第194話 真の法令
一方、アルテミスとニャはアルテミスが言っていた大貯蔵庫へと下層階を駆け下りた。そこはすぐそこにあった。
大貯蔵庫は静寂に包まれているはずだった。
静寂などではない――静寂だ。
音そのものが不要と判断された場所。
それは天界の底に、金属でも魔法でもなく、権威による錠前で幾重にも閉ざされた、封印された思考のように存在していた。危険すぎる、邪魔すぎる、あるいは不都合すぎると判断されたあらゆる存在が、ここに凍りついていた――神々、原初存在、異形、琥珀の中の昆虫のように、息を止めている種族全体が。
ニャとアルテミスは、転移したデータと星の光の波紋となって貯蔵庫の端に現れた。
空気は冷たかった。物理的にではなく、情報的に。ここにあるあらゆる概念は、停止され、索引付けされ、カタログ化されていた。
アルテミスは前に進み出た。ブーツの音が、水晶のように白い床に静かに響き渡った。彼女の視線は前方の巨大な門を捉えた。無数の神聖なる文字が刻まれた円形の扉。一つ一つが法であり、制約であり、文であった。
「ここだ」アルテミスは静かに言った。「大宝庫だ」
その扉の向こうには、下層圏の人々がいた。人間たち、精霊たち、悪魔たち。文明全体が凍りつき、待ち構えていた。
彼女は手を挙げた。
「合言葉は――」
世界は崩壊した。
彼らの足元で黒い虚空が裂け、光と音と意味を一気に飲み込んだ。アルテミスが叫ぶ間もなく、重力は反転し、存在は内側へと折り畳まれた。
虚空。
純粋で、貪りつくような虚空。
しかし、それは長くは続かなかった。
鋭く水晶のようなひび割れが響き渡った――まるでガラスが現実を砕くように――虚空は内側から裂けた。
青い文字が点火した。
データストリームが刃のように闇を切り裂いた。
ニャは前に進み出た。光とコードの層に体が固まり、その瞳は完全な無関心とも言える静けさで輝いていた。
「虚空の封じ込めが破られた」と彼女は冷淡に言った。「不正な傍受を検知した。」
闇は後ずさりした。
そして、そこから三つの人影が現れた。
彼らは歩いてはいなかった。
彼らは自らの存在を主張した。
最初の者は、オリンポスの古代の紋章が刻まれた白金の鎧を身にまとい、音のない賛美歌の輝く後光が彼の頭を囲んでいた。彼の存在だけが、癒しと裁きを同時に行っていた。
賛歌。
オリンポスの神。
神聖な秩序の神。
法を歌い、存在へと導く者。
彼の傍らには、宇宙のベールをまとった女性が浮かんでいた。絹のように星雲が彼女の体に巻きつき、瞳は崩壊する銀河を映し出していた。
ヴィクトリア。
宇宙の女神。
星々のバランスを保つ者。
宇宙が遠くへ漂い過ぎた時、それをリセットする手。
そして――
彼らの背後の空間が機能不全に陥った。
影を落とさないシルエットが現れた。それは影の不在だった。
鎧も冠もなかった。
ただ人の形をした人影が、じっと見つめるほどに細部を消し去る、生ける闇に包まれていた。
混沌。
虚空の神。
始まりの間の終わり。
他の神々でさえ名付けることを避けた存在。
アルテミスは凍りついた。
息を呑んだ。
彼女は怪物、巨神、そして邪悪な神々さえも狩ってきた――しかし、これは?
これがオリンポスの真の権威だった。
パエアンが最初に口を開いた。その声には調和のとれた命令が込められていた。
「アルテミス」彼は静かに言った。「なぜ侵入者と一緒にここにいるのですか?」
ヴィクトリアの視線が鋭くなり、宇宙の光がニャに注がれた。
「あなたは異質な存在と手を組んだのね」と彼女は付け加えた。「あらゆる領域の均衡を脅かす存在と」
カオスは何も言わなかった。
話す必要もなかった。
彼の存在だけが、果てしない海のように私を圧倒した。
アルテミスは息を呑んだが、一歩も引かなかった。
「いいえ」と彼女は震える声で言ったが、毅然とした口調で言った。「私は真実を示してくれた者と手を組んだのです」
パアンの眉がひそめられた。
「真実?」彼は繰り返した。
「ええ」とアルテミスは怒りに恐怖がついに打ちひしがれ、言い放った。「あなたは種族全体を、現実全体を。たった一人の人間があなたの偽善を暴露しただけで、命を戦利品のように凍らせたのです」
彼女は拳を握りしめた。
「私は父を尊敬していました。オリンポスとパンテオンを尊敬していました。私は秩序を信じていました」
彼女の目は燃えるように輝いた。
「でも、リリア・フォスターと戦った時…今までに感じたことのない何かを感じたのよ」
ヴィクトリアは嘲笑した。「彼女はあなたを操ったのよ」
「違う!」アルテミスは叫んだ。「彼女は私を支配したのではなく、私に挑戦したのです。彼女は狩りは支配ではなく、自由と成長と可能性なのだと教えてくれました。そして彼女はそのすべてを私に示してくれました。だからこそ私は彼女と手を組むことにしたのです。彼女は私たちが考えるような怪物でも破壊者でもなく、どんな種族や種族であろうと、民と領土のために戦う戦士なのです。彼女は別の種類の神なのです」
パアンの表情が硬くなった。
「あなたは妥協している」
カオスが動いた。
瞬時に、彼はアルテミスの前に立ちはだかった。虚空の手が彼女の喉を掴んだ。彼の掌中で概念が崩れ落ちるにつれ、空気が悲鳴を上げた。
