第47話 悪魔の演劇
前の晩に何もなかったかのように朝が来た――
まあ、二日酔いと後悔の匂いを除けば。
宿屋の窓から太陽の光が差し込み、空気中の埃を捉えながら、私のパーティーはゆっくりと動き始めた。
まずロナンがうめき声を上げた。
ダリウスは「二度とスピリットエールは飲まない」と呟いた。
ケイルは目を覚まし、「多元宇宙の分身」について、まるで忘れられない夢だったかのようにメモを取っていた。
セレーネは枕を握りしめ、肝臓への謝罪とも取れる祝福の言葉を呟いた。
ライラはまだ眠り、弓弦によだれを垂らしていた。
そしてオーレリアがいた――
彼女は鎧を着て、剣を胸に突き立て、目は閉じているものの、しっかりと握りしめていた。
私は瞬きした。「彼女は…武装して眠るのだろうか?」
ニャが私の隣でちらりと目を輝かせた。
[肯定。被験者オーレリアはレム睡眠中でも戦闘態勢を維持している。不意打ちの可能性:0%。驚かせた者を刺す可能性:96%。
「ああ、起こさないぞ。」
正午になり、ようやく出発の準備が整った。町はいつもの賑わいを取り戻していた。商人たちの叫び声、遊ぶ子供たち、通りから漂うパンの焼ける匂い。
馬車を繋いだ。ダリウスは伸びをした。「よし、南行きだ。準備はいい。」
「やっとか」と私は言った。「さあ、出発しよう…」
ガラスが割れるような音が空気を切り裂いた。
皆が凍りついた。
空が揺らめき、地平線が歪んだ。
そして――赤黒いエネルギーの巨大なドームが押し寄せ、一瞬にして町全体を包み込んだ。
結界。
[警告:禁断級の魔力を検出。特徴:悪魔の汚染。]
地面が揺れた。爆発音が外の通りを揺るがす中、市場から叫び声が上がった。
西の方から、煙の中を人影が動いてきた。盗賊だ。
数十人、いや数百人かもしれないが、武器を抜き、かすかな深紅の目を輝かせながら通りに溢れかえっていた。
セレーネは息を呑んだ。「奴らの魔力…おかしい。」
集中すると、彼らの周囲の空気は、まるで汚染された魔力の血管が腕を這い上がっているかのように、暗い静電気で脈動していた。「奴らは堕落している。誰かが魔のエッセンスを注ぎ込んでいる。」
オーレリアは既に動き始めていた。剣を抜き、黄金のオーラを燃え上がらせていた。
「全員、市民を守れ!」
「行くぞ!」ダリウスは叫び、盾を地面に叩きつけた。
ロナンとライラは屋根の上へと駆け出し、矢が飛び交っていた。
オーレリアは大群へと突撃した。その剣は神聖な光を帯びていた――
しかし、一撃を加える前に、足元で紫色のグリフが燃え上がった。
「――何だって?!」
影の鎖が地面から噴き出し、蛇のように彼女の体に巻き付いた。
彼女の剣が地面に落ち、光は消えた。
「オーレリア!」私は叫んだ。
グリフはさらに輝きを増した。彼女のオーラはちらつき、急速に消耗していった。
[警告:高位生命吸収呪文を検知。発生源を特定:汚染されたマナチャネル。設計は神々に対する事前対策を示唆している。]
「彼らは彼女のために計画していた」と私は呟いた。「誰かが我々が来ることを知っていた」
混沌を切り裂く声が響いた――滑らかで冷たく、煙に包まれた絹のように響いた。
「もちろん知っていた」
群衆は散っていった。
瓦礫の中を、長い黒いコートを引きずりながら、女が歩いてきた。
結界の光に照らされた彼女の髪は紫色に輝き、手には小さな、震える子供を抱えていた。悪魔の少女らしき少女は、恐怖に目を見開いていた。
