第188話 最終警告
次の日は静かにやってきた。
あまりにも静かだった。
私は城門の外、死に方を忘れた屍のように石の上に寝そべっていた。夜勤は過酷だった。私のような人間でさえ、ダクトテープと希望でかろうじて繋がっている世界を見守るのは、疲れるほどだった。
かすかに押されるのを感じた。
「リリア。」
オーレリアの声。
片目を開けると、彼女がそこに立っていた。まるで絵画のように太陽の光を背に、コーヒーカップを持っていた。
「…天使みたいね」と私は呟いた。
彼女は優しく笑い、カップを私に手渡した。「寝ている間に神と戦ったみたいね。」
「夜勤は戦争犯罪みたい」と私はうめきながら起き上がった。「衛兵はどうやって毎日こんなことをしているの?」
「訓練。規律。そして実存的な恐怖感の軽減よ」と彼女は私の隣に座りながらからかった。 「みんな起きてるわ。食事も準備もしてる。もうすぐ天界へ出発するわ。」
私は一瞬、凍りついた。
「…本当にやるのね。」
彼女は頷いた。「ええ、やるわ。」
私はコーヒーの湯気を見つめた。湯気は脆い平和のように渦巻いていた。
「その後どうなるか考えたことある?」と私は静かに尋ねた。「神々を殺したら…誰が人類を守るの?誰が祝福するの?誰が祈りに答えるの?」
オーレリアはしばらく黙っていた。
「…もしかしたら、彼らはついに自らを守る術を学ぶのかもね。」と彼女は言った。「あるいは、新しい守護者を選ぶのかもね。恐怖で支配しない守護者を。」
私はゆっくりと息を吐いた。「いずれ分かるわね。」
彼女は微笑んだ。「きっと分かるわ。」
そして…
すべてが変わった。
胸が締め付けられた。
オーレリアの表情が一瞬で一変した――原始的な本能が叫び声を上げた。
「リリア――」
彼女が言い終わる前に――
ニャの声が頭の中で爆発した。
[警告。差し迫った脅威。発生源:天界。標的:あなた。]
「何――」
オーレリアは考える間もなく動いた。
彼女は渾身の力で私を後ろに突き飛ばした。
まばゆいばかりの白い光線が、私が立っていた空間を突き破り――
――そして彼女に当たった。
「オーレリア――!」
しかし、光はそこで止まらなかった。
空が裂けた。
一本の光線も。
何千、何百万。
光は城、大地、地平線――
――そして遥か彼方まで、突き刺さった。
私は恐怖に震えながら、光線が皆を襲うのを見ていた。
ダリウス。
ロナン。
セレーネ。
ケイル。
ライラ。
セラフィナ。
フェンリル。
アニー。
ナリ。
エリーゼ。
ルーシー。
リサ。
精霊たち。
悪魔たち。
モンスターたち。
世界中。
大陸を越えて。
惑星を越えて。
銀河を越えて。
宇宙を越えて。
「何が起こっているの!?」私は叫んだ。
ニャの声は、私が彼女を知って以来初めて震えていた。
[分析完了]
[イベント特定:天空の携挙]
血が凍りついた。
「…彼らは何だって?」
[神々は完全なる抽出を開始した。]
[すべての知的生命体は天界へと強制的に移送されている。]
私は見上げた――
――人々が消えていくのを見た。
死ぬのではない。
爆発するのでもない。
ただ…消え去る。
まるでファイルがフォルダに引き込まれるように、現実から引きずり出される。
「だめだ、だめだ、だめだ、だめだ――!」
私は振り返った――
――そしてオーレリアが消えていくのを見た。
彼女の体は光へと溶けていく。
「オーレリア!!!」
彼女は私に手を伸ばした。目には恐怖と苦痛が浮かんでいた。
「リリア!!!」
彼女の指が私の指をすり抜け――
――そして彼女は消え去った。
ただそれだけのことで。
皆。
すべての笑い声。
すべての口論。
すべての約束。
愛した人は皆、
いなくなってしまった。
世界は静まり返った。
静かすぎる。
私の中で何かが…
…切れた。
ひび割れたのではない。
砕けたのではない。
粉々になったのではない。
私のマナが爆発した。
