第182話 完全な破壊
混沌の世界…はもはや世界ではなかった。
空はとっくの昔に、血を流す戦場の筋と化し、リサの断片化された領域論理の下で、自ら折り重なり、崩壊と再生を繰り返していた。山々は重力を逆転させ、海は星々で吠えた。時間は酔いしれ、前後左右に同時によろめきながら進んでいた。
そしてその最中――
ザカリーは口元の血を拭い、舌打ちした。
「……退屈になってきたな。」
アレスは首を回し、神々しい筋肉が軋んだ。「同感だ。私はこれより強い抵抗力で神々を倒してきた。」
彼らの周囲で、山々が再び姿を現した。空はリセットされた。空間はまるで恥ずかしそうに、自ら縫い合わされた。
そして遥か上空のどこかで――
リサは眠っていた。
自らが作り出した浮遊するソファに丸まり、かすかによだれを垂らしながら、全く動揺していなかった。
彼女の助手ワンダ――ニャの冷静沈着で混沌とした姿――は、無表情な目で衝突を見守り、「量子空間の無駄遣いだわ。洗濯しなきゃいけないのに」と呟いた。
しかし、その時何かが変わった。
静寂。無限の束の間の休止。ザカリーは空中に浮かび、息を切らし、神聖な血と地獄の傷にまみれていた。
アレスは唸り声を上げ、拳を叩きつけた。「魔王よ、お前は本当にタフな奴だな」
「お前自身も悪くないぞ、戦争の神よ」ザカリーはニヤリと笑った。
ザカリーは肩を回した。「さあ、終わりにしよう」
アレスはゆっくりと頷いた。「賛成だ」
空気が静まった。
二人の戦士は後ずさりした。
そして――
アレスは手を挙げた。
虚空から武器が出現した。
凝縮された神の威力から鍛え上げられた、巨大なウォーハンマーと剣の融合体。天界よりも古いルーン文字が刻まれている。
その名は現実のあらゆる層に響き渡った。
神を砕く者。
傷つけるためではなく、外なる神々を滅ぼすために設計された武器。
ザカリーは目を細めた。
彼は自らの手を挙げた。
闇が凝縮した――影でも、虚空でもなく、意味の不在そのもの。その虚無から、一本の刃が生まれた。
漆黒、刃先は断片化された概念によって縁取られ、触れることを避けるためだけに空間を歪ませる。
コロレス――虚無の破壊者。
あらゆる存在の概念を断ち切る剣。
虚無さえも。
オリンピアの戦火の黄金色の炎に包まれたアレス。
ザカリーは深淵の紫に身を包み、堕落した世界の影がマントを掠めていた。
ワンダの目が見開かれた。
「…ああ、だめ。」
リサは身動きした。
「ん…?」と呟いた。
ザカリーとアレスは駆け出した。雄叫びを上げる戦士のように。
「ああああああああああ。」
二人は衝突した。
そして世界は悲鳴を上げた。
衝撃は光ではなかった。音でもなかった。
それは完全な断裂だった。
二つの刃がぶつかり合った――
現実が引き裂かれた。
混沌の世界は崩壊した。
衝突の中心から――ブラックホールが形成された。宇宙的なものではない。
これは概念特異点――存在、論理、感情、そして記憶さえも呑み込む虚空だった。
リサはハッと目を覚ました。
「何だって?私の世界!?」彼女は甲高い声を上げた。
ワンダは「言ったでしょ」と書かれたティーカップを静かに一口飲んだ。
もう遅すぎた。
ブラックホールは膨張し、すべてを吸い込み始めた。
魔界は真空へと叫びながら崩れ落ちた。
霊界は粉々に砕け散り、星屑と化した。
死すべき領域、魂界、そして下層界の基礎層さえも――消え去った。
全て。全ての者。
消え去った。
静寂。
そして――
一つの声。
「マルチバースを想え。」
虚空が割れた。
その言葉だけで、新たな誕生が爆発的に広がった。
無限の現実、
終わりのない階層構造、
数え切れない次元、
触れることのできない領域…
全てが、絶対的な創造の波動の中で、新たに生まれた。
下層界は再び創造された。
これは復活ではなかった。
これは再建だった。
すべての領域が復活した。
すべての都市が復興した。
すべての魂が生まれ変わった。
まるで何も起こらなかったかのように…しかし、誰もがそれを覚えていた。
復興した魔界の空高くから、リリア・フォスターが降り立った。
彼女はクレーターの上空に浮かんでいた。そこには、傷ついた二体の巨人――アレスとザカリー――が横たわっていた。血まみれで意識は朦朧としており、武器を失い、最後の激突の重みに耐えかねて折れていた。
地面は焦げていたが、宇宙の力によって癒されていた。
影が二人を覆った。
リリアは腕を組み、表情を読み取ることはできなかった。
彼女の背後にはニャが浮かび、たった今起こった出来事をホログラム映像で投影していた――リリアの不安定な想像力が再び現実を書き換えたのだ。
彼女の瞳は神々しいほどの苛立ちで輝いていた。
「あんたたち…全てを破壊したな。
瞬きをすれば、概念を殺し次元を消し去る剣でラスボスPvPをやっているようなもんだな。」
アレスはうめき声を上げた。「あいつが始めたんだ…」
ザカリーは咳払いした。 「決闘したかったんだ」
「現実を飲み込むブラックホールを作ったのね」
リサがジュースボックスを失くし、彼女の後ろに現れ、ばつの悪そうな顔をした。「言い訳になるけど、二人は楽しそうに見えたわ…」
リリアはため息をついた。彼女は手を挙げ、指を鳴らすと、すべてが安定した。大気のデータさえも。
「あなたたち二人、思考多元宇宙のバックアップがあってよかったわね」
ワンダは紅茶をすすりながら、浮かんで近づいてきた。「それに、あなたが気絶している間にデータを削除しなかったのもよかったわ」
アレスは瞬きをした。「彼女にそんなことができるの?」
「ええ」ワンダは無表情で言った。「私には『楽しむこと禁止』のあらゆるバージョンが詰まっているのよ」
ザカリーは寝返りを打った。「もう…休んでもいい?」
「だめ」リリアは答えた。「二人とも外出禁止よ」
二人はうめき声を上げた。
リサは手を叩いた。 「よし!現実がリセットされたんだから、おやつはいかが?」
皆は彼女を無視した。
遠くから見ていたオーレリアは、剣を落として床に座り込んだ。
「本当に」彼女は呟いた。「ただ普通の一日が欲しかっただけ。たった一日だけ。たった一日だけ。」
しかし、心の奥底では誰もが分かっていた――
諸界の戦争はまだ終わっていなかった。
神々はまだ駒を持っていた。
でも、今日が過ぎれば?
神々は彼らを送り込むことを躊躇うだろう。