彼女のオーラは壁のように私を襲った。濃く、重く、悪意が這いずり回っていた。
彼女の周囲のマナは、ただ汚染されているだけではない。生きているのだ。
ニャの口調が鋭くなった。
[識別完了。種族:悪魔。ランク:中級、現在のパワー80%。脅威度:高。注記:未知の異常を検知。宿主は基地の分類をはるかに超える外部の悪魔的源と交信しているようだ。]
私は拳を握りしめた。「悪魔…がここに?」
彼女は微笑み、首を傾げた。「よくも気付いたわね。きっと、みんなが噂している女神なのね。」
「私は女神なんかじゃないわ」と私はきっぱりと言った。 「自分の所有地でない町に手を出すのが大嫌いなだけよ」
「あら?」彼女は喉を鳴らした。「じゃあ、これを試練だと思って。もし私を止められたら、もしかしたら魂を救えるかもしれないわ。もし無理なら…」
彼女の足元の影がうねり、燃えるような目をした怪物のようなシルエットを形作った。
「…なら、あなたも私のコレクションに加えるわ」
石畳を蝕む穢れたマナの音を無視して、私は前に出た。
「ねえ」と私は手を挙げて言った。「もうこの町を襲撃するのはやめなさい。ここはあなたが手を出すべき場所じゃないのよ」
彼女はさらに大きく笑った。「もし私が拒否したら?」
「後悔するわよ」
[戦闘モード開始]
パーフェクト・コピー・コアが起動し、辺り一帯のマナシグネチャーを全て分析すると、私の目は青く燃え上がった。
ダリウスは私の横に盾を叩きつけた。 「リリア、俺たちはお前と一緒だ」
セレーネの杖が聖なる光で輝いた。「まずは民衆を解放しよう」
ケイルは「結界マトリックスの実地試験」について何か呟いた。
オーレリアは歯を食いしばり、影の鎖にもがき苦しんだ。「リリア! 彼女を侮るな。見た目とは違う!」
「私は絶対に侮らない」と私は言った。
悪魔はくすくす笑い、その瞳は真紅に染まった。「ああ、もうお前のこと好きだな」
空気が揺らめき、地面が震えた。
マナと闇がぶつかり合い、結界は心臓の鼓動のように脈動した。
私は首を鳴らし、彼女を見つめた。よし、悪魔。踊ろうぜ。」
そして我々は戦いへと突撃した。
戦場は混沌の化身だった。
障壁で閉ざされた町に叫び声がこだまする。建物は燃え、魔法がぶつかり合い、堕落した盗賊たちは憑りつかれたイナゴのように群がっていた。
ダリウス、ロナン、ライラは通りを守り、鋼鉄と矢が聖なる嵐のように降り注いでいた。
ケイルは逃げ惑う民を守るために結界と障壁を張り巡らせ、セレーネは聖なる羊飼いのように守護の光で彼らを導いた。
そして私は?
私は、存在そのものが現実の法則を蝕む悪魔の前に立ちはだかった。剣をしっかりと握りしめ、視線を逸らさなかった。
彼女はニヤリと笑い、壊れた人形のように悪魔の子供を放り投げ、外套から、虚無から生まれた悪意が響く、グロテスクなほど黒い大剣を取り出した。
彼女が突進すると、ブーツの下で地面が割れた――
私は彼女に出会った道半ばで。
我々は激突した。
刃がぶつかり合うと金属が悲鳴を上げ、衝撃波が周囲の空気を歪ませた。
私は低く身をかがめ、彼女の足を払いのけようとしたが、彼女は飛び上がった。
彼女は空中で回転し、強烈な頭上攻撃を放ち、地面に叩きつけた。
「チッ!」間一髪で氷の壁を構えた。
それはガラスのように砕け散った。
「限りない力」と私は囁いた。
脈が血管を駆け巡り、体中に限りない力が溢れ出した。
私は拳を握りしめ、後ずさりして、空中で彼女を殴りつけた。
バキッ!
