第124話 深淵の物語
混沌と轟く流血の渦から遠く離れたどこかで…
輝く半透明の障壁の内側に、一人の少女が静かに座っていた。脚は体の下に丸まり、銀白色の髪は周囲で続く戦争の宇宙的な光をぼんやりと反射していた。神々、原初存在、そして怪物が、衝突のたびに現実を引き裂くのを、彼女は見守っていた。
ニリス、深淵の王の娘。
そして今…彼女は震えていた。
彼女は他の者とは違っていた。玉座の者とは違っていた。あのポケット次元に閉じ込められ、銀河を震わせるほどの力で戦っている者たちとは違っていた。彼女は破壊のために生まれたのではなかった。神殺しでもなかった。彼女は…彼ではなかった。
彼女の金色の瞳は伏せられ、一筋の涙が頬を伝った。
「…お父さん。」
彼女の意識は過去の渦に巻き戻った。
[4000億年前 ― 万物の終わりの始まり]
それは、宇宙戦争が終結し、ついにゾーンが創造された直後に起こった。ゾーンとは、あらゆる存在を下層、中層、高層、外層へと分割したものだ。大いなる均衡は回復されたが…しかし、生き残った者は皆無だった。
当時闇の君主と呼ばれていたガブリエル・コンカーは、あらゆる理解を超えた場所に投げ込まれた。現実を超えた牢獄。あらゆる神々をも超越し、概念さえも超越した場所。
真の虚空。
存在が死にゆく場所。
空間も、時間も、思考も、エネルギーも、論理も、記憶もない。
ただフィルターのない、終わりのない非存在。
そこに、傷ついたガブリエルは浮かんでいた。彼の体はゆっくりと溶解し、力は消え去っていった。
しかし、彼は消えることを拒んだ。
彼が再び動けるようになるまでには、幾億年もの歳月を要した。
彼が思考を形成するまでには、幾兆サイクルもの歳月を要した。
そして、さらに長い時間が経ってから…彼は計画を立てた。
彼は虚無の構造そのものに爪を立て――
何かを作り上げた。門。ポータル。忘却と現実を隔てる壁にできた亀裂。
そして彼がそこから抜け出すと――
彼は下層地帯の森へと落ちていった。
全ては――緑だった。温かく、目が痛くなるほど明るかった。
彼は弱っていた。かつての自分と比べて、無力だった。
それでも、太陽を感じたのは初めてだった。
彼はさまよい続けた。
叫び声が聞こえるまで。
何が起こっているのかを見ようと駆け寄ると、一人の少女が目に入った。
彼女は追い詰められていた。若い人間の女性――
槍を抜かれた部族の戦士たちに囲まれていた。
ガブリエルは考える間もなかった。彼は本能のままに動き、突進し、戦士たちの集団を惨殺した。
その後に続いたのは、虐殺だった。
血の霧が晴れると、そこに残ったのは彼女だけだった。怯え、混乱していた。
「あ…あなたは私を助けてくれたのね。」
ガブリエルは何も言わず立ち去ったが、少女はただ彼についてきた。
「言ったことは本心よ。
本当に感謝しているわ。」
彼女は逃げなかった。
「…お名前は?」彼女は優しく尋ねた。
ガブリエルは答えられなかった。もはや自分が誰なのか分からなくなっていた。
彼女は微笑んだ。
「じゃあ、あなたを…ガリと呼ぶわ。」
「ガ…ガリ?」
「そう、ガブリエルの略よね?」
ガブリエルは、何億年もの間、誰かが自分を恐れていなかったことに、今まで感じたことのない何かを感じた。
その日から、彼女はクロエと名乗り、二人は絆を深め始めた。
二人は笑い、語り合い、探検した。
ガブリエルは彼女に会うために彼女の村を訪れた。
そして時が経ち…
二人は恋に落ちた。
その愛から、二人は結婚し、子供を授かった。
ニリスが生まれた――
二つの世界の子。
半分人間、半分深淵。
それは長くは続かなかった。
村人たちは密室で囁き合った。
悪魔が彼らの間に入り込んだ。
ある女が彼の子供を産んだ。
冒涜だ。
神々は彼らを呪うだろう。作物は不作になるだろう。
それは罪だ。邪悪だ。間違っている。
ある夜、ガリは狩りから戻り、何かが起こっているのを目撃した。
