第199話 ヌルを破る
エイルが空間の裂け目をくぐり抜けた瞬間、背後の宇宙は消え去った。
光はなかった。
音もなかった。
方向もなかった。
ヌルゼロゾーンは闇ではなかった。
減算だった。
破壊神自身が創造した次元――肉体を閉じ込めるためではなく、定義を消し去るために。存在が自らを忘れ去る場所。
エイルが足を踏み入れた瞬間、扉はまるで終わらない思考のように、彼女の背後で閉ざされた。
四方八方から静寂が押し寄せた。
原初の精霊にとってさえ、息苦しかった。
ヌルゼロは攻撃しなかった。
それは無効化した。
ここで概念が解きほぐされた。
時間は流れなかった。
空間は拡張しなかった。
エネルギーは存在しなかった。
それでも――
エイルは立ち尽くし、純粋な虚無の空間へとまっすぐに浮かんでいった。
彼女の白い髪は、まるで水中にいるかのように優しく揺れていたが、移動するための媒体はなかった。彼女の瞳は、古の霊的な炎でかすかに輝いていた。
彼女の核心で、何かが点火した。
無限の霊的発生装置。
リリアとの繋がり。
決して消えることのない、無限の霊的泉。
ヌルゼロは彼女を消そうとした。
彼女の輪郭が揺らめいた。
彼女の名前がかすんだ。
彼女の概念がぼやけた――
彼女はまるで消え失せてしまうかのようだった。
しかしその時――
彼女はより明るく輝いた。
霊的なエネルギーが同心円状に湧き上がり、小さな人工現実のように彼女の周囲に存在の「領域」を刻み込んだ。
ヌルゼロはさらに強く押し寄せた。
それは彼女の記憶を攻撃し始めた。
最初の宇宙戦争。
精霊の誕生。
彼女の消滅。
リリアが彼女を召喚した。
ヌルゼロは一つずつ、その糸を断ち切ろうとした。
エイルは目を閉じた。
「私は単なる記憶ではない」と彼女は静かに囁いた。
「私は起源だ」
精神フィールドが拡大した。
ヌル・ゼロの消去が歪んだ。
ひび割れた。
創造以来初めて――
牢獄は抵抗した。
遥か前方――
彼女はそれらを感じた。
三つの存在。
ルーシー。
リサ。
永遠。
全てが宙吊りの崩壊に閉じ込められていた。
彼女は前に踏み出した。
一歩一歩が彼女を空間へと移動させることはなかった――
それは彼女の存在を許容するために空間を再定義した。
ヌル・ゼロは歪みを生み出し始めた。
不在でできた顔のないシルエット。
ヴォイド・セラフの構造物。
反存在の歩哨。
それらは力ずくで攻撃しなかった。
それらは触れ合った。
そして触れ合った場所で――
概念は消えた。
一つがエイルの肩に触れた。
彼女の袖が消えた。
別の袖が彼女の顔に伸びた。
彼女の輪郭が不安定になった。
彼女の存在率が低下した。
88%…
73%…
無限生成器が激しく炎を上げた。
霊的エネルギーが星が誕生するように噴き出した。
シルエットは消え去り、無へと消えた。
エイルはゆっくりと息を吐いた。
「この場所は存在を否定する。」
彼女は手を挙げた。
「ならば、新たな存在を創造しよう。」
原初の霊的権威 ― 基礎召喚。
波紋が広がった。
ヌル・ゼロは震えた。
痛みではない。
しかし、混乱の中だった。
抵抗は経験したことがなかった。
はるか前方――
概念的静止の立方体の中にいるルーシーは、突然のエネルギーを感じ、それがどんどん近づいてきているのを感じた。
彼女は目を開けた。
彼女の眼鏡がわずかに割れた。
フィービーは分析の途中で、彼女の隣で凍りついた。
リサは混沌とした宙吊り球の中で逆さまに浮かんでいた。
そして永遠――
彼女は腕を組んで直立し、フラクタルプリズムの中に閉じ込められていた。そのプリズムは、彼女の宇宙的権威そのものを抑圧しようとしていた。
エイアが先にルーシーにたどり着いた。
立方体は物理的なものではなかった。
それは実存的否定だった。
「対象はパラドックス複製に指定されました」と、牢獄は目に見えない法則を通して呟いた。
「無効です。」
エイアは手のひらを立方体に当てた。