彼女は後方に飛び上がり、着地前に宙返りして剣を地面に引きずり、火花を散らして移動速度を落とした。
そして、彼女の表情が歪んだ。
彼女は咆哮した。「ダーク・ヴォイド・デストロイヤー!」彼女の剣は唸りを上げ、空気を切り裂いた。
彼女の刃から黒いエネルギーの弧が炸裂した。斬撃は消滅の三日月のように弧を描き、まっすぐにこちらへ――いや、背後の街へと迫ってきた。
「だめ!」私は手を上げて叫んだ。「空間結界!」
歪んだ空間の波紋が私の周囲に揺らめいた。斬撃は結界に衝突し、層ごとに引き裂き――ついに消え去った。
額から汗が滴り落ちた。あれは…もう少しで貫通するところだった。
「わかった…」私は歯を食いしばった。「もう、本当に腹が立つわ。」
私は突進した。再び剣がぶつかり合った――突き、スライド、カウンター、そして回避。私は彼女の背後に回り込み、上向きに斬りつけた。彼女はガードし、肘打ちを試みてきた。私は身をかわした。
彼女の脚を蹴り、わずかにバランスを崩した。そして剣を突き刺した――
しかし、彼女はニヤリと笑った。
彼女の体から、堕落した赤黒いエネルギー――獣の虚空の力――が湧き上がった。
彼女の周囲の空間そのものが歪んだ。
その圧力は足元の石を砕いた。空気が悲鳴を上げた。
私はよろめいた。
これは普通の堕落したマナではなかった――
これは何かもっと深く、原始的で太古の何かだった。
まるでかつて星を貪り食った獣の残響のようだった。
ニャの声が耳元で響いた。
[警告:パワーは推定安全閾値を超えています。自制を推奨します。]
「分かっている!」私は言い放った。「だが、今手加減すれば…罪のない人々が死ぬことになる。」
私は歯を食いしばった。
「わかった。もうゲームはやめて。」
私のマナが湧き上がった――
無限のマナウィーブ:発動。
まるでダムが決壊したかのように、私の体から無限のマナの流れが噴き出し、世界が私の周りを歪んだ。
空気は生の精気で青く染まった。
髪がなびき、服が燃え上がった。
私は剣を掲げ、マナが絹糸のように剣に絡みついた――
エレメンタル・ドミネーション。
青い炎が刃を焼き尽くした。
それぞれの揺らめきは、崩れ落ちる太陽の熱で燃え上がった。
私は彼女と目を合わせた。
彼女はニヤリと笑った――変わらない。
まだ自信に満ちている。
「…間違った行動だ。」私は囁いた。
真の因果認識。
世界が凍りついた。
光る糸の鎖が私の視界に現れた――
彼女の次の斬撃が引き起こす未来への、あらゆる行動、あらゆる結果、あらゆる波紋。
彼女は左に攻撃する――ケイルは傷つく。
彼女が突撃する――セレーネの結界は破られる。
彼女はもう一つのヴォイド・デストロイヤーを放つ――教会に隠れている二人の子供たちは――
いや。
私はその鎖を拒んだ。
私は光る糸を横に切り裂いた。
現実が瞬いた。
突然、彼女は姿を現した――ほんの一瞬だけ。
隙。
私が作り出した隙。
「さあ…死ね。」
私は消えた。
彼女は瞬いた――
遅すぎた。
私は再び彼女の前に現れた。青い炎を放つ剣、神聖な魔力で輝く瞳。
「特異点斬り。」
私は刃を振り下ろした。
衝撃は単なる爆発ではなかった。
法則の起爆だった。
炎、光、空間、力、重力――全てが一つの破壊点へと凝縮されていた。
ドカーン!
大地が裂けた。
衝撃波が辺り一帯を襲い、山々をなぎ倒し、川を砕き、雲を蒸発させた。
一瞬…静寂だけが訪れた。
塵とマナが空を満たした。
そして――
[脅威レベル:無力化。魔気:消滅。状態:勝利]
私は息を切らし、片膝をついた。
刃から煙が立ち上った。肌がかすかに光った。
全身が痛んだ。
しかし、私は勝った。
見渡すと――オーレリアは束縛から解放されていた。
ケイルとセレーネが村人たちを守っていた。
ダリウス、ローナン、ライラは気絶した盗賊の山の上に立っていた。
町は救われた。




