第49話 その 創造のホール
死すべき世界から遠く離れた場所――時を超え、星々を超え、存在という概念さえも超えた場所に――
存在そのものだけが集う場所があった。
創造の殿堂。
金と白の光が無限に輝く大聖堂。
壁は生きたルーン文字で脈動し、
床はタイル一枚一枚の中に銀河を映し出していた。
この場所での息遣い一つ一つが、無数の宇宙へと響き渡る。
そして今日、空気そのものが震えた。
リリアに仕える時空の女神、ルナが召喚されたからだ。
彼女は悠久の回廊を、穏やかな足取りで歩いた。
銀色の髪は星明かりに輝き、ツインテールは彼女の背後で軽やかに漂っていた。
彼女の一歩一歩が、現実を脈打つように響き渡った。
彼女は永遠よりも古いシンボルが刻まれた扉の前で立ち止まった。
[アクセス承認:原初の評議会が待機しています。]
巨大な門が開いた。
内部は、人間の理解を遥かに超える巨大な円形の部屋だった。
水晶と炎でできた無限のテーブルを囲むように、浮遊する玉座が並んでいた。
それぞれの玉座には、存在するだけで現実の意味を歪める存在が座していた。
彼女の左には――
概念。彼女はあらゆる法と論理を定義する、形のない霧だった。
彼らの姿は揺らめき、脈打つたびに無限の可能性を囁いた。
彼らの隣には――
欲望。彼女は金と深紅に輝く姿で、その声は銀河を切望で震わせた。
宇宙。広大で静謐な、夜空をローブのようにまとった星々の姿。
永遠。男でも女でもない、常に動き続ける存在。まるで永遠にループする時間のように。
死。その静寂と静寂は銀の衣をまとい、その瞳はあらゆる結末を秘めていた。
物語。彼女はインクと、ひとりでにめくるページから生まれた姿――語り継がれるあらゆる物語が、その姿から静かに囁かれる。
運命。彼女はベールに包まれ、読み解くことのできない存在。運命の糸が彼らの指の間を果てしなく紡がれている。
そして中央のテーブルには――
他のどの玉座よりも明るく、そして暗い二つの玉座があった。
一つは創造――すべての始まりの純粋な源を放っていた。
もう一つは光そのものを飲み込み、終焉と忘却の脈動をしていた。
双子の支配者。
創造と破壊。
ルナが入場すると、すべての原初的存在は軽く頭を下げた。
彼らの中でも、彼女は普通ではなかった。
彼女は他の者に仕えていたが…彼女の現在の主は、彼らが予測できない唯一の異端者だった。
創造が最初に口を開いた。その声は穏やかで、旋律的でありながら、ただ話すだけで新たな現実を生み出すほどに広大だった。
「時空のルナ。あなたは抽象原始評議会に召喚され、現在人間界で活動している異常現象について報告する。」
破壊の声が続いた。深く、重く、崩壊する星々のような声だった。
「人間たちが今リリア・フォスターと呼ぶ者。」
彼女の名前を聞くと、かすかな波紋がテーブルに広がった。
概念は落ち着かない様子で身動きをした。「彼女の存在は宇宙の根源的な構文を破壊する。彼女は概念的な絶対性さえも模倣し、改良し、完成させる。」
欲望はニヤリと笑った。「そして、それをする彼女は美しい。危険な組み合わせだ。」
死は静かにため息をついた。「彼女は生にも死にも縛られていない。私の手が届かなければ、彼女の糸を定義できない。」
運命は手を挙げ、弦が輝いた。 「彼女の系譜をあらゆる時間軸で探した。私の時間軸には存在しない。彼女自身が書いているのだ。」
ストーリーズは静かに笑い、ページをめくった。「ああ、彼女が紡ぎ出す物語は実に素晴らしい。混沌、慈悲、力、そして予測不可能。彼女について書き続けることをやめられない。」
コスモスは眉をひそめた。「彼女のエネルギー特性は不安定だ。空間次元と因果律の核となる法則を、まるで子供の遊びのように操る。」
エターニティが付け加えた。「彼女は既に原初の理解の限界に達しており、今も進化を続けている。」
デストラクションは身を乗り出した。「つまり…彼女は厄介者だ。」
ルナは目を細めた。「彼女は私の愛人だ。慎重に話せ。」
彼女の口調に、空気がわずかに裂けた。
原初の者たちでさえ、一瞬、時間の歪みが凍りつくのを感じた。
クリエイションはかすかに微笑んだ。 「平和を、ルナ。我々は敵ではない。だが、理解しろ――彼女がどうなったかは無視できない。」
コンセプトは再び口を開いた。「彼女のパーフェクト・コピーは、我々さえも完璧にする。望めば、創造と破壊そのものを書き換えることも出来る。」
その言葉に、部屋は静まり返った。
ルナの声は静かだった。「彼女はそんなことはしない。」
デザイアの笑みが広がった。「そうだろう?力は最も純粋な魂さえも変えてしまう。そしてあの少女は、神性の錨に鍛えられることなく、死を超越したのだ。」
ルナは拳を握りしめた。「彼女は王座など求めていない。ただ普通の人生を送りたいだけだ。」
「普通の人生だ」と死は囁いた。「それでも、彼女の足音は永遠を揺るがす。」
創造はついに立ち上がり、その輝きは強まった。 「もう十分だ。この会合は彼女を非難するためではなく、準備のためだ。大精霊竜の覚醒はすでに次元のバランスを崩している。彼女がそれに立ち向かい、勝利すれば、創造と破壊の天秤は揺らぐかもしれない。」
破壊の瞳は溶けた赤に輝いた。「彼女が失敗すれば、世界は滅びる。もし彼女が成功すれば…彼女は我々全てを凌駕するかもしれない。」
フェイトは見上げた。糸が揺らめいた。「運命の線は彼女へと収束する。全ての未来は私には見える――彼女の選択次第で終わる。
ストーリーズは手を伸ばし、ページをゆっくりとめくった。「そして、親愛なる評議会よ、それは決して良い結末を迎えない、あるいはそもそも終わらない類の物語なのです。」
ルーナは毅然とした態度で、口調は揺るがなかった。「では、彼女の望み通りに終わらせましょう。私は彼女に仕えるために存在しているのです。」
創造は心得ありげに微笑んだ。「そうかもしれません、ルーナ。あるいはもしかしたら…彼女は私たちを書き換えるために存在しているのかもしれません。」
部屋は再び静まり返った。
そしてその静寂の中、彼らの存在の遥か下のどこかで――
一人の死すべき女神が剣を掲げ、深紅の空に青い炎を燃え立たせた。