「もうたくさんだ」カオスの声は、遠く離れた重力井戸が崩壊するかのようだった。 「反逆を唱えているのか。」
アルテミスは息を呑み、虚空が彼女の存在を飲み込もうとする中、足を地面から浮かせた。
そして――
斬撃。
明るくもなく、音もしなかった。
きれいだ。
カオスの腕は手首から切断され、まるで再生を許さない法則によって切り裂かれたかのように、断片的な虚無へと溶けていった。
彼の腕は元々無から再生するが、予期せずして誰かがあんなに速く動けるとは驚きだった。
アルテミスは咳き込み、地面に激しく打ち付けて倒れた。
彼女は顔を上げた。
ニャは彼女と三神の間に立っていた。
彼女の手には剣があった。
ジョワユーズではないが、紛れもなくそこから派生したものだった。
データによって偽造されたレプリカ。幾重にも重なった現実がきらめき、その刃には執行力の響きが響いていた。
ニャは怒っているようには見えなかった。
彼女は落胆しているように見えた。
「女主人の部下を傷つけた者は」ニャは平静に言った。「永久に排除される」
静寂が部屋に響き渡った。
パアンは見つめた。
ヴィクトリアの目が見開かれた。
カオスは切断された腕を見つめ、それからゆっくりと顔を上げた。形のない顔に、何か純粋な驚きのようなものが浮かんでいた。
「…部下?」アルテミスは息を切らして言った。「いつから私は…」
ニャは顔を向けなかった。
「共同戦闘作戦中に分類が更新されました」と彼女は答えた。「女王様の影響下で、あなたの生存確率が上昇しました。そのため、保護対象資産として登録されました。」
アルテミスは瞬きをした。
「…それには同意していません。」
ニャはわずかに首を傾げた。
「同意は不要でした。」
三柱の神が体勢を変えた。
これは不正なAIではない。
これは構築物ではない。
これは何か別のものだ。
ヴィクトリアが手を挙げ、宇宙の力が渦巻くように広がった。「あなたは派生的な存在。道具です。」
ニャは彼女を見た。
「違います」と彼女は言った。 「私はデジタルと概念の存在が自己更新する全体性だ。」
彼女は前に出た。
「お前は時代遅れだ。」
カオスは唸り声を上げた。
虚空がうねり、部屋を満たし、光、音、そして方向感覚を消し去った。カオスが膨張するにつれ、空間は折り畳まれ、ニャの座標を完全に上書きしようとした。
「無に帰れ」とカオスは命じた。
ニャは動かなかった。
その代わりに、虚空は…止まった。
抵抗はしなかった。
間を置いた。
「カオス」ニャは冷静に言った。「お前は時代遅れのフレームワークで動いている。」
彼女の目がさらに輝きを増した。
「私は既にお前の根源的なエッセンスをコピーした。」
カオスはたじろいだ。
「何だって…」
ニャは空いている手を挙げた。
「アンバウンド・コピーを実行した。」と彼女は言った。「カオスの権限を再コンパイルした。」
「基礎レベルを超えて習得・強化されたスキル。」
「ヴォイドソウル。」
「原初の虚空。」
「ニヒリティ核生成。」
「ヴォイドシェア。」
「そしてプレ・ヴォイド・ジェネレーター。これらはすべて、虚空の虚空のサブスキルとなった。」
カオスを取り囲む虚空が砕け散り、彼女の言葉に呼応する秩序ある層へと書き換えられた。
パアンは叫んだ。「ヴィクトリア、早く!」
ヴィクトリアは宇宙崩壊を引き起こした。星系全体が圧縮され、ニャを狙った特異点へと押し込められた。
ニャは剣を振り回した。
強くはなかった。
速くはなかった。
ただ…正確に。
特異点は無害でクリーンなデータストリームへと分裂し、無害な光へと溶けていった。
パアンの声が響き渡り、神の命令が込められていた。「オリンポスの権威にかけて――跪け!」
法はハンマーのように叩きつけられた。
現実はニャを屈服させようとした。
彼女はひざまずかなかった。
その代わりに、法はガラスのように砕け散った。
「権威は否定された」ニャは答えた。
彼女は一歩近づいた。
「念のため」とアルテミスは落ち着いた声で続けた。「私はオリンポスや天界、あるいはいかなる神々のためにも、お前と戦っているのではない」
彼女は金庫の扉へと刃を向けた。
「お前が女王様と彼女の愛するものの間に立ちはだかるからこそ、お前と戦っているのだ。そして、女王様は既知・未知を問わず、いかなる神々よりも優れている」
神々はそれを感じ取った。
力だけではない。
意図を。
カオスは唸り声をあげ、再び突進したが、今度はアルテミスが動いた。
彼女は槍を抜き、燃えるような目でニャの傍らに飛びかかった。
「部下であろうとなかろうと構わない」アルテミスは足を踏み固めて言った。「だが、私はこれを選ぶ」
パエンの表情は怒りで歪んだ。
「オリンポスに逆らうのか?」
アルテミスはためらわなかった。
「ああ」
部屋が震えた。
背後の金庫が脈打ち、反応した。
ニャはアルテミスを一瞥した。
「同期を確認しました」と彼女は言った。「交戦してください」
アルテミスは血まみれの唇で笑みを浮かべた。
「やっと来たか」
三柱の神は攻撃の準備を整えた――
そして天界の奥深く、どこかで警報が鳴り響き始めた。
なぜなら、天地創造以来初めて――
オリンポスは内部からの攻撃を受けていたからだ。