爆発ではない――
大災害だ。
それはまるで叫ぶ星のように、私から溢れ出た。
惑星が悲鳴を上げた。
大気が引き裂かれた。
宇宙が歪んだ。
衝撃波が外へと駆け抜けた――
銀河を越えて――
次元を越えて――
幾重にも重なった現実を越えて――
あらゆるゾーンがそれを感じるまで。
外なる神々はたじろいだ。
原初の神々は振り返った。
古き神々は硬直した。
創造と破壊さえも、行動の途中で凍りついた。
彼らは皆、それを感じた。
リリア・フォスターは制御を失った。
「ぶっ殺してやる!」私は叫んだ。声は現実を引き裂いた。
「彼らが誰であろうと、構わない!」
私のオーラは存在を粉砕した。
星々は崩壊した。
次元は崩壊した。
源泉さえも震えた。
「消されてもかまわない!」
「追放されてもかまわない!」
「これまで書かれたすべての物語から忘れ去られてもかまわない!」
私の目は、神性よりもはるかに悪い何かで燃え上がった。
「でも誰も…」
現実がひび割れた。
「誰も…」
領域は内側に崩壊した。
「誘拐…」
因果律が叫んだ。
「私が愛する人々…」
虚空さえもひるんだ。
「そして、罪を逃れる!!!」
私は全てを消し去ろうとしていた。
神々。
天界。
歴史。
運命。
物語。
すべて。
そして――
腕が私を抱きしめた。
きつく。
温かい。
本物だ。
「リリア、お願い――!」
ニャ。
彼女は泣いていた。
全身全霊で私を抱きしめながら、本物の涙が頬を伝った。
「落ち着いて」と彼女は声を詰まらせながら懇願した。「これで終わりじゃない。お願い。」
私の力が半秒ほど揺らいだ。
その時、別の存在が私たちのところに現れた。
優しい。
古き良き。
見慣れた。
アテナ。
彼女は私たちのそばに現れ、ひざまずいて、私も抱きしめた。
「愛しい人」と彼女は優しく囁いた。「もう止めなさい。」
私は震えていた。
怒りに燃えていた。
壊れていく。
「連れ去られたのよ」私は息を詰まらせた。 「彼らは全てを奪っていった」
アテナは私の顔を、金色の瞳でしっかりと、揺らぐことなく見つめた。
「彼らは消えてはいない」と彼女はきっぱりと言った。「凍りついているだけだ」
私は凍りついた。
「…何だって?」
「携挙は消滅ではない」とアテナは続けた。「監禁だ。彼らは皆、大天界殿に閉じ込められている」
ニャは素早く頷いた。「彼女の言う通りだ。確認した。時間停止。魂の停止。まだ何も害はない」
息が詰まった。
「彼らは…生きているのか?」
「ええ」とアテナは優しく言った。「だが、神々はこれを望んでいる」
「あなたを挑発するためだ」
「あなたを我を忘れさせるためだ」
「あなたをヌル・ゼロに封じ込めることを正当化するためだ」
私は拳を握りしめた。
怒りは消えなかった。
それは集中した。
冷たい。
鋭い。
恐ろしいほど冷静。
「…そうやって遊びたいんだね。」
崩壊しつつあった現実は、私のオーラが内側に引き込まれ、爆発する代わりに凝縮するにつれて安定していった。
宇宙が息を吐き出した。
私は顔を拭った。涙は蒸発し、生々しい意志へと変わっていった。
「彼らは私が怒ることを望んでいるのよ」と私は静かに言った。
「彼らは私が無謀になることを望んでいるのよ。」
「彼らは私が彼らが恐れる怪物になることを望んでいるのよ。」
私は顔を上げた。目は落ち着いた。
「わかった。」
私の顔に笑みが浮かんだ。
幸せな笑みではない。
優しい笑みではない。
約束だ。
「でも、私は怪物として来るんじゃないわ。」
私は立ち上がった。
「私はリリア・フォスターとして来るわ。」
愛した少女。
守った少女。
一線を越えた時、神々を滅ぼした少女。
「彼らは私の家族に触れた。」
私のオーラは燃え上がった――制御され、絶対的に。
「だから今…」
私は空を見上げた――天界を見上げた。
「…彼らの扉をノックする。」
そして今回は…
許可を求めない。