村中の人々が集まっていた。
そしてクロエは…
彼女は火あぶりにされていた。
彼らは彼女を魔女、闇の娼婦、神への裏切り者と呼んだ。
クロエは自分の言い分を話そうとしたが、彼らは信じなかった。
そしてこうして。
彼らは彼女を生きたまま焼き殺した。ガブリエルは衝撃と信じられない思いで涙を流し、彼らが住む家が燃え盛るのを見守った。そして、中から叫び声が聞こえた。
「ニリス!!!」
彼は燃え盛る薪をかき分けて家へ駆け込み、揺りかごの中で泣くニリスの姿を見つけた。
ガブリエルが到着した時には遅すぎた。彼にできることは、炎が目に映る中、まだ数歳だった娘のニリスを抱きしめることだけだった。
彼女が眠る家は燃えていた。
彼は屋根が崩れ落ちる中、揺りかごから彼女を掴み、突進した。
そして彼らは走った。
遠くへ。
遠くへ。
夜明けが近づく崖の上に立ち、焼け焦げた布に包まったニリスを腕に抱えて。
ガリは虚空に囁いた。
「全てを滅ぼしてやる。」
神々を。
人間を。
原初を。
源を。
外を。
何も残らない。
彼だけ…
そして彼の娘。
そして深淵の王の誕生が始まった。
彼は真なる虚空へと帰還した。
だが今回は…彼はさらに多くのものを築いた。
王国。闇の聖域。
堕落した現実の骨から鍛え上げられた城。
彼はそれをアビス・レルムと呼んだ。
彼は精鋭の将軍たち、スローンズを創造した。それぞれが原初の神々と対極を成す――
エントロピー、グラトニー、マッドネス、ヌル、アナイアレーション、スローター、その他諸々。
知識の玉座ルシファロは彼に禁断の領域について教えた。
沈黙の玉座ザトロンは深淵の哲学の発展を助けた。
こうして、ガブリエル・コンカーはアビス・キングとして知られるようになった。
そして彼の娘…彼の後継者。
ニリスは理解できなかった。
彼女の父親は決して温かみのある存在ではなかった。彼は命令的で、力強く、そして冷酷だった。
彼は彼女に虚空の術を訓練した。
あらゆるルーンを暗記させた。あらゆる技。あらゆる禁術。
「汝は原初の存在さえも凌駕するだろう。」
「汝は深淵を受け継ぐだろう。」
「汝は絶対者とならねばならない。」
しかしニリスは――
彼女は彼とは違っていた。
彼女は破壊したくなかった。
彼女は学びたかった。
彼女は命令したくなかった。
彼女は助けたかった。
彼女は憎みたくなかった。
彼女は感じたかった。
彼女が傷ついた虚空の獣を癒した時、ガブリエルは彼女を叱責した。
彼女が侵入者を見逃した時、彼は彼女を罰した。
彼は理解できなかった。
そして彼女は許すことができなかった。
距離は深まった。
数千年が過ぎた。
玉座の間はますます冷たく感じられた。
そしてニリスは、深淵に愛が存在するのかどうか疑問に思い始めた。
[現在に戻る]
今、彼女はここに座っていた。
混沌から守られて。
父が原初のパンテオン全体と戦うのを見ていた。
神々が流星のように落ちていくのを見ていた。
失恋から生まれた父の憎しみが、すべてを終わらせる戦争へと駆り立てるのを見ていた。
しかし、彼女は母のことを思い出した。
笑い声を思い出した。
かつて温かかった父の手を思い出した。
心のどこかに…まだあの愛が残っていた。
そうではないのか?
ニリスは顔を上げた。
結界の向こうの叫び声が、一瞬止んだ。
閃光。
空を赤く染めるエネルギーの波動。
誰かが恐ろしい何かを解き放った。
彼女は立ち上がった。
山頂にリリアの姿を感じた。
父が捕らえた少女。
最初の女神の器。
彼が最後の願いを叶えてくれると願っていた者。
ニリスは拳を握りしめた。
「…お母さん。ごめんなさい。彼を止められるほどの力があるか分からない。
でも、やってみるわ。」
彼女のオーラが燃え上がった――
深淵の黒と、かすかに輝く白が混ざり合った。
彼女は手を伸ばした。
そして、障壁を下ろし始めた。




