らと戦うのよね?」
「ええ」と私は優しく言った。「そして私たちは勝つわ。」
その夜、傷だらけの街に星が輝く中、私は眠れなかった。
どこか、深淵の奥深くで、七つの声が一斉に囁いたからだ。
「そうか…コピーの女神が動いたのか。」
「来させろ。」
「我々は永遠の時を待ち望んでいた。」
空気は冷たくなった。
影はねじれた。
そして、人間の視界を遥かに超える深淵の暗黒の中心で、
七つの玉座が目覚め始めた。