「原初の精神です。」
「認識:前世の権威です。」
立方体はためらった。
そして、締め付けられた。
ルーシーの消滅速度が加速し始めた。
エイアの霊的オーラが爆発した。
無限発生器が轟音を立てた。
彼女は無限の霊的出力を立方体に注ぎ込んだ。
亀裂が生じた。
ルーシーの目がピクッと動いた。
立方体が砕け散った。
ルーシーは片膝をつき、すぐに体勢を立て直した。
フィービーは彼女の傍らに完全に姿を現し、銀色の髪が研ぎ澄まされたコードのように揺れた。
「評価」フィービーは即座に言った。
「外部からの原始的干渉により、ヌル・ゼロ収容の完全性が損なわれた。」
ルーシーはエイアを見上げた。
「素晴らしい。」
「外に出る必要がある。」エイアは冷静に答えた。
ルーシーは立ち上がった。
「では、急いで処理する。」
リサの球体は激しく脈動した。
凍り付いていても、混沌が放射されていた。
エイルは慎重に近づいた。
「対象はアンバウンド・カオス派生物と機密指定」と牢獄は詠唱した。
「高リスク」
リサの目がぱっと開いた。
彼女はニヤリと笑った。
「やっと面白そうな人が来たわね」
エイルが触れる前に球体は割れた。
リサは自身の静止状態を内側から破壊した。
「まあ、退屈だったわね。随分時間がかかったわね、エイル」
「あなたは自由になれなかったのね」
「私はバイブレーションしていたのよ」
ルーシーはため息をついた。
最後に残ったのは永遠だった。
彼女のプリズムは違っていた。
抑圧ではない。
封じ込めだ。
それは多元宇宙の周波数で振動していた。
まるで何か破滅的なものを抑制しているかのように。
エイルは言葉を止めた。
ルーシーの表情が鋭くなった。
「もしそれが間違って破壊されたら、ヌル・ゼロは崩壊するわ」
リサはニヤリと笑った。
「それは面白いわね。」
エイルは前に出た。
彼女は両手をプリズムに置いた。
ヌル・ゼロが反撃した。
次元全体が圧縮し始めた。
不在が崩壊する星のように内側へと押し寄せた。
彼女の存在が断片化し始めた――
51%…
34%…
19%…
無限の霊的発生装置が最大限に作動した。
無限の霊的出力。
プリズムが割れた。
永遠は目を開けた。
ほんの一瞬――
ヌル・ゼロのすべてが凍りついた。
宇宙論の体現者は一度瞬きをした。
そしてかすかに微笑んだ。
「ああ。」
プリズムは静かな爆発音とともに外側へと爆発した。
ヌル・ゼロは叫んだ。
音のない破裂がその構造を引き裂いた。
ルーシーはすぐに手を差し出した。
「フィービー。」
「次元出口ベクトルを発見。」
リサは指を鳴らした。
「カオスワールド。」
エイルは最後にもう一度、その力を行使した。
霊的な橋が裂けた。
外では――
天界が震えた。
ヌル・ゼロの中では――
牢獄の次元が崩れ始めた。
「出発のチャンス:3秒」とフィービーが言った。
ルーシーはエイルの腕を掴んだ。
リサは笑った。
エタニティは最後に、さりげなく前に出た。
二人は飛び降りた。
ブリッジは彼らの後ろで封鎖され――
そしてヌル・ゼロは崩壊した。
破壊されたわけではない。
だが、永久に亀裂が入った。
天界に戻る――
大広間の下層に裂け目が開いた。
四人の人影が現れた。
ルーシーが先に着地し、落ち着いていた。
リサは逆さまに浮かび、まだ微笑んでいた。
エタニティは伸びをした。
エイルは少しよろめいた――
彼女の霊的な輝きは弱まったが、安定していた。
はるか下の方で――
神々はそれを感じた。
彼らの「完璧な牢獄」は破られたのだ。
ルーシーは眼鏡を直した。
「リリアが玉座の間に近づいている。」
リサは指の関節を鳴らした。
「やっと。退屈になってきた。」
エターニティの瞳がかすかに光った。
「私の故郷に触れた。」
彼女のオーラがほんの少しだけ広がり――
そして天空が暗くなった。
エイルは神宮を見上げた。
「これで終わりにしよう。」




