第19話 ギルドマスター
一瞬、私はそこに立ち尽くし、ギルドの床にスライムの塊を垂らしていた。
次の瞬間――
ドスン!
荷馬車の車輪ほどの手が私のトーガの襟を掴み、まるで体重などないかのように私を引っ張り上げた。
「ぎゃーっ!」ギルドマスターの顔がすぐ目の前に迫り、私は悲鳴をあげ、無力にもがき苦しんだ。彼の目は炎のように燃え、血管は今にも反乱を起こしそうなほどに浮き上がっていた。
一瞬、彼は人間ではないと確信した。あの忌々しいゴーストライダーだった。彼の視線だけが「罪を告白しろ、坊や」と叫んでいた。
「お前だ」彼は轟音を立て、その声が私の骨を震わせた。「教えてくれ。何が起こったんだ?」
私の脳は停止した。
すべてのニューロンが「逃げろ」と叫んだが、私の体は濡れタオルのように宙ぶらりんだった。足が無駄に蹴り上げられ、スライムが彼の腕に滴り落ちた。
「えっと…えっと…」歯がガタガタと震えた。「あ、先生…本当に…あれは…えっと…ただの…スライムでした…」
彼は身を乗り出した。息はまるで溶鉱炉のようだった。「スライムだって?! じゃあ、どうして平原の半分が超新星みたいに爆発したんだ?」
魂が抜けたような気がした。手が震えすぎて、その場で失禁しそうになった。
「えっと…えっと…」どもりながら、助けを求めて仲間に視線を走らせた。ダリウスは臆病者のように床を見つめていた。ケイルはメモを取りながら、「面白い」とささやいていた。ロナンは、あの野郎、大笑いしていた。セレーネはまた気を失い、ライラはただ哀れむような視線を向けた。
「…ああ、死んでしまう」私はすすり泣いた。
そして…
ギルド全体に冷たいオーラが充満した。
ルナが浮かび上がり、金色のクーデレのような瞳がほんの少し細くなった。
「…放せ。」
ギルドマスターは凍りついた。腕が震え、山のように大きな額に汗が滴り落ちた。
ゆっくりと、とてもゆっくりと、彼は私を床に下ろし、放した。
私はまるでマラソンを3回走ったかのように息を切らしながら、膝から崩れ落ちた。「ああ、よかった。おしっこショックで死ぬかと思った!」
広間にいた冒険者たちは、怒り狂ったように囁き合った。
「彼女はギルドマスターをひるませた…」
「彼は決してひるまない…」
「あの女は…化け物だ。」
ルーナは手を組み、いつものように落ち着いた声で私の傍らに浮かんでいた。「…女主人。彼を消しましょうか?」
「だめ!」私は必死に腕を振り回しながら叫んだ。「消さないで!特に彼を!」
ギルドマスターは大きく息を呑み、高らかだった声がかすれた。「…なら説明しろ。早く。正気を失う前に。」
私は息を呑んだ。膝はまだ震えていた。
「…しまった。もう説明しなくちゃ。」
私は深呼吸をした。膝はまだ震え、トーガはドロドロでベタベタしていた。ギルドマスターはまるで裁判にかけられた犯罪者のように私を見つめていた。
「…わかった」私は両手を挙げて言った。「説明する。ただ…大声を出さないで。ゴーストライダーの断末魔のような視線に、もう耐えられない。」
彼は腕を組み、筋肉は山のようにこすり合わさった。 「トーク」
私は大きく息を呑んだ。「わかった。それで、スライムを倒しに行ったんだよね?最初は大丈夫だった。普通だった。それから…ルナ」
ギルド全員の視線が、私の後ろに静かに佇む小さなツインテールの女神へと向けられた。
「彼女は、えっと…」私は咳払いした。「…フィールド上のスライムを全部一つの…特異点に融合させたんです」
ギルドマスターは眉をひそめた。「…特異点?」
「ええ、ほら、スライム全部が一つの巨大なスライムになったってこと。巨人より大きい」
ギルドホールは静まり返った。冒険者たちは顎が外れそうになった。一人がマグカップを落とし、もう一人がささやいた。「巨人より大きいなんて!?」
私はぎこちなく笑いをこらえた。「でも大丈夫!うまくコントロールできたわ!ただ…闇の炎をぶつけただけ」
ギルドマスターはゆっくりと身を乗り出した。「…暗い炎だ。」
「ええ」私は頷きながら素早く答えた。「それは…ええと…死にゆく星に匹敵するものでした。」
沈黙が深まった。
「…匹敵するんです」ケイルは割れた眼鏡を持ち上げながら、親切そうに繰り返した。「死にゆく星に匹敵するものです。」
私は彼を睨みつけた。「手伝うのはやめなさい。」
受付係は祈りを呟きながら椅子に崩れ落ちた。数人の冒険者がドアに向かって駆け出した。
ギルドマスターの左目がピクッと動いた。「それで…この…『死にゆく星』を投げた後、どうなったんですか?」
私は首の後ろをこすった。「…まあ、ありがたいことに、スライムが衝撃を吸収してくれたおかげで、惑星自体が、あの…死にゆく星になる前に。」
ホールの向こうから息を呑む声が上がった。誰かが気を失い、誰かが叫んだ。「私たち、みんな死んでたかもしれないのに!?」
私は必死に両手を上げた。「でも、そうじゃない!そこが重要なんだ!ほら、私たちは生きているし、街も無事だし、地面もほとんど焦げているだけで…」
「ほとんど?!」ダリウスが怒鳴った。
「そして、クエストは一応完了したんだ!」濡れた羊皮紙をカウンターに叩きつけながら、私はそう言い終えた。
長く、辛い時間、誰も口を開かなかった。ギルド全員が、まるで私が黙示録の化身だと宣言したかのように、私を見つめていた。
するとロナンが鼻で笑った。「まあ…少なくとも彼女は正直だわ」
私は振り返り、小声で言った。「あなたも何の役にも立ってないじゃない!」




