第18話 スライム災害
数時間後、私たちは冒険者ギルドへと這い戻った。
大きな両開きの扉がきしむ音を立てて開き、廊下にいた全員が私たちの方を振り返った。
私たちは大変な目に遭っていたに違いない。
ダリウス:鎧はへこみ、あらゆる隙間からグーが滴り落ちていた。
ケイル:眼鏡は修復不能なほどに割れ、ローブはスライムの塊でくっついていた。
ロナン:紫色のゼリーで髪が固まり、「早期退職」と呟いていた。
セレーネ:まだ意識がなく、まるでグーの洗礼を受けたかのように、頭からつま先までスライムまみれだった。
ライラ:顔をしかめ、殺意に満ちた精密さで弓弦を拭っていた。
私:輝く銀髪は虹色のスライムの塊でぺしゃんこになり、トーガは濡れた雑巾のように張り付いていた。
そしてルナは?
汚れ一つなかった。まるで神聖な人形のように私たちの後ろに浮かんでいて、完璧なツインテールにはグーの一滴もついていなかった。
ギルドホールは静まり返った。
受付係は書類から顔を上げ、目を見開いた。「ああ…なんて…神様。」
私たちは葬列のようにカウンターへと足を引きずって行った。
私はびしょ濡れになったクエスト用紙を机に叩きつけた。スライムの粘液が彼女の清潔な木製のカウンターに滴り落ちた。
「…終わったわ」と私はかすれた声で言った。
彼女は恐怖に震えながら、私を見て瞬きした。「…どうしたの?」
ロナンは鼻を鳴らした。「どうしたの?『スライムを1匹倒す』ってのがスライムタイタンに変わったのよ。」
ダリウスはうめき声をあげ、ヘルメットから粘液の塊を取り出した。「スライムと戦ったんじゃない。文明の終焉と戦ったんだ。」
ケイルの声がかすれた。「あれは生物学じゃない。ゼリー状の鎧を着た黙示録だ。」
受付係はただ私たちを見つめ、それからまだ光っている羊皮紙を見つめた。彼女はルナを一瞥し、それから私の方を振り返った。
「…それで…倒したの?」
私は頷いた。顎からスライムが滴り落ちた。「…ダークノヴァって技で。」
紫色のゼリーの塊が肩から落ち、彼女の書類に飛び散った。
彼女の丁寧な笑顔が歪んだ。
「…スライムを1匹倒すはずだったのよ」と彼女は囁いた。
私は弱々しく肩をすくめた。「倒したわ。ただ…ラスボス版ね。」
ギルドホールは大混乱に陥った。冒険者たちは叫び、笑い、コインを賭けていた。
「スライムクエストを爆破したの!?」
「あれが銀の女神?!」
「昨日も巨人を倒したって聞いたんだけど…」
「いやいや、あの後ろにいたロリが巨人を倒したのよ!」
「ちょっと待て、どっちが災厄なの?」
私はうめき声をあげ、ベタベタした手で顔を覆った。「……こんなのが普通の冒険者の人生じゃないはずなのに」
ガシャッ!
二階のドアが勢いよく開き、蝶番から外れそうになった。
ギルドホールにいた全員が凍りついた。
階段を轟音とともに降りてきたのは、まるで山のような体格の男だった。いや、いや、いや、腕の生えた山脈そのものといったところだ。肩幅は荷車のように広く、腕は木の幹のようで、筋肉はまるで朝食に王国をベンチプレスで持ち上げられるかのようだった。
彼の声はホールに響き渡り、酔っ払った冒険者百人分を合わせたよりも大きかった。
「受付係!!」
私はびくっとした。建物全体が、彼の声帯だけが攻城兵器レベルにまでレベルアップしたかのように揺れた。
かわいそうな受付係は、今にも気を失いそうだった。「え、はい、ギルドマスターですか?」
歩く山は足音を立てて近づき、一歩ごとにテーブルからマグカップが落ちていった。 「ただのスライムクエストがとんでもない国家的危機に発展したって報告があるんだぞ!説明してくれるか?!」
ギルドホールは静まり返っていた。冒険者たちは皆、息を呑んでいた。
受付嬢の視線が私に向けられた。それからルナへ、そしてまた私へと。
「…えっと。」
私は弱々しく、粘液を垂らした手を挙げた。「あ、こんにちは。」
ギルドマスターはゆっくりと頭を回した。巨躯が部屋の明かりを半分遮った。彼の視線は私に釘付けになった。スライムまみれの銀髪の女神が、まるでゼリーとのレスリングに負けたかのようなトーガをまとっていた。
彼の眉がぴくりと動いた。「…君か。」
私は甲高い声で言った。「…私?」
彼は破城槌ほどの指を私の方へ突き出した。 「七龍の名にかけて、一体何をしたんだ!?」
冒険者たちはひそひそと声を張り上げた。
「彼女は死んだ。」
「ギルドマスターの咆哮からは誰も生き残れない。」
「兄貴、女神をスープレックスしようとしている。」
答えようと口を開いたが、ルナが前に出て、金色のクーデレの瞳をガラスの下の虫のように山男に釘付けにした。
「…女主人。彼を消しましょうか?」
ギルド全員が一斉に息を呑んだ。
ギルドマスターは一度瞬きし、そして二度瞬いた。怒りの表情は、一瞬にして完全なパニックへと変わった。
「…何…消すんですか?」彼の高らかな声は、クッキーを盗んだ子供のようにかすれた。
私は両手で顔を覆い、手のひらに向かって叫んだ。「ダメよ、ルナ!ギルドマスターを消すなんて許さない!」




